米国証券取引委員会では上場大企業に対し、任意でのScope1・2の開示を要求

(文責:坂野 佑馬)

 2023年3月6日、米国証券取引委員会(SEC)は、気候関連事項のリスクと影響に関する上場企業の開示を強化する最終規則である「The Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures for Investors」を発表した※1。新規則はTCFD提言※2を基礎とし、投資家の投資判断に必要な上場企業の情報提供を目的としている。また、米国証券上場企業(米国企業、第三国企業問わず)を義務化の対象としているが、企業規模に応じて求められる要件やスケジュールが異なる。まず、表1にてSECにおける企業の類型を示す。

表1. 米国証券市場上場企業の類型

類型定義
大規模早期提出企業(large accelerated filer)
※「早期」とは定期報告書(Form10-K, Form10-Q, Form8-K)の提出期限が短いことを意味すると推察。 年次報告書であるForm 10-Kは事業年度終了後60日以内に提出する必要がある。
事業年度末において、以下のすべての要件を満たす会社:①議決権付株式及び無議決権株式につき、直近第2四半期の最終営業日において、世界規模の時価総額が700百万ドル以上(関連会社以外が保有するものに限る)、②12ヶ月以上、証券取引所法第13条(a)又は第15条(d)に基づく開示義務の対象となっていること、③1回以上、証券取引所法第第13条(a)又は第15条(d)に基づく年次報告書を提出していること、④小規模報告会社の特例の適用対象外であること
早期提出会社 (large accelerated filer)
※Form 10-Kを事業年度終了後75日以内に提出する必要がある。
事業年度末において、以下のすべての要件を満たす会社:①議決権付株式及び無議決権株式につき、直近第2四半期の最終営業日において、世界規模の時価総額が75百万ドル以上700百万ドル未満(関連会社以外が保有するものに限る)、②大規模早期提出会社に適用される上記要件のうち②③④を満たしていること
非早期提出会社(NAFs)
※Form 10-Kを事業年度終了後90日以内に提出する必要がある。
大規模早期提出会社及び早期提出会社の要件を満たさない企業
小規模報告会社(SRCs)①浮動株時価総額が250百万ドル未満、あるいは②直近の事業年度の収益が100百万ドル未満かつ株式非公開、もしくは直近の事業年度の収益が100百万ドル未満で浮動株時価総額が700百万ドル未満の企業
新興成長企業(EGCs普通株式の売却を行っておらず、直近の事業年度の年間総収入が12億3,500万ドル未満の企業

出典:SECのHPを参考にBCJ作成

 新規則は2022年3月にSECより発案されて検討が進められてきたが、規則案の段階ではScope3のGHG排出量に関しても報告義務を課される企業にとって厳しい規則であると注目を集めていた。その結果、此度の最終規則の採択に際し、開示項目・内容に対する要求事項に関して規則案から縮小されることとなった。以下に主な変更点を列挙する。

【規則案からの主な変更点】

  • Scope1・2のGHG排出量の開示を、重要な場合に限り、大規模早期提出会社(large accelerated filer)及び早期提出会社(large accelerated filer)のみに対して義務付ける
  • 全上場企業に対するScope3のGHG排出量の開示義務の撤廃
  • GHG排出量開示に関する第三者保証の受領要件の緩和と拡大
  • 適用スケジュールを延長し、大規模早期提出会社には(1) 開示を提供するのに2年、 (2) GHG排出量情報および他の特定の開示を提供するのに3年、 (3) GHG排出量に関する限定的保証を得るのに6年の準備期間が与えられる。
  • 小規模報告企業 (SRCs) 、新興成長企業 (EGCs) 、および非早期提出会社は、GHG排出量開示と関連する第三者保証の要求事項を免除される。

 公開企業が求められる開示項目については表2に、適用スケジュールに関しては表3に整理した。

表2. SEC最終規則にて要求される開示内容

項目開示内容
ガバナンス上場企業の取締役会(またはその下部委員会)と経営者が、開示された気候関連の目標・ゴール、または移行計画に向けた進捗を含め、気候関連リスク評価と管理をどのように監視するか。
戦略・ ビジネスモデル・ 展望気候関連リスクが、ビジネス戦略、経営成績または財務状況にどのように重要な影響を及ぼしたか、または及ぼす可能性が合理的に高いか。 識別された戦略・ビジネスモデル・展望 気候関連リスクが、上場企業の戦略、ビジネスモデルおよび見通しに、実際にまたは潜在的にどのように重要な影響を及ぼすか。上場企業が インターナルカーボンプライシングを使用し、その使用が気候関連リスクの評価方法にとって重要である場合、その価格およびその他の特定の情報。上場企業が気候関連リスクに関連してビジネスを評価するためにシナリオ分析を使用し、その分析に基づいて、気候関連リスクが重要な影響を及ぼす可能性が合理的に高いと決定した場合は、シナリオ、仮定および予測される財務影響の説明。
リスク管理気候関連リスクを識別、評価、管理するための登録企業のプロセスおよびこれらのプロセスが上場企業の全般的なリスク管理プログラムに統合されているかどうか。
目標・ゴール上場企業の目標・ゴールがビジネス、経営成績または財務状況に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、「活動の範囲」、「時間軸」、「計画」、「進捗」等の情報を開示
GHG排出量指標
(重要な場合)
大規模早期提出企業および早期提出企業はScope1 GHG排出量(登録企業が所有または管理するGHG排出量)およびScope2 GHG排出量(購入または取得した電気、蒸気、熱または冷却)をオフセットを考慮する前の数値で開示しなければならない。
Scope1・2 GHG排出量の 第三者保証大規模早期提出企業および早期提出企業は開示したScope1・2 GHG排出量に関して、限定的保証及び合理的保証(大規模早期提出企業のみ)を提出する必要がある。
異常気象及び その他の自然条件 による影響異常気象現象およびその他の自然条件(例えば、ハリケーン、竜巻、洪水、海面上昇)の結果として生じた費用化された支出および損益計算書で認識された損失の合計。異常気象現象およびその他の自然条件により資産計上された資本的支出および費用の合計。

出典:SEC「The Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures for Investors」を基にBCJ作成

表3. 最終規則の適用スケジュール

類型開示項目
重要な支出と 影響およびGHG 排出量の開示を除く財務諸表の開示およびその他すべての開示重要な支出 および影響に 関する開示Scope1・2 GHG排出量の開示Scope1・2 GHG排出量の第三者保証
大規模早期提出会社2025 会計年度2026 会計年度2026 会計年度限定的保証:2029会計年度 合理的保証:2033会計年度
早期提出会社 (SRCsおよびEGCsを除く)2026 会計年度2027 会計年度2028 会計年度限定的保証:2031会計年度 合理的保証:不必要
非早期提出会社 小規模報告会社 新興成長企業2027 会計年度2028 会計年度不必要不必要

出典:SEC公表のファクトシートよりBCJ作成

 SECの新規則の中ではGHG排出量に関する情報開示に関して、主に大企業(直近第2四半期の最終営業日において、世界規模の時価総額が75百万ドル以上)を対象にしていることが分かる。此度の対象はSEC登録企業に限定されている為、日本企業として対象となるのはトヨタやソニー等の超大企業数社だけとなる。
 また、「時価総額75百万ドル以上(約110億円)」という条件に目を向けてみると、日本市場の中で該当する企業は約2430社のみである(2024年3月18日現在)。日本では、2023年1月31日に有価証券報告書(有報)での開示内容を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」(開示府令)※3等が改正され、有報内でサステナビリティに関する情報開示が開始され、有報を提出する企業はサステナビリティ情報開示の一部として、企業が重要であると判断した場合にGHG排出量等のサステナビリティ関連のリスク及び機会の実績を評価・管理するために用いる情報を記載することが求められている。関東財務局が公表しているデータから2022年度の有報提出企業数は4,371社であった※4。以上を踏まえると、日本の有報での開示義務化の展開の方がSEC新規則の展開と比較しても、より広範にGHG排出量開示義務化の網をかけていると評価できるのではなかろうか。

 弊社NEWSでも度々紹介させていただいているが、世界各国でSECの新規則のような気候変動関連の情報開示義務化の展開は加速してきている。此度の規則でこそ現状としては日本企業に直接の影響は少ないが、今後の既存規則における義務化範囲の拡大や新規則の発出に関する情報は感度高く収集してもらいたい。弊社としてもその一助となれるよう、情報提供を継続していく。

引用

※1 https://www.sec.gov/news/press-release/2024-31

※2 https://tcfd-consortium.jp/about

※3  https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=348M50000040005

※4  https://lfb.mof.go.jp/kantou/disclo/pagekthp019000026.html