世界で覇権争いが展開される再生可能燃料(Renewable Fuel)
~大気中のCO2から燃料を製造するなど、あらゆるモビリティを対象に展開へ~

(文責:坂野 佑馬)

 近年の世界的な脱炭素化の潮流の中で、運輸部門の中でも電動化が難しいとされているモビリティである船舶、航空機、トラックに関して、再生可能燃料(Renewable Fuel)の活用に注目が集まっている。弊社Newsでも度々紹介させていただいているが、次世代型バイオ燃料(Renewable Diesel Fuel等)やe-fuel(グリーン水素を活用して製造した合成燃料)、そしてグリーン水素がこの再生可能燃料に当てはまる。再生可能燃料という表現は日本ではあまり取り上げられないが、欧米では従来の化石燃料由来の燃料に対するコスト競争力を高めるべく、世界各国で我先にと様々な研究開発・実証実験が展開されていることからエネルギー業界では頻繁に記事も紹介されている。米国ではRenewable Fuel Standard : RFS制度※1が2007年から施行しており、製油業者に対し、ガソリンまたはディーゼル燃料にエタノールなどバイオ燃料の一定量の混合を義務付けている。製油業者は自身に割り当てられた混合量を達成するか、達成できない場合などは再生可能識別番号(RIN)と呼ばれる市場で取引可能なクレジットの購入を求められる。本稿では、再生可能燃料の中でも次世代型バイオ燃料に関するEUおよび米国における研究開発の動向を紹介したい。

 各国における事例を紹介する前に、次世代型バイオ燃料に関して簡単に説明させていただく。次世代型バイオ燃料とは、石油由来のディーゼル燃料やジェット燃料の代替物として既存の内燃機関等を改変することなく利用できるドロップイン燃料に分類されるバイオ燃料である。
 次世代型バイオ燃料の製造方法は多岐に渡り、種別も複数存在する(図1)。代表的なものとしては廃棄植物油を水素化させることで製造するHVO(Hydrotreated Vegetable Oil)が挙げられる。一部ジェット燃料として活用できるように調整されたものはSAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれている。

図1. 次世代型バイオ燃料の製造プロセス一覧

出典:NEDO技術戦略研究センター作成2017)

 さて、以下に研究開発の動向に関して紹介させていただきたい。

  • EUにおける次世代型バイオ燃料関連の研究開発

 EUの研究・イノベーションのための主要な資金調達プログラムである「Horizon Europe」において、前期(Horizon Europe 2020, 2014~2020)※2では次世代型バイオ燃料及び合成燃料に係る15の技術開発プロジェクトが推進されていた。以下にHorizon Europeで開発が進む次世代型バイオ燃料プロジェクトを紹介する。

表1. Horizon Europe 2020 における次世代型バイオ燃料に係る技術開発の概要

プロジェクト名概要
BIOFIT「紙・パルプ」、「第1世代バイオ燃料」、「化石燃料製造」、「発電所」、「熱電併給プラント」それぞれの業界に焦点を当て、既存の施設や設備をバイオ燃料が活用できる最新設備に改修する方策の検討を実施。
4REFINERY多様なバイオマス原料からバイオマスオイル製造のコスト効率の最大化を図った。また、既存の化石燃料の製油所を活用することで、新たな生産設備を建設することなく、バイオ燃料の製造所へと再構築することが可能であることを示した。
eForFuel遺伝子改変した大腸菌の代謝経路を活用し、再生可能な資源から得られる余剰電力および産業界から排出される廃棄物からバイオ燃料を製造する技術を高効率化することに成功。
REDIFUEL's原料として木材残渣を採用し、スペイン国立研究評議会(CSIC)が開発した革新的な触媒を活用した反応機構で製造を行うことで、高純度のバイオ燃料を得ることに成功した。しかし、コスト競争力の低さが課題として残った。
HyFlexFuel多様な原料(下水汚泥、藻類、藁)から水熱液化法を用いて、商用規模でのバイオ燃料製造の実証に成功した。下水汚泥を原料に用いたものに関してはコスト競争力も担保できると示した。
COMSYNバイオマスのガス化における、不純物の除去工程を簡略化することで、製造コストを大幅に削減することに成功した。
ABC-SALT分解されにくいリグノセルロース系廃棄物(トウモロコシの茎葉、藁、製紙工場の廃棄物等)を溶解塩で処理することにより、効率的に分解させることに成功した。
TO-SYN-FUEL熱触媒改質法(Thermo-Catalytic Reforming 、TCR®)を利用した、バイオ燃料製造を効率化した。独・バイエルン州において同技術の産業への応用が計画されている。

出典:欧州委員会のHPよりBCJ作成

  • 米国における次世代型バイオ燃料関連の研究開発

 2023年1月26日に、米国エネルギー省(DOE)は、農業廃棄物、大豆油、動物性脂肪などのバイオマスから作るバイオ燃料製造プロジェクトに1億1,800万ドルを拠出すると発表した。こうしたプロジェクトへの投資は、DOEが同月に発表した輸送部門の脱酸素化を目指す戦略計画「輸送の脱炭素化に関する米国の青写真」※3や、2022年9月に発表した「2050年におけるSAFの100% 化に向けた工程表」※4における目標に沿うものであるとされている。以下に米国の次世代型バイオ燃料に係るプロジェクトを紹介する。

表2. 米国の次世代型バイオ燃料に係る技術開発の概要

企業名概要
Algenesis 社藻類バイオマス由来のバイオ燃料製造において、持続可能なポリウレタンを副次的に生産することでコスト競争力を担保する技術の実証。
Captis Aire
合同会社
木屑をガス化したもの(テルペン)を改質することで100% SAF(現在、通常のSAFは化石燃料と混合して利用されている)を製造する技術の実証。
Comstock 社リグノセルロース系バイオマスを原料とした、従来の製造手法よりもバイオ燃料の収率、コスト効率を劇的に向上させた新たな製造手法の実証。
Global Algae Innovations直接空気回収(Direct Air Capture)によって得られたCO₂のみを藻類に供給し、藻類培養によりバイオ燃料を製造する技術のスケールアップ。
MicroBio Engineering 社流動床を活用した藻類の培養によるバイオ燃料製造技術の実証。
水熱液化(HTL)と超臨界水酸化(SCWO)技術を統合した革新的な統合HTL-SCWOバイオリファイナリー手法によるバイオ燃料製造の実証。
Research Triangle Instituteトウモロコシの茎から熱分解反応を活用してバイオ燃料を製造する一連の反応プロセスについて、各プロセスにおける収量と品質を最大化するための実証。
California: Riverside 大学広葉樹バイオマスから高品質リグニンを得るための触媒を活用した反応槽のスケールアップ。
Utah 大学高温・高圧・乱流で運転されるエントレインフロー型ガス化炉によるバイオマス燃料製造のスケールアップ。
Viridos 社遺伝子組み換えを施した藻類を活用した大規模バイオ燃料製造の実証。
LanzaTech 社小・中規模でのバイオ燃料製造とバイオチャー生産の実証。
Alder Fuels
合同会社
既存の精油インフラにバイオマスの熱分解設備を統合し、バイオ燃料製造を行う。
AVAPCO
合同会社
セルロース系のSAFとRenewable Diesel fuel を製造する過程の副産物としてセルロース系糖類及びタイヤ・ゴム用のナノセルロースゴムを生産する製造プロセスの確立。

出典:DOEのHPよりBCJ作成

  • 日本における次世代型バイオ燃料関連の研究開発

 日本国内においてもNEDOを中心として、バイオ燃料に関連した技術開発は推進されている(図2)。現在進行形で展開されているプロジェクトとしても「バイオジェット燃料生産技術開発事業」があり、「原料の多様化」、「微細藻類利用における安定大量培養技術の確立」、「バイオアルコール利用等新規のバイオジェット燃料製造技術の採用」等によりSAFを安価かつ安定的に製造する技術開発に取り組んでいる。また、バイオマス原料の調達から航空機へのSAFの搭載までも含めたサプライチェーン構築を見据え、2030年頃の商用化を目指している。

図2. バイオ燃料関連のNEDOプロジェクトの全体像

出典:坂西欣也「バイオエタノールの研究動向と今後の展望(2021)」

 世界的なバイオ燃料製造のトレンドとして、コスト競争性を確保するために、バイオ燃料製造手法の研究のみならず、製造に係るサプライチェーン全体の見直しを検討する潮流にあることが伺える。船舶の次世代燃料は既に多様化しており、先進的な取り組みとして大気中のCO2を吸収して航行しながらe-fuelを製造し利用する研究も推進されている。EV化一辺倒であった自動車の次世代駆動に代わって世界のモビリティの一大潮流になる可能性は否定できない。

引用

※1  https://www.epa.gov/renewable-fuel-standard-program

※2 https://research-and-innovation.ec.europa.eu/funding/funding-opportunities/funding-programmes-and-open-calls/horizon-2020_en

※3 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-01/the-us-national-blueprint-for-transportation-decarbonization.pdf

※4 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.energy.gov/sites/default/files/2022-09/beto-saf-gc-roadmap-report-sept-2022.pdf