EU法規制から波及するCFP活用の潮流

(文責:坂野 佑馬)

 近年、国内外問わず製品カーボンフットプリント(CFP;Carbon Footprint of Products)の算定に向けた展開が活発化してきている。CFPは、原材料から生産、流通・販売、使用、廃棄・リサイクルといったライフサイクルの各段階の温室効果ガス(GHG)排出量を合計して算出される。企業の気候関連情報開示などにおけるScope1・2・3排出量は、企業全体や部門別といった「組織単位」の排出量であるのに対して、CFPは「製品単位」の排出量を示したものである。
 海外の中でも特にEUでは多くの製品においてCFPが算定され、一部の製品カテゴリーでは表示義務化を検討する動きも見られる。また、CFPから更に発展した取組ではあるが、「GHG排出量(気候変動)」だけでなく「オゾン層破壊」や「電離放射線」、「光化学オゾン層生成」等の合計16項目の環境影響領域に関しても環境負荷を可視化する環境フットプリント(Environment Footprint)※1の展開も加速させている。

 さて、EUにおいて先行しているCFPの展開であるが、展開している法規制の中にもCFPを活用しているものがある。

 1つ目は、炭素国境調整メカニズム規則(CBAM;Carbon Border Adjustment Measure)※2という法令である。CBAMでは対象製品(鉄、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力等)をEUに輸入する事業者は、製品の製造過程で排出されるGHGの排出量を四半期ごとに提出することが義務付けられることとなっている。先ず、2026年1月1日の本格施行に向けた緩和措置として、移行期間(2023年10月1日~2025年12月31日)を設けられ、この移行期間中は報告義務のみが課される。EU ETSの炭素価格と同等の支払いが義務付けられるのは、本格適用が開始される2026年1月1日以降となる。

図1. CBAMの概要図

出所:一般財団法人日本エネルギー経済研究所の公表資料より引用

 CBAMでは、対象となる製品カテゴリーに加えて、製品の生産に必要な中間材の製造プロセスも排出量算定の対象としている。つまり、CBAM対象製品の最終製造段階のGHG排出量だけでなく、バリューチェーン上流の中間製造段階の排出量も算定・報告の対象になり、ライフサイクル全体の排出量の算定が必要となることを意味している。その際、鉄・鉄鋼、アルミニウム、水素は直接排出量(direct emissions)のみを、セメント、電気、肥料は直接排出量と間接排出量 (indirect emissions)を算定するように規定されている。 ちなみに、直接排出量は「製品の製造プロセスに由来する排出量であり、当該プロセスで必要となる温冷熱の生成に係る 排出量(生成場所によらず)も含む」と定義され、温冷熱を外部調達した際の排出量も含まれることになる。一方、間接排出量は「製品の製造プロセスにおいて消費した電力の発電に由来する排出量 (発電場所によらず)」と定義されている。 ここでは、GHGプロトコルのScope1・2の考え方とは異なっていることには注意してもらいたい。

 2つ目として紹介する法令は、EUバッテリー規則(EU Battery Regulation)※3である。2023年8月17日に施行された同規則は、バッテリー製品の原材料調達から設計・生産プロセス、再利用、リサイクルに至るライフサイクル全体における様々な要求事項を規定している。複数ある要求事項の1つとして、電池の製造・廃棄時のCFPの表示を義務づけている。CFPの申告開始時期はバッテリーの種類ごとに定められており、電気自動車(EV)バッテリーの場合は2025年2月18日から適用される予定となっている。
 EUバッテリー規則におけるCFP算定ルールに関しては、2024年2月を期限に採択が予定されている「CFP算定方法に関する委任法」を待つ必要があるが、現状公開されている方法論として、欧州連合合同調査センター(JRC;Joint Research Centre)が公表している「Rules for the calculation of the Carbon Footprint of Electric Vehicle Batteries (CFB-EV)のFinal draft」※4等がある。このガイドラインを参照すると、EUバッテリー規則に対応するためのCFPの算定は、原則として1次データを利用しなければならないとしている他、2次データとして利用できるデータベースに関しても限定している(表1)。

表1.  「Rules for the calculation of the Carbon Footprint of Electric Vehicle Batteries (CFB-EV)のFinal draft」にてCFP算定用に指定されている排出原単位2次データベースのリスト※5,6

出典:JRC「Rules for the calculation of the Carbon Footprint of Electric Vehicle Batteries (CFB-EV)のFinal draft」及びEPLCAのHPを参考にBCJ作成

 さて、EUにおける展開を受けてか、中国政府においてもCFPを活用する展開が進められている。中華人民共和国の国家発展改革委員会(NDRC;National Development and Reform Commission)、工業情報化部(MIIT)、市場監督管理総局(GAMSA)、住宅・都市・農村開発部(MOHURD)、交通運輸部(MOT)は共同で2023年11月22日に、「CFP管理システムの構築加速に関するガイダンス」を発表した※7。同委員会によると、2025年までに、約50の主要製品のCFP算定規則と基準を国家レベルで導入し、2030年には主要製品200品目をカバーする範囲まで拡大する計画としている。また、主要産業のCFP算定に必要となるデータベースを構築し、CFPラベル認証制度を整備するとも公表している。

 EUの展開を皮切りに全世界的にCFPを活用した規制等の展開が広まりつつある。CFPの展開は規制に限った話ではなく、「政府による公共調達への活用」や「金融機関が主導する情報開示義務の展開」等、多岐に渡る。その中でも現状として事業者がベンチマークすべきEUの展開を中心に紹介させていただいた。まず、EUにおける展開からCFPの要点を掴んでいただきたい。弊社としても、そのお手伝いをさせていただくことが出来れば幸甚である。

引用

※1  chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H30FY/000614.pdf

※2  https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en

※3  chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32023R1542

※4  chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://eplca.jrc.ec.europa.eu/permalink/battery/GRB-CBF_CarbonFootprintRules-EV_June_2023.pdf

※5  https://eplca.jrc.ec.europa.eu/LCDN/contactListEF.html

※6  https://eplca.jrc.ec.europa.eu/LCDN/contactListILCD.html

※7  https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/zcfb/tz/202311/t20231124_1362231.html