CDRが今後の脱炭素化市場の主戦場及びゲームチェンジャーに
~マイクロソフトはDAC由来のクレジットを購入~

(文責:青野 雅和)

1.世界のCO₂排出量はあと少し

 世界平均気温の上昇と、過去に人間の活動によって排出された「累積の」CO₂排出量に比例関係があることが解っている。IPCCは2021年の6次報告書で人間活動が気候変動の原因である可能性は「疑う余地がない」と明文化し温暖化の抑制を促している。

 Global Carbon Badget 2022によると、地球温暖化を1.5°C、1.7°C、2°Cに抑える可能性が50%ある場合の地球全体のCarbon Badgetの残りは、2023年から9年、18年、30年(2022年の排出レベル)に相当する。1850年以降、CO₂は2,495Gtが排出されたわけであるが、CO₂は大気中に長期間とどまるため、大気中に排出されると過去のCO₂排出に累積され温室効果が持続する。下記の図のように2°Cは1.5°Cよりも多くのCO₂排出が排出されることとなる。

図 大気中のCarbon Badget

出典:Global Carbon Project「Global Carbon Badget 2022 」より引用

 大気中のCO₂を物理的または化学的に分離・濃縮する技術Direct Air Capture(以下DAC)は2050 年カーボンニュートラル社会の実現に 必要不可⽋な技術となりつつある。回収したCO₂は化学製品の原材料として利用されたり、燃料の原材料の一つとして活用されたり建材に貯留することで大気中のCO₂を削減することに貢献できるわけである。
 2023年4月20日の「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム(MEF)」首脳会合において、米国がCarbon management challenge構想を発表した。2030年までにCCUS・CDR(Carbon Diaxis Removal二酸化炭素除去)等により参加国合計で年間1.5GtのCO₂回収を目標としていくと表明。日本でもCDR市場創出にかかるルール形成に関して、経済産業省が検討を進めており、CDRの測定、報告及び検証(MRV: Measurement, Reporting and Verification)や各技術特有のルール形成について議論を推進している。

2. DAC由来のクレジットの購入

 ① 米テクノロジー大手マイクロソフト社
 米テクノロジー大手マイクロソフト社は2023年9月7日に、DAC開発企業のHeirloom社 からCDRクレジットを購入する長期契約を締結した。この契約では、マイクロソフトはHeirloom社より複数年にわたり最大315,000トンのCDRクレジットを購入する。
 Heirloom社はカリフォルニア州ブリスベンでアメリカ唯一のDAC施設を運営しており、当社の施設で回収された CO₂は、当社のパートナーである CarbonCure によってベイエリアの建築プロジェクトで使用されるコンクリートに永久的に貯留される。セメント生産は世界のCO₂の排出量の約7%を占めることからネガティブ・エミッションとなることのインパクトは絶大である。
このクレジットは、Heirloom社が今後米国で展開する2つの商業施設で生成され、「2050年までに同社が排出したすべてのCO2を除去するというマイクロソフト社をサポートする」と発表している。
 マイクロソフト社は、2023年9月までの会計期間に500万t近くの炭素クレジットを契約する計画を今年初めに発表しており、世界最大の炭素排出権買い手として広く知られている。
 Heirloom社の技術は、石灰岩の自然な性質を利用して大気中のCO2を回収し、コンクリートなど様々な方法で永久に貯蔵する。同社は2月、カナダの新興企業CarbonCure社およびUS Concreteの事業会社であるサンホセのCentral Concrete社と共同で、DACで回収したCO2をコンクリート中に永久貯蔵することを発表。マイクロソフト社はこの技術で貯留することで創出されるCDRクレジットを購入する。

② オンライン小売大手のアマゾン社
 同社は、DAC開発企業の1PointFive社から25万tのCDRクレジットを購入する10年契約に合意し、別途、Climate Pledge Fundを通じて上述したDAC技術企業のCarbonCaptureに投資する。ちなみに1PointFive社は米エネルギー会社Occidental Petroleum社の低炭素ベンチャー事業の子会社である
 1PointFive社の技術は大型ファンを使用して施設内に空気を引き込むこみ水酸化カリウム化学溶液と反応させ、その後CO2を濃縮させる。濃縮されたCO2は塩水貯留層に貯蔵される。同社は1PointFive社初の商業規模のDACプラントであるStratosから得られるCDRクレジットを購入する。Stratosは現在テキサス州に建設中で、2025年の操業開始を予定している。同施設が完全に稼働すれば、年間50万トンの二酸化炭素(tCO2)を回収できる見込みとなる。
 1PointFive社のCDRクレジットは日本のANA社も購入する。同社は、2025年から3年間で合計3万トン以上のCDRクレジットを調達する予定。

 DACは既に日本の多くの重工業企業が開発を進めているものの、商業化という点では欧米のベンチャーの活躍が目立つ。日本の商社も欧米のベンチャーと提携している事例が多い。既にCDRクレジット化している点が先を進んでいる証拠である。DACはより小型化され将来は工場等で利用される技術となるであろう。

[ⅰ]

https://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/22/files/GCP_CarbonBudget_2022.pdf

[ⅱ]

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/negative_emission/pdf/004_05_00.pdf

[ⅲ]

https://www.heirloomcarbon.com/