2024年1月以降、中小企業向けSBTの対象企業の条件が変更へ

(文責:青木 翔太)

 2023年11月1日、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi:Science Based Targets initiative)は、2024年1月1日より中小企業向けSBTの対象となる中小企業の定義を変更する旨を発表した。※1  SBTiは、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、CDP(英国に本拠地を置く国際環境NGO)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4つの機関が共同で設立した、国際的な気候変動イニシアチブである。企業は、SBTiからSBT認定を受けることで、自社の温室効果ガスの排出削減目標がパリ協定の水準(産業革命以前に比べて、世界の平均気温の上昇を2℃以下に、できる限り1.5℃に抑える)に整合していることを、対外的に示すことが可能となる。

 SBT認定には、通常版と中小企業向けの2種類があり、現在の中小企業向けSBTの対象企業は、「従業員数500人未満且つ非子会社・独立系企業」を満たす企業とされている。中小企業向けSBTは、2020年4月より導入が開始されており、削減対象範囲がScope1,2に限定されていることや、認定に係る費用が低価格であることから、通常版のSBTと比較して申請プロセスが容易である。(表1参照)

表1 中小企業向けSBT(2023年12月末まで)と通常版SBTの違い

出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」より引用

  さて、話を元に戻す。SBTiが今回変更された中小企業向けSBTの定義を以下に示す。

【必須条件】

・「Scope1」 及び「ロケーション基準手法※2でのScope2」 の合計排出量が10,000 tCO2e 未満である

・海上輸送船を所有または管理していない

・発電設備(再生可能エネルギーの発電設備は除く)を所有または管理していない

・金融機関または石油・ガス部門に分類されていない

・通常版SBT認定を取得している企業の子会社ではない

 また、上記の必須条件に加えて、下記の2つ以上を満たす必要がある。

・従業員数が250人未満

・売上高が4,000万ユーロ未満(64億4,000万円 1ユーロ=161円換算:2023.11.9時点)

・総資産が2,000万ユーロ未満(32億2,000万円        〃         )

・森林、土地、農業 (FLAG:Forest, Land and Agriculture) 部門に分類されていない

 上述のように、中小企業向けSBTの対象企業となる条件が、従来よりも細かくなり、従業員数が500人から250人と半数となった。2024年1月以降に中小企業向けSBT認定取得を検討している企業の方々については、自社が対象企業に該当しているかどうかを改めて確認していただきたい。

 ここで、SBT認定に関する日本の動向について触れよう。環境省によると※3、2015年以降、SBT認定を取得する国内企業は年々増加し続けており、2023年9月30日時点での国内SBT認定企業数は601社となっている。また、国内SBT認定企業601社の内、453社の約7割を中小企業が占めている。
 SBT認定企業を評価する動きも出ている。国土交通省が管轄する土木工事の入札がその例として挙げられ、SBT認定を取得した企業を加点対象にする地方整備局が5局存在している。また、東京都水道局が発注する建設工事においても、SBT認定が入札時の加点対象となっている。(2023年4月1日以降に告示等が行われている契約案件から適用)※4 このような入札の加点項目としてSBT認定が評価されかけていることから、SBT認定を取得する中小企業も今後は増加していくのではないだろうか。

 日本では、環境省が「中長期排出削減目標等設定マニュアル」※5や「SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック」※6を策定しており、企業のSBT認定取得を推進している。また、経済産業省が2023年2月10日に公表した「GX※7実現に向けた基本方針」※8では、「中堅・中小企業のGX推進」についても言及されており、大企業のみならず中堅・中小企業も含めたサプライチェーン全体でのGXの取組が不可欠であるとしている。

 中小企業にも脱炭素への取り組みが求められる中、弊社としてもGHG排出量算定支援(Scope1,2) GHG排出量算定支援(Scope1,2) - BAUM Consult JapanやSBT認定取得支援中小企業の皆様にSBT認定の取得を支援致します - BAUM Consult Japanなどのサービスを通じて、中小企業の脱炭素経営を支援させていただいている。ご要望があれば是非お声掛け頂きたい。

参考資料

※1

https://sciencebasedtargets.org/small-and-medium-enterprise-sme-target-setting-process

※2

ロケーション基準手法:

特定の地域(国)に対する系統網の平均排出係数を用いてCO2排出量を算定する手法

※3

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html

※4

https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/files/items/19990/File/20230306-01.pdf

※5

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/GHG_target_settei_manual.pdf

※6

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/datsutansokeiei/SBT_GHGkeikaku_guidbook.pdf

※7

GX(Green Transformation):

化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換すること

※8https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002_1.pdf