国際的な水素社会構築に向けてCOP28で合意
～平行して、水素のCFP算定に関する新ISO規格が公表される～
s.aoki(文責：坂野 佑馬)
2023年12月5日、アラブ首長国連邦・ドバイにて開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議（COP28）の一環として、「水素に関するハイレベル円卓会議（High-Level Roundtable on Hydrogen）」が開催された。※1円卓会議では、日本を含む30 カ国以上による「再生可能で低炭素な水素および水素派生物の認証制度の相互承認に関する COP28 意向宣言」への合意がなされた。同宣言の賛同者は、世界的な脱炭素化とエネルギー需要の充足においてクリーンな水素が重要な役割を果たすことを認識し、水素認証スキームの相互承認を確立し、世界市場への拡大促進に貢献することを目指している。
同時に、国際標準化機構（ISO）は水素の温室効果ガス（GHG）排出量評価に関する新たな方法論を発表した。新たなISO規格は「水素の製造、調整、消費までの輸送に関連する温室効果ガス排出量を決定する方法論（ISO/TS 19870:2023）」※2であり、水素のカーボンフットプリント（日本ではCFP；Carbon Footprint of Products と表現されることが多い）を評価するための国際的な方法論となる（図1）。
同規格では。電気分解、CCS付きSMR（水蒸気メタン改質法；Steam Methane Reforming）、CCS付き石炭ガス化法、CCS付きATR（自己熱改質法；Autothermal Reforming）、工業用途における副産物としての水素、バイオマス廃棄物を原料とする水素等、多くの水素製造方法に関する要件と評価方法を提供する。また、水素の液化、水素キャリアとしてのアンモニアの製造・輸送・分解、液体有機水素キャリア（LOHC；Liquid organic hydrogen carriers）の水素化・輸送・脱水素など、多様な形態への変換によるGHG排出も考慮している。
さて、COP28のパネルディスカッションでオランダのシグリッド・カーグ副首相は、「ISOの新規格は画期的なものである。再生可能で低炭素な水素の長距離輸送を、歴史上初めて国際的な規模で可能にする。」と発言した。その一方で、世界の批評家からは新規格がグリーンウォッシュに繋がるという指摘も上がっている。欧州の非営利・非政府組織であるBELONAの再生可能エネルギーシステム担当シニア・ポリシー・アドバイザーであるマルタ・ロヴィソロ氏は、ISOの新規格には排出量規制が規定されておらず、「クリーンな」水素を定義する責任は各国にあり、その結果、複雑でバラバラな水素貿易の状況を招きかねないと懸念を表明した。※3
図1. ISO/TS 19870:2023適用範囲のイメージ図
出所：ISO/TS 19870:2023
時を同じくして、COP28では現東京都知事を務める小池百合子氏が東京に水素取引所を開設する構想を発表した。※4都は、株式市場のような水素専門の取引所を整備し、最も安い売値を示す売り手と最も高い買値を示す買い手を仲介する。水素の取引所に関連した取組は弊社NEWS（2023年6月12日発表）にて紹介したドイツのH2Global※5における展開が世界を先導しており、今回の都の構想に関しても、都は同機関からノウハウの提供を得ながら検討を進めるとしている。実現されれば、日本の水素社会の促進に大きく貢献することになるのではないだろうか。ただ、こうした取り組みを一自治体が推進すべきなのか否かに関しては、民間事業者からも意見が出され、議論されるであろう。
今回のCOP28で示された国際的な水素社会実現へ向けた各国の意思表示は歓迎されるべきものであると考える。比較的に再生可能エネルギー資源に乏しい日本においては、海外から調達される水素をどのように活用していくかを慎重に検討していくことが望ましいように思う。東京都に限らず国内の他の自治体においても水素の取り扱いに関する議論が開始されることを願いたい。弊社としても、ドイツにおけるH2Global関連の情報提供を含め、各種支援を提供していく所存である。
引用
※2 https://www.iso.org/standard/65628.html
※4 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC01DU30R01C23A2000000/