グリーン水素の入札が欧州、ドイツ、オマーンで展開。韓国も続くか?

(文責:青野 雅和)

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 本レポートは本年の第一稿となります。本稿では、政府主導の水素オークションの動きを少し紹介したいと存じます。

 今後の水素に関連する事業展開ですが、水素のエネルギー利用に関してはアプリケーション(発電設備等)側の技術の進化が目覚ましく、天然ガスの代替としてのドロップイン燃料やメタノール、アンモニア、HVO等のバイオディーゼル製造の原料としての価値に収斂していく推移に注目しております。問題は再生可能エネルギー由来の電力を利用できることが出来るかという点です。

水素製造の進捗は引き取り手の不足と生産コストの高騰により減速

 国際エネルギー機関(IEA)は1月11日に公表したレポート「Renewables 2023: Analysis and forecast to 2028」※1において2028 年末までにグリーン 水素製造向けの新たな再生可能エネルギー電源の容量が 45GW建設されると予測していますが、これは開発業者が発表した容量のわずか7% にすぎず、現在計画されている水素製造プロジェクトの進捗が遅いと言及しています。また、2028年までに中国、サウジアラビア、米国が再生可能エネルギーによる水素生産能力の75%以上を占めると予測していますが、水素の引き取り手の不足や生産コストの高騰により投資決定が進んでいないとのこと。参考に図1に各地域の各地域の再生可能エネルギー電源の推移、主要ケースと加速ケース(2011年2028年)を示します。各地域では2028年迄に水素製造の為の再生可能エネルギー電源を用意することとしていますが、その電源比率は多いとは言えないことが伺えます。サウジアラビアやオマーンでの水素製造を目的とした電源比率が高いことが特徴といえましょう。

図1. 各地域の再生可能エネルギー電源の推移、主要ケースと加速ケース(2011年2028年)

出所:IEA CCBY4.0

【水素製造に係る各地域・国のオークションの動き】

 ここで、欧州とドイツ、オマーン、韓国の水素製造に向けたオークションの動きを紹介いたします。

  • 欧州
     欧州では既に昨年の11月に開始しており、パイロット事業として実施する第1回入札期間は11月23日から2024年2月8日までとなっています。落札者(プロジェクト開発者)には8億ユーロの予算が用意されます。資金は、開発者が達成できる市場収益に加えて、製造された検証および認定された水素4.5ユーロ/kgを上限として(想定されている)固定プレミアムが授与され、最大10年間の運用が保証されます。受賞プロジェクトは欧州気候・インフラ・環境執行機関(CINEA)と助成契約を締結します。尚、プロジェクトの規模は 5MW 以上となっています。その後すぐに 2024 年 4 月に新たな資金を使った第 2 ラウンドが行われる予定です。
  • ドイツ
     ドイツでは昨年8月1日に2035年までに最大23.8GWの水素火力発電所の入札を実施すると公表。昨年の12月から「H2Global 」と名付けられた水素由来製品の国外からの調達が進められてきています。H2Globalでは、既にアンモニア、e-メタノール(グリーン水素と回収された二酸化炭素から作られるe-メタノール)と持続可能な航空燃料 (e-SAF:グリーン水素利用による合成燃料)の入札が展開されており、調達先をEUに拡大するとともに、この仕組みをEUで設立されたEUの国内水素購入プログラムとなっています。
     詳細は弊社の2023年6月12日のNEWS「ドイツの水素調達(入札)プログラムであるH2GlobalがEU各国に拡大へ」※2を参照ください。
  • オマーン
     オマーンにおけるグリーン水素部門の構築と開発加速を目指すことを目的としてHydrom(ハイドロム)という組織が2022年に発足しています。HydromはEnergy Development Oman (EDO)が所有しMinistry of Energy and Minerals (MEM)の規制下にある、グリーン水素の国益を調整する中心的かつ独立した組織です。その主な任務は、セクターのマスタープランを作成し、政府所有の土地区域を線引きし、関連する大規模なグリーン水素プロジェクトを構築し、開発者への割り当てプロセスを管理し、その実行を監督するとともに、共通のインフラストラクチャー、接続されたエコシステム産業の開発を促進することです。
     入札は水素を製造する為の土地区画を授与するための入札となっており、オマーン南部のアル・ウスタ地域とドファール地域の6つの土地区画に合計15GWの電解槽容量の供給を目指すプロジェクトに7年間で200億ドルが投資されることになりました。
     2022年11月に既に第一ラウンドのプロセスが展開され、2023年4月に入札が行われています。この入札の結果を紹介します。
    • BP(2プロジェクト)
      ドファール島とドゥクムの2つのプロジェクトに投資する予定で、合わせて3.3GWの再生可能エネルギー容量と15万トンの水素を生産する予定です。
    • Intercontinental Energy
      オマーン・グリーン・エネルギー・ハブに関する契約に署名し、最終的にはこれを実現したいと考えており、電解槽の容量を 14GWに拡張するとしています。
    • Omani oil company(OQ),LindeとDubai Transport Company
      サラーラで400MWの電解槽の契約を締結しています。
    • OQ、ドイツのUniperとベルギーのDEME
      2GWの再生可能エネルギーを利用してDuqmにグリーン水素アンモニア施設を建設することを目的としています。
    • Hydrogen and Green Chemicals Company
      1GWの電力を利用して年間3万8000トンのグリーン水素を生産

  なお、第二ラウンドは2023年6月に入札プロセスが開始され、2024年1月に入札が終了する予定です。※3

  • 韓国
     韓国の水素オークションは水素を製造し、売電までのプロジェクトを対象として実施され、電力は韓国電力取引所が購入することとなっています。
     入札は既に昨年の6月9日に第回目の入札が告示され、715GWhの5つのプロジェクトを落札されています。ただ、今回の入札では発電所用の燃料電池約70MWが韓国の複合企業、斗山(Doosan)から供給されたと聞こえています。同社の燃料電池は天然ガスから改質により水素を製造することとなるので、韓国の燃料電池産業を支援する結果となり、グレー水素の利用となっています。第二回目の入札も既に昨年の11月に行われています。尚、韓国は2027年からクリーン水素の電力オークションを開始する予定とされています。

引用

※1 https://www.iea.org/reports/renewables-2023

※2 ドイツの水素調達(入札)プログラムであるH2GlobalがEU各国に拡大

※3 https://hydrom.om/AboutAuctions.aspx?cms=iQRpheuphYtJ6pyXUGiNqgnTvLaOi%2FEP