米・カリフォルニア州では連邦政府に先んじて、大企業を対象にScope3までの報告を義務化へ

(文責:坂野 佑馬)

 2023年9月12日、米国・カリフォルニア州議会において、同州内で事業を展開している大企業を対象にGHG排出量の情報開示を義務付ける法案「Climate Corporate Data Accountability Act.(SB-253)」※1が可決された。この種の義務付けは、連邦政府の義務付けとして米国証券取引委員会(SEC;US Securities and Exchange Commission)が検討しているものに先駆けて、米国初の試みとなる。
 同法案は、カリフォルニア州で事業を行う売上高10億ドル以上の企業に対し、直接排出(Scope1)、電力の購入と使用による排出(Scope2)、サプライチェーン、出張、従業員の通勤、調達、廃棄物、水の使用に関連するものを含む間接排出(Scope3)など、全ての範囲からの排出量を毎年報告することを義務付けるものである。開示義務は、Scope1,2の排出量については2026年から、スコープ3の排出量については2027年から開始され、測定と報告はGHGプロトコルの基準に従って行われる。規則に従わない場合には、最大で50万ドルの罰金が科せられることとなる。
 また、同法案においては、GHG排出量の第三者検証に関しても、義務付けを実施する旨が明記されている。Scope1,2 に関しては、2026年から限定的保証のレベル、2030年から合理的保証のレベルでそれぞれ実施される。Scope3排出量の第三者検証の義務化に関しては、2030年度以降において限定的保証のレベルで実施される。
 同カリフォルニア州法案に対する市場の声として、カリフォルニア州商工会議所のデニス・デイビス副会頭は、「同法案はカリフォルニア州のあらゆる規模の企業に悪影響を与える負荷の大きい義務を強いるものであり、排出量の削減に直接貢献するものではない。」と述べた。※2
 一方、マイクロソフト社、イケア社、パタゴニア社を始めとするいくつかの企業は共同で、同法案への支持を表明した。これら支持者は同法案に対し、「SB-253は、野心的な気候変動政策に新たな境地を開くものであり、最大の経済主体が有害なGHG排出量を十分に理解し、削減できるようにするものである。」としている。※3

 此度の発表は、SECが2022年3月の初期提案に続き、米国企業向けの気候変動関連開示規則の最終版を準備している最中に行われた。カリフォルニア州法案は、SECの規則案よりも踏み込んだ内容となっており、上場企業だけでなく全ての大企業(年間売上高10億ドル以上)に適用され、Scope3のGHG排出量も含む。SECの最初の提案では、Scope 3排出量が重要である場合、または企業がScope 3を含む排出量削減目標を掲げている場合においてScope 3排出量の報告を義務付けていた。今年初め、SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は、これらの情報開示の提供コストが高いことや、正確な情報を提供する能力に関する懸念を提起する意見を受け、Scope 3要件を含む規則の調整を検討していると述べた。※4

 カリフォルニア州における、ある種ボトムアップ的な取組姿勢が脱炭素を推進していく上で、今後重要になってくると考える。日本国内においても、東京都・埼玉県における独自の「排出権取引制度」※5や東京都における「新築住宅に対する太陽光発電設備設置義務化(2025年4月開始)」※6のような取組が見られる。自治体や商工会議所のような、より小規模な組織において、先進的な制度・規則導入の「脱炭素ドミノ」が波及していくことを期待したい。

引用

※1 https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=202320240SB253

※2 https://www.nytimes.com/2023/09/13/climate/california-emissions-businesses-climate.html

※3 https://www.ceres.org/sites/default/files/Asm%20Approps%20Major%20Companies%20and%20Institutions%20Support%20SB%20253.pdf

※4 https://www.thecentersquare.com/california/article_a9112806-51c6-11ee-9c07-efae420b2893.html

※5 https://www.jma.or.jp/jmacc/ghg/tokyo_saitama.html

※6 https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2023/01/04.html