米国エネルギー省がU.S. National Clean Hydrogen Strategy and Roadmapを発表 ~具体的な政策を携え展開される米国の水素戦略~

(文責:坂野 佑馬)

 2023年6月5日、米国エネルギー省(DOE)は「国家クリーン水素戦略およびロードマップ(U.S. National Clean Hydrogen Strategy and Roadmap)」※1を発表した。バイデン大統領は気候変動対策に積極的で、温室効果ガス(GHG)排出削減のためにクリーン水素の活用を見込んでいる。水素の調達においては、サプライチェーン強靭化のために、輸入に頼らず、米国内での生産を強化する戦略となっている。
 米国内では、2021年11月の超党派インフラ法(Bipartisan Infrastructure Law;BIL 、インフラ投資・雇用法)※2の成立によって、DOEはクリーン水素の活用に向け95億ドル(電気分解の研究・開発・実証に10億ドル、クリーン水素の製造とリサイクル技術の研究開発に5億ドル、少なくとも4つのクリーン水素ハブプロジェクト等に80億ドル)を確保している。クリーン水素の定義は、生産量1kg当たり、生産地で発生するGHGの排出量がCO₂換算で2kg以下の炭素強度を持つ水素である。
 更に、2022年8月にインフレ抑制法(Inflation Reduction Act;IRA※3が成立し、クリーン水素市場を後押しする製造税額控除(水素製造時のCO2換算排出量に応じて最大3ドル/kgの税額控除)など、追加政策とインセンティブを提供しており、水素産業に対する投融資が活発化しつつある。
 米国内における現在の水素生産量は年間約1,000万トンであり、その大部分が水蒸気メタン改質(SMR)を活用したブルー水素(天然ガスや石炭由来の水素で、製造工程でCO₂が排出されるが、回収・貯蔵することで排出を実質ゼロとみなすもの。)となっている。新戦略では、2030年までに年間1,000万トン、2040年までに年間2,000万トン、2050年までに年間5,000万トンのクリーン水素の製造を目指す方向性である(図1)。

図1. 米国における将来のクリーン水素需要シナリオ

出典:DOE「U.S. National Clean Hydrogen Strategy and Roadmap」より一部BCJが編集

 新戦略では以下の3つの政策を重点戦略として掲げている。

  1. クリーン水素の需要を戦略的にコントロール
    産業部門や大型輸送、クリーン電力網向けの長期間のエネルギー貯蔵といった部門でクリーン水素の利用を促進する。
  2. クリーン水素の生産コストの削減
    技術革新と規模拡大を進め、民間部門の投資を刺激し、クリーン水素のサプライチェーンを発展させることで、コストを削減する(10年以内に1ドル/kgに引き下げる目標)。
  3. 地域ネットワークの発展
    地域のクリーン水素ハブへの投資と拡張によって、優先度の高い水素ユーザーの近辺で大規模な製造・重要インフラの共有、製造・流通・貯蔵の規模拡大、市場の立ち上げを促進していく。

 時を同じくして、2023年6月6日に日本政府も「水素基本戦略」の改定を発表した※4。同戦略は2017年に策定された世界初の水素国家戦略であり、「エネルギー安全保障、経済効率性、環境への適合と安全性(3E+S)」を実現するエネルギーとして水素を位置付けていた。
 此度の改定に際して、新たに「水素産業戦略」が重要政策として追加されている。具体的には、「水素製造(水電解装置・技術)」、「水素サプライチェーンの構築(輸送技術・インフラ)」、「脱炭素型発電(水素エンジン等)」、「燃料電池」、「脱炭素型鉄鋼」、「脱炭素型化学製品」、「水素燃料船」、「燃料アンモニア」、「カーボンリサイクル製品」の9つの技術を「戦略分野」と位置づけ、重点的に支援することとしている。今後15年間で約15兆円を超える投資を行い、2040年の水素利用量を原材料の6倍である1,200万トン程度にまで引き上げる狙いである。

 日米の戦略ともに、水素の利活用において重要なセクターを限定して投資を強化するという点で共通している。その中で、米国に関しては「国内サプライチェーンの強靭化」という観点に重点を置いており、国内で完結した水素サプライチェーンの構築を目指していると伺える。一方、日本の戦略に関しては不足分の水素を海外から輸入することも選択肢に入れている。これはどちらが正しいという話ではなく、その国々の特性に準じた政策を講じているということである。今後は、水素の需要と供給のバランスを考慮したプロジェクトの組成が望まれることになるだろう。弊社としても、国内水素PJに携わらせていただく場合には、これらの視点を重視していきたい。

引用

※1 https://www.hydrogen.energy.gov/

※2 https://www.fhwa.dot.gov/bipartisan-infrastructure-law/

※3 https://www.irs.gov/inflation-reduction-act-of-2022

※4 http://chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy_kaitei.pdf