バイエルン州の新規CO2パイプライン計画でドイツのCO₂ネットワークは更に拡大へ
~水素とともに南北の輸入基地計画とパイプラインは整備されていく~

(文責:青野 雅和)

 ミュンヘンのシュタットベルケであるSW Münchenが出資しているBayerngasの子会社でガス配管ネットワーク会社のBayern ets がセメント会社であるRohrdorferとバイエルン州南部においてCO₂パイプライン建設を検討を開始することをRohrdorferのニュースリリースで6月14日に公表した[i]。なお、Bayern etsは昨年11月にバイエルン州での水素パイプラインの検討プロジェクトであるHyPipe Bavaria[ii]を計画している
 ちなみに、Bayern etsはバイエルン州のガス供給会社であり、ガス供給ネットワークエリアはバイエルン州、近隣の連邦州、オーストリアにわたり約 35,500 km² の面積をカバーし、地方公共団体、発電所、貯蔵施設、産業、近隣の国内外の送電システム事業者などにガスを供給している。

 CO₂のパイプライン敷設検討を地域公共サービスを担う公営企業が展開するということを筆者も驚きをもって受け止めたが、確かに日本でもガス供給は公営企業が展開しており、同様な検討を否定する必要はない。また。日本でもJOGMECが「先進的CCS事業」を選定したこともあり、CO₂の積極的利用の競争が徐々に表面化しつつあると感じている。
 本稿では、CCUの展開事例としてバイエルン州での水素とCO₂のパイプライン計画と、既に検討されているドイツ全体での水素とCO₂のパイプライン計画も併せて紹介する。

1.バイエルン州での水素パイプラインの検討プロジェクト:HyPipe Bavaria
 
 HyPipe Bavariaプロジェクトは、95% は既存の天然ガスパイプラインを2030 年までに転換しバイエルン州に水素パイプラインの基礎を築く計画である(下記の図1参照)。約 300 キロメートルとなるこの水素パイプラインはドイツの水素需要地域とドイツ国内外の多数の潜在的な生産地域を接続する予定。グリーン水素の輸入は東欧と北アフリカから水素パイプラインで繋ぐことも検討している。
 このパイプラインはバイエルン州は化学セクターが集積しているブルクハウゼンとミュンヘン、インゴルシュタットのケミカルトライアングルを結ぶこととなり、2025年の稼働開始を予定している。将来的には、長さ14キロメートルのパイプラインシステムが天然ガスネットワークから分離される予定。お互いに。その後、新規の水素パイプラインを徐々に敷設していき、オーストリアとも接続する。現在、ケミカルトライアングルでは年間 6 TWh の天然ガスが必要とされていることから、化石燃料を水素に代替することで、2TWhの水素需要が創出されるとのこと。

  図1 欧州の水素製造のバックボーンと水素の南バイエルンへの移送

出典:Bayern ets

2. CO₂パイプラインの敷設検討
 
 この計画は、バイエルン州南部に80キロの二酸化炭素輸送用パイプラインの建設を検討であり、ガス配管ネットワーク会社のBayern ets がセメント会社であるRohrdorferが検討する計画であり、Rohrdorferのブルクハウゼンにあるセメント工場由来のCO₂をバイエルン州南部のケミカルトライアングルを結ぶもの。
 パイプライン・オペレーターであるBayern etsは既存の天然ガスパイプラインと長年にわたる事業運営の経験から、十分対応できるとのこと。CO₂パイプラインは既存の天然ガスパイプラインのルートに沿って新設される予定。
 なお、本計画は欧州のCO₂輸送ネットワークにも組み込むことを想定している(図2参照)。ドイツ最大のガスパイプラインを保有するOpen Grid Europe(OGE)と、ベルギーで水素供給を展開するTree Energy Solutions(TSE)は、共同で南はミュンヘンからドイツ北部の北海に面したヴィルヘルムスハーフェンまでCO₂を運ぶ、ドイツ全土を網羅するCO₂輸送ネットワークを計画している。全長964km、将来1,880万tのCO₂を輸送する計画でパイプラインの最初の区間のテストは2028年を予定している。OGEとTESは、鉄鋼メーカー、セメント・石灰メーカー、発電所オペレーター、化学プラントオペレーターを対象としてCO₂を受け入れる予定である。

図2 Tree Energy Solutions とOpen Grid Europeが計画するCO ₂輸送網

出典:Tree Energy Solutions  https://www.co2-netz.de/en

 ちなみにドイツ最大の総合電力会社の1つであるEWEがヴィルヘルムスハーフェンにあるTESのグリーンエネルギーハブに500MWの電解槽を設置し、将来は1GWに増設するMOUを締結している。TESはヴィルヘルムスハーフェンを30万tの水素輸入港として拠点整備を進めている。
 計画レベルではあるものの、グリーン水素とCO₂のパイプラインの敷設を共に検討していること、また同プロジェクトには電力会社とガス会社が率先して参加していることが興味深い。

引用

[i] https://www.rohrdorfer.eu/bayernets-und-rohrdorfer-untersuchen-co2-transport/

[ii] https://www.bayernets.de/infrastruktur/wasserstoff/h2-projekte