欧州でグリーン水素の定義が決定。原産地と設備転換のグリーン水素認証サービスが開始

(文責: 青野 雅和)

 グリーン水素の定義に関して非常に活発な議論が6月に上旬に展開されていたので、本稿ではグリーン水素を巡る認証に触れたい。

■原子力発電由来の電力を利用して水素を製造することに対する反発

 欧州ではREDⅢ(Renewable Energy Directive Ⅲ:欧州再生可能エネルギー指令Ⅱの改定案)のグリーン水素の定義を管理する関連する委任法を検討していた段階であるが、欧州理事会の閣僚が気候変動対策法の適用除外をめぐって6月上旬に議論が行われていた。フランスやその他の核保有国が代わりに原子力発電由来の水素を使用することでFit for 55の目標を達成できないことを認める例外規定に関連している。
 原子力由来の電力を利用し、水素を製造した場合、この水素はピンク色の水素と定義されるが、EUの「再生可能水素」の定義にピンク水素を含めようとするフランスや他の核保有国の欧州諸国による取り組みは、ドイツを含むスペイン等の6各国が激しく反発していた。

■欧州のグリーン水素の定義は、Co2排出削減量は73.4%以上

 現在、REDⅢ(REDⅡ改定案[i])では、①ブルー水素、②グリーン水素、③DAC(Direct Air Capture由来のCO2を用いた合成燃料。④廃棄物から回収したCO2を用いた合成燃料、⑤非可食・持続可能性を担保したバイオ燃料の5つが欧州で自動用燃料として認めている燃料である。各燃料のCO2排出削減量の詳細な数値の違いはあるものの、バイオ燃料を除き、70%以上のCO2排出削減量を満たす必要がある。
 REDⅡにおいて、再生可能エネルギーの定義を水素を含むガスに拡大し、欧州委員会は、系統電力を用いてRFNBO(Renewable Fuels of Non-Biological Origin)を製造する場合のGHG計算方法を 委任法令で定め、時間的・地理的相関と追加性を考慮することとした。
 そのREDⅢにおけるRenewable fuels of non-biological origin(RFNBO:非バイオ由来再生可能エネルギー燃料)の定義はグリーン水素と合成燃料となる。このグリーン水素の定義はCo2排出削減量が73.4%以上と定義されている。

■REDⅢにおける主な定義

 19条で原産地保証に関しては各国でのGuarantee of Origin制度(以下GO)を確立することとしている。GOの対象は電力、ガス(水素含む)、暖房・冷房となっている。

■グリーン水素の定義に関する委任規則が6月20日に成立

 グリッドから電力供給を受ける場合のグリーン水素認可の要件が明確化した。6月20日にグリーン水素の定義に関する委任規則が成立した。EUに輸出する生産者にも適用される。以下の3項目をJETRO公表資料より引用する。

1.追加性:グリーン水素生産のために追加的に設置された(水素生産施設の稼働の36カ月より前に稼働を開始していない)新設施設で発電された再エネ電力の供給を受けること

2.時間的相関性:水素生産と再エネ発電が同一の1時間以内に行われること

3.地理的相関性:水素生産施設と電力供給を受ける再エネ発電施設が同一あるいは相互に接続された電力入札ゾーンに位置していること[ii]

尚、EUが定義する再生可能エネルギーに原子力発電由来の電力が含まれるかは記載が無いが、EUタクソノミーのリストに原子力は放射性廃棄物の処分を条件に既に加えられている。

■CertifHyの現状

 CertifHy™ は欧州委員会の要請により開始され、クリーン水素パートナーシップによって資金提供されている。このプロジェクトは戦略コンサルティングファームであるHINICIO が主導し、GREXEL、Ludwig Bölkow Systemtechnik (LBST)、AIB (Association of Issuing Bodies)、CEA (Commissariat à l'énergie atomic et aux énergies alterss)、および TÜV SÜD で構成される CertifHy™ コンソーシアムによって実施されている。
 CertifHyは電力と水素の原産地認証を行うシステムで2016年から運用をされている。現在はフェーズ3の運用期間で上述したREDⅡ及びREDⅢに適用した欧州全域をカバーしており、北アフリカや中東への拡大を検討している。
 ちなみに、CertifHy™が提供するGuarantee of Origin制度は非政府証明書であることから、加盟国は、独自の Hydrogen GO レジストリおよび発行機関を開発する必要がある。従い、REDⅢの19条で規定される原産地保証として使用できない。

■認証機関独自のグリーン水素認証サービスの開始

 上述CertifHy™のコンソーシアムメンバーである認証機関のTÜV SÜDがCertifHyを基準に、より厳しい独自のGreenHydrogen認証(TÜV SÜD規格CMS70、Version01/2020 "Generation of Green Hydrogen")を提供している。これは75%以上の温室効果ガス削減ポテンシャルを持つ水素を定める基準としている。
 加えて同社は設備の水素対応の認証サービスも開始した。既存の設備の燃料を天然ガスから水素に転換する場合、必要となる条件や要件とその対応を「H2-Readiness」と呼んでいる。同社は設備の材料やコンポーネントに対して水素対応していることを「H2-READY 認証」として認証したサービスである。なお、シーメンス・エナジー社が発電所のコンセプト設計で初の認証取得企業となっている。

 このように欧州では水素の原産地認証に始まり、水素に燃料転換する設備の水素対応認証が進みつつある。家庭用の水素給湯器の設置も展開されており、水素の利用アプリケーションが多角化しつつある。日本が天然ガスに燃料転換した際の市場はどうであったのだろうか。自動車以外の水素への燃料転換が今一つ足踏みしているように見受けられる日本であるが、日本でも遅かれ浸透していくのではなかろうか。

引用

[i] 弊社NEWSの2022年10月7日にREDⅢ(Renewable Energy Directive:欧州再生可能エネルギー指令)が改正されることを掲載したが、「Fit for 55」の一環として提案したものである。

[ii] https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/06/707789640ea06dcf.html