脱炭素化・気候変動対策の機運の高まりに比例してグリーンウォッシュの問題が顕在化へ。EUではグリーンウォッシュを取り締まる規制・基準の整備が進む。

(文責:坂野 佑馬)

 昨今、世界中で脱炭素化や気候変動対策を重要視する環境意識が一般市民レベルでも醸成されつつある。企業レベルでは、各社が省エネルギー化や再生可能エネルギー導入等の施策を講じている。また、大企業を中心にTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)等の国際イニシアチブに定められている基準に則り、自社状況の報告を行っている企業もある。そんな中、欧州を中心に、企業が自社の環境配慮の取組を誇張、もしくは偽って表現している事例「グリーンウォッシュ」が問題視されるようになってきている。グリーンウォッシュには、故意的に行われている事例もあるが、企業側の検証が不十分であるために発生する事例もあるため、企業には精密な検証を行うことが求められる。
 グリーンウォッシュと疑問視された事例として、2023年1月18日に英・ガーディアン紙が報じた米国のNPOであるVerra の事例を紹介させていただく※1。Verra は世界の市場で最も流通している民間認証クレジットのであるVCS(Verified Carbon Standard、VCSのシェアは2018年度で約 66 %)を運営管理するNPOであり、現在までに延べ1,500 を超えるプロジェクトの認証を実施してきた実績を持つ。
 アムステルダム自由大学のタレス・ウェスト助教やケンブリッジ大学のアレハンドロ・グィザール・コウチーニョ博士課程大学院生らの書いた論文によると、Verra が認証を行ったREDD+プロジェクト(森林破壊・劣化の回避)に基づくクレジットが、その脱炭素化の効果が著しく誇張されていると報告している。また、Verra の認証の約 94 %が気候変動に何の利益ももたらさないものであり、少なくとも1つのオフセットプロジェクトにおいては人権問題が深刻な問題となっている点を指摘した。
 同報道に対してのVerraの主張としては、当該プロジェクトの地域は研究者らの採用した標準化された算定手法では正確に検証することができない課題を抱えており、クレジットが無効であるという主張は間違いであると反論している。

 真偽に関しては判断がつかないものの、将来的に事象の真偽を問う事態が生じない様、グリーンウォッシュを取り締まる規則・基準の整備も進んでいる。
 欧州においては、2023年3月22日にグリーンウォッシュを取り締まるための法令「グリーンクレーム(環境主張;環境に配慮していると主張すること)指令」※2の政策案が欧州委員会(EC)より、発表されている。ECが2020年に行った調査によると、グリーンクレームの53%は「あいまい/誤解を招く/根拠がない」で、40%は「裏付ける根拠がない」という。また、EU には 232 種類のサステナビリティに関するラベルがあるが、透明性に関しては各ラベルで違いがみられるようで、50%は「検証が不十分または存在しない」状態であるとされている。ECは同指令の目的として以下の4点を挙げている。

  1. EU全域において、環境訴求の信頼性、比較可能性、検証可能性の向上すること
  2. 消費者をグリーンウォッシュから守ること
  3. 消費者が十分な情報を得た上で購買決定を行えるようにすることで、循環型かつグリーンなEU経済の実現に貢献すること
  4. 製品の環境性能に関して、公平な競争条件を確立すること

 同指令の対象は、EUの消費者に向けてグリーンクレームを行う企業であるが、EU 域外に拠点があっても対象となり、消費者団体などは、この指令に基づいて法的措置を講じることができるようになるという。従業員10人未満、売上高200万ユーロ(約2億8,000万円)未満の中小企業のみ、同指令の義務から除外される。
 同指令が施行されることで、企業はグリーンクレームを行う場合、主張内容を立証することや、外部の第三者機関による検証を受けること、QRコードなど利用して立証内容や第三者機関が発行した適合証明を消費者に開示する義務が発生する。また、企業はグリーンクレームの内容を立証する上で、「グリーンクレームの内容が製品・企業活動の全体あるいは一部であるかを明確にすること」、「広く認められた科学的根拠に基づくこと」、「原材料から廃棄までのライフサイクルで環境への有意義な影響が認められること」、「気候変動や循環性、海洋資源、生物多様性などへの悪影響の有無を特定すること」等の要件に配慮せねばならない。

 他方では、2023年6月25日に国際サステナビリティ基準委員会(ISSB)が、グリーンウォッシュ根絶を目的として、企業が2024年からの年次財務報告書やESG報告書 で使用できる気候変動開示のための基準を公表している※3。英国に加え、カナダ、日本、シンガポール、ナイジェリア、チリ、マレーシア、ブラジル、エジプト、ケニア、南アフリカが導入を検討している。新基準は「IFRS S1:サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般要求事項」及び「IFRS S2:気候変動対策関連の開示に関する一般要求事項」と名付けられている。以下にその概略を示す。

「IFRS S1」及び「IFRS S2」に記載の企業が開示すべき一般事項の概略

  1. 持続可能性(または気候変動対策)に関連するリスクと機会を監視、管理、監督するための企業体制及び方法論
  2. 持続可能性(または気候変動対策)に関連するリスクと機会を管理するための企業の戦略
  3. 持続可能性(または気候変動対策)に関連するリスクと機会を特定し、評価し、優先順位を付け、監視するための方法
  4. 持続可能性(または気候変動対策)に関連するリスクと機会に関する企業の取組状況(企業が設定した、または法律や規制によって達成することが義務付けられている目標に対する進捗状況等)。

 日本においても、一般社団法人環境金融研究機構が三井不動産が推進する「東京・神宮外苑の再開発計画」をグリーンウォッシュの懸念があると報じている※4
 同社は2022年12月に国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で合意された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」※5に賛同しているのであるが、その内容と同社が同計画において説明している「樹木を若い樹木に植え替えることにより、緑の循環を図る」という点が矛盾、もしくは根拠に乏しいのではないかと指摘している。
 昆明モントリオール枠組で示されている23のターゲットにおいて、都市再開発に該当する「ターゲット12」に相当する、①都市部と人口密集地域の緑地空間等を大幅に増加②生物多様性に配慮した都市計画で在来の生物多様性等の連結性・健全性の向上③「包摂的かつ持続可能な都市化」の表現に同社の上述の説明が合致しないという分析である。「樹木の寿命が100年というのは短いにもかかわらず、100年の区切りで伐採するのは「緑の循環」といえるのだろうか。」という指摘だ。
 環境保全の意識が高まっている日本においてもグリーンウォッシュを問題視する風潮が着実に広まりつつあるのではなかろうか。この風潮は否応なしに、海外の環境意識の醸成に引っ張られていくであろう。企業においては、自社のブランドイメージを貶めないためにも、適切な脱炭素化・気候変動対策の取組及び報告に配慮して頂きたい。弊社としても、グリーンウォッシュに関連した最新情報を提供し、引き続き注意喚起を行っていきたい。

引用

※1 https://www.theguardian.com/environment/2023/jan/18/revealed-forest-carbon-offsets-biggest-provider-worthless-verra-aoe

※2 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_1692

※3 https://www.ifrs.org/projects/completed-projects/2023/general-sustainability-related-disclosures/

※4 https://rief-jp.org/ct12/134840 ※5 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/gbf/kmgbf.html

※5 https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/gbf/kmgbf.html