IPCCは気候変動に関する第6次評価報告書・政策決定者向け統合報告書を公表
~今後の世界各国の温室効果ガス削減目標に影響か~

(文責:青木 翔太)

 2023年3月20日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)は、最新の統合報告書(第6次評価報告書 政府決定者向け統合報告書)を公表した。※1  IPCCは、1988年に世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)と国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)によって設立された政府間組織であり、2022年3月時点で、日本を含む195の国と地域が参加している。また、IPCCは、1990年以降、気候変動に関する報告書を定期的に公表しており、この報告書は国際交渉や国内政策のための基礎情報として世界中の政策決定者に引用されている。
 読者の方々もご承知のように、2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称:パリ協定)」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする目標が掲げられている。IPCCはこれまでの報告書の中で、人類への大きな影響を少なくするためには気温上昇を1.5℃までに抑える必要性があるとしている。

 さて、話を元に戻す。今回公表された第6次評価報告書 政府決定者向け統合報告書は、「A:現状と傾向」「B:長期的な気候変動、リスク、および応答」「C:短期的な応答」の3つの時間軸で構成されている。各時間軸の概要を以下に示す。なお、本報告書は、2014年の第5次評価報告書・統合報告書から9年ぶりに公表されたものとなる。

■「A:現状と傾向」
・人間活動が温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない。
・1850〜1900年を基準とした世界平均気温は、2011〜2020年に1.1℃上昇した。
・大気海洋、雪氷圏、及び生物圏に広範かつ急速な変化が起こっている。
・2021年までに発表された「国が決定する貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)=各国が定めた、パリ協定の目標を達成するための対策や施策、及び温室効果ガスの排出削減目標を示したもの」によって示唆される2030年の世界全体の温室効果ガス排出量では、温暖化が21世紀の間に1.5℃を超える可能性が高く、2℃より低く抑えることも困難になる。

■「B:長期的な気候変動、リスク、および応答」
・継続的な温室効果ガスの排出は更なる地球温暖化をもたらすこととなる。また、気候変動に起因するリスクと予測される悪影響、及び関連する損失と損害は、地球温暖化が進行するにつれて増大する。
・温暖化を1.5℃または2℃に抑制できるかは、ネットゼロを達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる。

■「C:短期的な応答」
・資金、技術、及び国際協力は、気候行動を加速させるための重大な成功要因となる。
・パリ協定の目標を達成するためには、気候変動のための適応策をより強化し、これに伴う資金を何倍にも増加させる必要がある。

 尚、同報告書は、パリ協定の1.5℃目標の達成に向けて、2019年を基準とした温室効果ガス排出量の削減目標を2030年までに43%、2035年までに60%、2040年までに69%、2050年までに84%と示している。

 今回の報告書の公表に合わせて、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏はビデオメッセージを発信しており、先進国に対して、2040年に最大限近づける時期においてネットゼロ(物理的に大気中から温室効果ガスを取り除くことで排出量を実質ゼロにする)を達成することを求めている。現時点では、ドイツが世界に先駆けて2045年にネットゼロを目標として掲げているが※2、果たして今回の報告書は今後の世界各国の削減目標にどのような影響を及ぼすであろうか。

 削減目標に関する基準について、カーボンニュートラル(温室効果ガスの削減や吸収活動によって排出量を実質ゼロにする)を目標としている日本※3とネットゼロを年取った目標としている国との間で今後は政策に違いが出ることが想定される。22023年5月15日~16日に北海道札幌市で開催が予定されている「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」※4では、日本としても2040年のネットゼロに向けた議論が行われることを期待したい。

参考資料
※1
https://report.ipcc.ch/ar6syr/pdf/IPCC_AR6_SYR_SPM.pdf

※2
https://www.bmuv.de/en/pressrelease/revised-climate-change-act-sets-out-binding-trajectory-towards-climate-neutrality-by-2045/

※3
2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言している

※4
https://www.env.go.jp/earth/g7/2023_sapporo_emm/index.html