ECはGHG削減を目指す「FuelEU Maritime」に合意
~陸上給電(OPS)の利用義務や代替燃料により港や海運部門の脱炭素化が加速へ~

(文責:坂野佑馬)

 2023年3月23日、欧州委員会(EC)は海運部門で使用される燃料のGHG排出量を2025年までに2%、2050年までに80%削減すること(2020年比)を保証する新たな規則案「FuelEU Maritime」※1に合意した。海上交通の円滑な運営を確保し、低炭素燃料の需要を高め、且つ同燃料を一貫して使用し、海運部門からのGHG排出量を削減することを目指す。同規則案は、欧州グリーンディールを推進するための政策パッケージである「Fit for 55」※2の政策の一部である。「Fit for 55」はECから2019年7月14日に発表されたもので、2030年までに少なくとも55%のGHG排出量削減を達成することを目指して、複数の既存法令の改正案等が盛り込まれたものとなっている。「Fit for 55」においては「FuelEU Maritime」以外にも海運の脱炭素化を加速させるための施策が複数検討されている(表1記載)。EUのカーボンプライシング制度であるEU排出量取引制度(EU ETS)に海運部門の排出量を含めることで合意したのは2022年12月18日であり、「FuelEU Maritime」は「Fit for 55」の改定案を補填するものとなる※3

表1. Fit for 55 における海運の脱炭素化に係る施策

法令施策概要
改正EU排出権取引制度指令(EU-ETS)・EU-ETSの対象に5000トン以上のGHGを排出する船舶を加える。
代替燃料インフラ指令 (AFID)・2025年までにLNGの利用可能性を高め、2030年までに陸上電力供給(OPS)の向上を目指す。
改正エネルギー税制に関する指令・代替燃料の導入にインセンティブを与えることを目的に、従来の船舶用燃料の免税を廃止
改正再生可能エネルギー指令 (RED Ⅱ)・2030年までに運輸部門のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を少なくとも40%にする義務
・運輸部門のGHG排出量を2030年までに13%削減する義務
出典:ECのHPより弊社整理

 EUにおける海上輸送は、EU域外貿易量の約75%及びEU域内貿易量の約31%を担っており、EUの輸送システム及びEU経済にとって重要な役割を果たしている。然しながら、海運部門の燃料構成は、ほぼ全てが重油等の化石燃料に依存している状況にある。気候中立(全てのGHGに関して排出量が正味ゼロの状態)を実現するために、EUは海上輸送を含む輸送部門のGHG排出量を2050年までに90%削減する必要がある(1990年比)。
 EUにおいては現行法で、船舶用燃料に係る複数の規定を行っている(表2記載)。

表2. EU現行法における船舶用燃料に関する規制

法令規定内容
代替燃料インフラ指令 (AFID)・適切な数のLNG供給設備を港に設置する義務OPSを配備する義務
EU MRV (海運業界の燃費報告制度に関する欧州規制)・5000トン以上のGHGを排出する船舶に関して、燃料消費量、CO₂排出量、輸送作業をモニタリングし報告する義務
特定の液体燃料の硫黄含有量低減に関する指令・船舶用燃料の最大硫黄含有量及びSoxの排出量に関する規制
再生可能エネルギー指令 (RED)・2030年までに運輸部門のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を少なくとも14%にする義務
・先進的なバイオ燃料の目標値は3.5%で持続可能な船舶燃料に関してはエネルギー含有量の1.2倍として計上される
出典:ECのHPより弊社整理

 さて、「FuelEU Maritime」の話題に戻そう。詳細を紹介しよう。
 「FuelEU Maritime」は「EU加盟国の管轄下にある港に到着、滞在、出発する船舶が船上で使用するエネルギーのGHG強度に関する制限値」及び「EU加盟国の管轄下にある港において、OPSまたはゼロエミッション技術を使用する義務」の2点において統一的なルールを課すものである。
 本規則案は、「EU加盟国の管轄下にある港において、滞在中に使用されるエネルギー」、「EU加盟国の管轄下にある寄港地から加盟国の管轄下にある寄港地までの航海で使用されるエネルギーの総量」、「EU加盟国の管轄下にある港を出発または到着する航海で、最後の寄港地または次の寄港地が第三国の管轄下にある場合に使用するエネルギーの2分の1」に係るGHG排出量に適応される。適応対象としては、GHG総排出量が5,000トンを超える全ての船舶に適応されるが、軍艦、海軍補助艦、漁獲船若しくは水産加工船、又は非商業目的で使用される政府船には適用されない。小型船舶に関しては現状は対象外であるが、2028年に小型船舶への適用が再検討される予定である。
 尚、GHG排出量削減量の設定値として、以下のように徐々に削減していく目標が設定されている。目標年の翌年の5月1日までに達成していない企業は罰金を支払う必要があり、グリーン燃料基金に充てられることとされている。

表3. FuelEU Maritime におけるGHG排出量削減目標

目標年度削減量目標(2020年比)
2025年2 %
2030年6 %
2035年14.5 %
2040年31 %
2045年62 %
2050年80 %
出典:ECのHPより弊社整理

 2030年1月1日からEU加盟国の感圧化にある港内に停泊するコンテナ船及び旅客船に関しては、OPSに接続し、停泊中の全ての電力をOPSから受給されることが義務づけられる。OPS に加えて他のゼロエミッション技術も港湾において同等の環境利益を提供することができる可能性はある。そのため、代替技術の使用がOPSの使用と同等であることが実証された場合、船舶はOPSの使用を免除される。OPSの使用に関する例外は、寄港地の管理団体によって証明され、安全または海上での人命救助を理由とする予定外の寄港、接続に必要な最小時間である2時間未満のバースでの船舶の短期滞在、緊急事態における船上発電の使用に限定された、いくつかの客観的理由についても提供される。

 近年では、日本各地の港湾においてもカーボンニュートラルポート(CNP)を構築するための検討・取組が推進されている。併せて、船舶・船舶用燃料においても脱炭素化の機運が高まっていることも認められる。まだ、一部であるが神戸港等でOPSの設置が検討されている。今後の展開として日本国内の海運産業にもこうしたEUの規則に習ったGHG排出量削減目標が下りてくることが予測される。

引用

※1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_1813

※2 https://www.consilium.europa.eu/en/policies/green-deal/fit-for-55-the-eu-plan-for-a-green-transition/

※3 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_7796