ECは貨物輸送のグリーン化を促す政策パッケージを発表~カーボンフットプリントの利用促進を促す政策が盛り込まれる~

(文責:坂野 佑馬)

 2023年7月11日に、欧州委員会(EC)より貨物輸送のグリーン化を図る政策パッケージが発表された※1。同政策パッケージには複数の新規則案の他に、既存の法令の改正案が含まれる。今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されることとなる。
 貨物輸送のグリーン化は2020年12月にECが発表した2050年までに輸送部門のGHG排出量を90%削減することを達成するためのロードマップである「持続可能なスマートモビリティ戦略」※2に記載のある旗艦戦略の1つである。同パッケージには3つの政策が含まれており、「貨物を道路から鉄道や水路にシフトさせること」、「低排出ガス車両の購入にインセンティブを与えること」、「貨物輸送のカーボンフットプリントの計算をより容易かつ正確にすること」を目的としている。以下に各政策案の概要を記載する。

【貨物輸送グリーン化政策パッケージの概要】

  1. 鉄道の効率利用
     鉄道の利用を最適化し、国境感の調整を改善し、定時性と信頼性を向上させることで、最終的にはより多くの貨物を鉄道に誘致することを目指す。
  2. 低排出ガス車輛の使用に対する優遇措置
     2020年度においてはEUでは貨物の50%以上が道路によって運ばれており、EUにおけるGHG排出の主な原因の1つとなっている。現行の重量・寸法指令では、大型車の長さ、幅、高さ、最大重量が定められている。此度の政策パッケージに含まれる重量・寸法指令の改正において、輸送車輛の重量制限を緩和することで、高重量になりがちなゼロエミッション技術を車輛へ導入することを可能にしている。また、通常のコンテナより高さがある「ハイキューブコンテナ」を積載するための高さ制限を緩和する。従い、クリーン車輛やゼロエミッション技術の導入が促進されることが期待される。更に、将来的に、EVバッテリー等の装置・技術が軽量化、小スケール化されることで、貨物の積載可能スペースが増える可能性を見越している。
     越境輸送の円滑化において、分割不可能な貨物の輸送など、車体の長さ・重量が制限を超える車輛の制限外積載許可の申請プロセスを簡素化する。事業者は運行ルートなど必要な情報を提出した加盟国で、走行予定の全ての国について許可を得られるようにするとしている。
  3. CouotEmissionEU:カーボンフットプリントの比較
     運輸セクターのGHG排出量の算出については、「運輸サービスのGHG排出量の算出に関する規則案」で企業向けの算出手法を提案している。同算定手法は、2023年3月20日に発行された新たな規格であるISO 14083:2023 「温室効果ガス-輸送チェーンの運用から生じる温室効果ガス排出量の定量化と報告」※3に基づいて策定されている。同規格は、燃料・エネルギー生産から車両の走行まで運送業務全体でのGHG排出量を考慮する「Well-to-Wheel」の概念に基づき、算出基準や方法を定めるものである。ECは、荷物の受け付けから配送までGHG排出量について信頼できるデータが示され、消費者が情報に基づいた運送・配送手段の選択が可能になることを期待している。

 本政策パッケージにおいてはカーボンフットプリントの活用が盛り込まれているが、同政策案に限らず、カーボンフットプリントの算定や開示に関連した取組は、欧州が先行しているように映る。自動車業界においては、ドイツのBMWやフォルクスワーゲン、シェフラー等の大手自動車メーカーとサプライヤーが参画し、データ交換基準「Catena-X」※4の利用組織である「Cofinity-X」※5が本年2月に発足した。GHG排出量の正確な把握や開示を実現し、カーボンフットプリント等のラベルを活用して対外的に環境価値を訴求していくことを目指している。
 日本においては、2023年3月に経済産業省と環境省が共同で調査・策定した「カーボンフットプリント レポート」及び「カーボンフットプリント ガイドライン」が公表されている※6。カーボンニュートラル実現のためのサプライチェーン全体での排出削減に向けて、グリーン製品が選択されるような市場を創出し、日本の経済成長に繋げていくことを目的に策定された。同レポート内には、日本におけるカーボンフットプリント市場において、産業の特性別の方向性が示唆されている。
 環境価値に対する欧州のトレンドを後追いするようなかたちにはなるのかもしれないが、日本国内においても今後カーボンフットプリント市場が成熟する可能性はあると考える。特に、サプライチェーン上流の業界(鉄鋼、化学等)においては、カーボンフットプリントの対応が活発化することが予測される。欧州における最新情報をベンチマークし、読者の皆様へ共有していきたい。

引用

※1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_3767

※2 https://transport.ec.europa.eu/transport-themes/mobility-strategy_en

※3  https://www.iso.org/standard/78864.html

※4 https://www.data-infrastructure.eu/GAIAX/Navigation/EN/Home/home.html

※5 https://www.cofinity-x.com/

※6 https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230331009/20230331009.html