欧州理事会はEUにおけるGHG排出削減目標の分担(Effort Sharing Regulation :ESR) 、土地利用・土地利用変化及び林業(Land Use,Land Use Change and Forestry :LULUCF)に関する規則を改正へ
~「Fit for 55」達成に向けた施策を強化するEU~

(文責:青木 翔太)

 欧州理事会は、2022年11月8日にEUにおけるGHG排出削減目標の分担に関する規則(ESR:Effort Sharing Regulation ,以下ESR規則)、また、同年11月11日に土地利用・土地利用変化及び林業規則(LULUCF:Land Use,Land Use Change and Forestry ,以下LULUCF規則)、の両規則の改正について、欧州議会と暫定的な政治的合意に達したことを発表した。※1※2両規則の改正は、欧州委員会が2021年7月14日に発表した「Fit for 55」における施策の一部とされている。「Fit for 55」とは、2030年にEU全体でGHG排出量を55%削減(1990年比)するための政策パッケージである。両規則の概要及び改正内容については、以下となる。

(1)ESR規則

①概要
・ESR規則は、道路運輸、建物、農業、小規模生産設備、廃棄物処理といった分野を対象にして、加盟国ごとに拘束力のあるGHG削減目標を設定するものである。現行のESR規則では、2030年にEU全体で29%(2005年比)のGHG排出削減を目指すことが掲げられている。

②改正内容
・ESR規則における対象分野からのEU全体での削減目標を、現行目標(29%)から11%引き上げて40%とする。これに伴い、各加盟国の削減目標についても、一部の国を除き、現行目標から約10%引き上げる。(図1)
・年間削減目標を上回った削減量の翌年以降への繰り越し、年間削減目標が未達成の場合の翌年削減予定分の前倒しでの利用、EU加盟国間での排出量の売買、といった現行規則で活用を認めている制度に加えて、LULUCF部門でのGHG吸収貯蓄量の余剰分を排出削減量として利用できる仕組みを取り入れる。

図1 ESR規則における各国GHG削減の目標水準(2005年比)

出典:欧州委員会公表の資料※3を基にBCJ作成

2) LULUCF規則

①概要
・LULUCF規則は、土地と森林、及びその他のバイオマスの管理によって発生するCO2・メタン(CH4)・一酸化二窒素(N2O)のGHGの排出と吸収を対象物質としている。加盟国は、対象分野からの排出量が吸収量を超えないようにすることが義務づけられている。

②改正内容
・2025年までは従来通りの義務が加盟国に適用される。新たな目標として、2030年には対象物質における年間吸収量が年間排出量をEU全体で3億1,000万tCO2-eq以上、上回ることを掲げている。2031年以降は、農業部門由来の上記GHGを対象に含め、2035年までに対象物質のカーボンニュートラルをEU全体で目指す。

 今回欧州理事会が合意した内容は、欧州委員会が提案している両規則の改正内容に沿う形となっている。また、欧州理事会は、両規則に加えて、EU排出量取引制度European Union Emissions Trading System ,以下EU-ETS)の改正も進めている。EU-ETSとは、EU域内において、各国や企業毎に温室効果ガスの排出枠を定め、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えてしまった国や企業との間で取引を行う制度である。改正案では、道路輸送と建物部門の燃料を対象とする排出量取引制度の新設が含まれており、両部門はESR規則とEU-ETSの双方が適用される予定となる。

 EUが展開するこれらの施策について、日本の動向に目を向けると、温度差が見受けられる。1990年以降、日本の土地利用・土地利用変化及び林業分野からのGHG吸収量は排出量を上回り続けているものの※4、吸収量に関する具体的な目標は定められていない。唯一、森林のみを対象として、2030年までに年間約3,800万tCO2-eqの吸収を目指す目標が掲げられるのみとなっている。※5また、環境省は、炭素の排出量に価格付けを行うカーボンプライジングの具体的な施策の一つとして排出量取引を取り上げる一方、将来的な制度の導入については現時点でもなお検討段階としている。※6

 欧州理事会が今回発表した暫定的な政治的合意により、ESR規則とLULUCF規則の改正案は今後、欧州議会との正式な可決を経て委任規則となる。EUでは、本稿でも言及したEU-ETSに加えて、再生可能エネルギー指令についても規則を強化する最終段階に入っており、「Fit for 55」達成に向けた個別施策の整備が着々と進められている。なお、再生可能エネルギー指令については、弊社NEWSによる2022年10月7日更新の【再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive:REDⅢ)が改正へ~再生可能エネルギー比率の2030年目標を45%以上に引き上げ、森林バイオマス利用は再生可能エネルギーの対象に留めることを決定~ - BAUM Consult Japan】を参照されたい。

参考資料

※1 

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/11/08/fit-for-55-eu-strengthens-emission-reduction-targets-for-member-states/

※2 

https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2022/11/11/fit-for-55-provisional-agreement-sets-ambitious-carbon-removal-targets-in-the-land-use-land-use-change-and-forestry-sector/

※3 

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=COM:2021:555:FIN

※4 

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/unfccc/2022unfccc.html

※5 

https://www.env.go.jp/content/900446213.pdf

※6

https://www.env.go.jp/policy/post_171.html