有価証券報告書にサステナビリティ情報の開示が求められる時代に
~グローバル基準とのギャップを埋めていく必要がある~

(文責:青木 翔太)

 2022年11月7日、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を発表した。※1改正案では、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」を言及している。改正案は、2023年4月以降の事業年度における有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という)に適用される予定となる。「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」に関する改正事項を以下に示す。

(1)サステナビリティ全般に関する開示
・有価証券報告書等に「サステナビリティに関する考え方及び取り組み」の記載欄を新設する。
・「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求める。
・将来情報の記載については、「社内で適切な検討を経た上で、その旨が、検討された事実や仮定等とともに記載されている場合には、記載した将来情報と実際の結果が異なる場合でも、直ちに虚偽記載の責任を負うものではないこと」を明確にする。
・サステナビリティに関する活動状況の記載については、活動の詳細な情報に関する任意開示書類を参照することができる。

(2) 人的資本、多様性に関する開示
・人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等については、必須記載事項とする。
・女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表している会社及びその連結子会社に対して、これらの指標を有価証券報告書等においても記載を求める。

(3)サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みの内容
・「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待される。
・GHG排出量について、Scope1・Scope2の積極的な開示が期待される。
 Scope1: 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
 Scope2: 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
・「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきである。

 さて、日本では、国内におけるサステナビリティ開示基準の開発や、国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献を目的として、「サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)」が2022年7月に発足している。2022年11月24日、SSBJは今後の委員会の運営に係る基本方針を公表しており、本方針では、国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という)が規定する基準をベースに、国内の開示基準を国際的に整合させていくことが示されている。ISSBは、2022年3月31日にサステナビリティ及び気候関連開示に関する草案を公表しており、早ければ2023年に最終基準を発行することを目指している。

 ここで、ISSB基準の草案に関して言及したい。草案は、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく枠組みとなっており、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様の枠組みが採用されている。一方で、4つの構成要素の内容については、TCFDと比較して一部追加的な開示事項が見受けられる。(表1) 表1から把握できるように、ISSB基準の草案は、TCFDの枠組みをベースとして、開示内容をより詳細に充実させたものとなっている。なお、日本では2022年4月からプライム市場に上場している企業が、TCFDに基づく情報開示を実質的に義務づけられている。

表1

【構成要素】  【TCFDと比較して追加的に要求されている情報開示の内容】
ガバナンス・気候関連のリスク及び機会の監督に責任を有する機関又はその構成員の特定。
・気候関連のリスク及び機会に対する当該機関の責任が、企業の付託事項、ボード(取締役会)の義務、及び他の関連する方針にどのように反映されているか。
・気候関連のリスク及び機会に対応するために、適切なスキル及びコンピテンシーを利用可能にすることを、当該機関はどのように確実にしているか。
 なお、コンピテンシーとは、一定の職務や作業において、絶えず安定的に期待される業績をあげている人材に共通して観察される行動特性のことを指す。
・気候関連のリスク及び機会の管理に、専用の統制及び手続が適用されているのかどうか、並びに、適用されている場合には、それらが他の内部機能とどのように統合されているか。
戦略・ビジネスモデル、戦略、資源配分、生産プロセス、製品、労働力の変更を含め、企業がリスク及び機会に対し、どのように直接的に対応しているのか。
・顧客及びサプライヤーとの協力を含め、企業がリスク及び機会に対し、どのように間接的に対応しているのか。
・企業の戦略及び計画では、どのように資源が供給されるのか。
・投資計画及び資金源を含め、財政状態が時間の経過とともに、どのように変化することを見込んでいるか。
・財務業績(売上及びコスト)が時間の経過とともに、どのように変化することを見込んでいるか。
・戦略のレジリエンスにおける重大な不確実性の領域。
・時間をかけて戦略を修正又は対応させる企業の能力。
・レジリエンス分析又はレジリエンス評価が、どのように実施されたのかに関する詳細。
リスク管理・機会の識別及び優先順位付けに使用したプロセス。
・リスクの識別に使用するインプットパラメータ。(例えば、データソース、対象となる事業の範囲及び仮定に用いられる詳細)
・過去の報告期間と比較して、使用したプロセスを変更したか。
指標及び目標・企業の産業及び活動に関連する産業別指標。
・Scope1,2については、(1)連結会計グループ、及び(2)関連会社、共同支配企業、非連結子会社又は連結会計グループに含まれない関係会社に関する排出量の開示。
・Scope3における排出量の開示。
 Scope3: Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する 他社の排出)
・目標は、気候変動に関する最新の国際的合意において作られたものとどのように比較するのか、及びそれは第三者により検証されているか。
・目標はセクター別の脱炭素化アプローチを用いて算定されているか。

出典:※2~※4を基にBCJ作成

 また、世界最大の環境情報開示のプラットフォームを有するCDPは、気候関連開示のグローバル基準としてISSB基準を支持している。CDPは、2022年、全世界18,700社(日本企業1,700社含む)にTCFDに準拠した気候変動質問書を送付しているが、2024年から質問書をISSBの気候関連開示の基準に整合させる方針を示している。※5

 今回の金融庁が発表した改正案について、CDPは2022年12月16日に意見書を公表しており、以下の点を強調している。※6

■気候変動情報開示の義務化
・諸外国では気候変動情報開示の義務化の流れが強まりを見せており、1.5℃目標を達成するためには、すべての企業で対応が必要となる。日本企業がISSBの開示基準に早期に対応できるようにするためにも、すべての国内企業の気候変動情報開示の義務化を規制として後押しすべきである。

■「戦略」及び「指標及び目標」の開示
・「ガバナンス」、「リスク管理」だけでなく、「戦略」「指標及び目標」についても、すべての企業が開示することを促すべきである。

■Scope3排出量の開示
・改正案では、ISSBの公開草案で要求事項として示されているScope3の開示について言及されていない。企業がScope3開示に早期に対応を開始できるよう、いち早く開示推奨項目とするべきである。

 上述のCOPの意見書にもあるように、金融庁の改正案とISSB基準では相違点が存在する。金融庁は改正案の発表に伴い、「サステナビリティ情報の開示における重要性(マテリアリティ)の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、本原則の改訂を行うことを予定しています。」としている。SSBJやCDPが公表している方針も踏まえると、国内におけるサステナビリティ情報の開示基準について、今後、さらなる内容の国際基準への整合が求められると予想される。このような意味で、グローバル・スタンダードであるISSBの基準と日本とのギャップを見極めていく必要があるように思う。