インドネシアで水素化植物油(HVO)は普及するか? IEAのRenewables 2023からの考察

(文責:青野 雅和)

 Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028 が公表された。本報告書を要約すると、以下のように説明されている。

  • 主要予測として 2023年から2028年の間に、130カ国以上における支援政策により、ほぼ3700GWの新規再生可能エネルギー容量がオンラインになる。
  • 太陽光発電と風力発電は2028年に25%に倍増すると予測され、世界の再生可能エネルギー拡大の95%を占め、化石燃料や非化石燃料よりも低い発電コストの恩恵を受ける。

 本稿では、Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028を含むその他のIEAの資料からインドネシアにおける再生可能エネルギーの導入の動向に注目し、最後にバイオ燃料に焦点を当て紹介したい。

1.インドネシアの発電構成

 インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアを含むASEAN諸国の一部では、既存の石炭火力発電所やガス火力発電所の過剰設備が、再生可能エネルギーの迅速な導入の大きな障害となっている。そのため、過去10年間、この地域の多くの国々は、楽観的な電力需要予測と設備容量に対する保守的な安全マージンに基づき、主に石炭火力などの従来型発電資産に過剰投資を行った。その結果、今日、この地域の予備余力(ピーク需要に対する発送可能容量の余剰)は50%を超えることが多く、インドネシアでは90%以上に達している。このように化石燃料に依存している現状は、脱炭素戦略の策定に制約を生み出しているとも推察できる。図1にVREのシェア(左)と配電可能容量とピーク電力需要(右)を示す。東南アジアでVREの導入が最も進んでいるのはベトナムであり、上述した化石燃料依存のインドネシアは2022年で0%となっている。
 電源構成を図2に示した。化石燃料は化石燃料が61%、天然ガス火力が17%、石油火力が3%の計81%であり、再生可能エネルギーは水力発電8%、地熱発電5%、バイオマスエネルギーが6%の計19%となっている。

図1. メインケース予測における変動性再生可能エネルギーVariable renewable energy (VRE)発電のシェア、2016-2028年(左)。配電可能容量とピーク電力需要、2022年(右)

出典:Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028

図2.インドネシアの発電構成(2021年)

出典:IEA Navigating Indonesia’s Power System Decarbonisation with the Indonesia Just Energy Transition PartnershipよりBCJ作成

2. インドネシアの再生可能エネルギー導入に関する政策

 インドネシアでは、政府が2022年に政令を公布し、オークション方式による新たな再生可能エネルギー支援制度の枠組みを確立した。しかし調達やプロジェクト開発に必要な詳細規制は2023年10月時点ではまだ未確定である。このため新政策の効果が期待される時期が遅れている。

 こうした状況下、インドネシア共和国政府は、日本やアメリカ合衆国が共同主導(ほかにカナダ、デンマーク、欧州連合、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、英国が参加)し、石炭から再生可能エネルギーへの移行に向けた取り組みを支援する「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」に関する共同声明に2023年に合意した。このパートナーシップは200憶ドルの資金を導入することとなっている。  図3にJETPの支援シナリオで形成される部門別グリッド需要と電力需要の構成を示す。インドネシアでは2050年の電力需要が2022年の約9倍に伸びることを予測しており、凄まじい伸びである。2045年から水素を利用していくことが伺える。

図3. JETPの支援シナリオで形成される部門別グリッド需要(左)と電力需要(右)

出典:IEA Navigating Indonesia’s Power System Decarbonisation with the Indonesia Just Energy Transition Partnership

 IEAによれば世界の再生可能エネルギーにおいて水力発電の増加分の半分はインド、パキスタン、インドネシアで占められ、地熱発電の成長においても世界の増加分の半分をインドネシアとケニアで占めるという。インドネシアでは村営の水力発電会社が存在することで知られているが、地熱発電は現時点で世界第2位の発電容量を誇り、2022年現在8,380万kWである。

3. インドネシアにおけるバイオ燃料の動向

 以下の図4(左図)において、世界のバイオ燃料の需要は、2023年から2028年にかけて380億リットル拡大すると予想されている。リニューアブルディーゼル(HVO含む次世代バイオディーゼル)のシェアが増えており、バイオディーゼル(FAME)の生産を超えると示されている。また、インドネシアでは、2017年から2022年までバイオ燃料の生産が大幅に増加(図からは約70億リットル/年)したことも読み取れる。

図4. 燃料別(左)と各地域(右)の5年間のバイオ燃料需要の伸び(主要ケース)、2011-2028

出典:Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028

 図4からは2023年以降の新規バイオ燃料需要の大半は、新興国、特にブラジル、インドネシア、インドからもたらされると示されているが、インドネシアはインドの2倍の生産量となることを予想していることが興味深い。

 図5に新興国の5年間のバイオ燃料需要成長率(左)と道路輸送需要成長率(右)(主要ケース、2023~2028年を示した。ここでは左図において、2017‐2022年期間では、インドネシアのバイオディーゼル需要が約80憶リットル/年、2023-2028年期間では40憶リットル/年あることを示している。また右図では2023-2028年期間のインドネシアの道路需要におけるディーゼル燃料は約50憶リットル/年あると推測されており、約10億リットル/年を輸入する必要があることが伺える。
 輸送用燃料の需要が急増するなか、インドネシアは、石油の輸入依存度を下げるためにバイオ燃料に依存し続けるだろうとIEAは予測している。過去10年間の平均価格はエネルギーベースで化石燃料より15〜80%高い。そのため、インドネシア国民や企業のコストへの影響を軽減するため、直接燃料補助金が付随しているとのこと。

図5. 新興国の5年間のバイオ燃料需要成長率(左)と道路輸送需要成長率(右)(主要ケース、2023~2028年)

出典:Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028

 一方、バイオ燃料を製造するための地域別の原料需要を見てみよう。図6を見るとインドネシアでは2028年に向けて植物油を原料として利用されるとの予測が示されており、ほぼ100%となっている。これはパーム油等の消費が主であるが、EUや米国のようにUCO(used cooking oil)の需要が見られない。

図6. バイオディーゼル(FAME)とリニューアブルディーゼル(HVO):左とSAF:右の地域別原料需要(主要ケース:2023-2028年)

出典:Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028

 IEAによれば、インドネシアではバイオディーゼルの混合比率は、2028年までに輸送用で35%、非輸送用で35%近くまで増加する。主な混合源はバイオディーゼルで34%、次いでリニューアブルディーゼルが3%である。バイオディーゼルの使用は、適合性の問題から35%未満にとどまり、リニューアブルディーゼルは計画中のプロジェクトに限定されると推察している。現時点ではインドネシアでは2023年2月7日にバイオディーゼルの基材として軽油に混ぜるパーム油由来成分の割合を30%から35%に定めた。
 一方でEUは森林破壊防止規制を2024年12月に施行予定としており、大豆、牛肉、パーム油、木材、カカオ、コーヒー、ゴムの7品目と、これらを原料にした飲料品や食品、紙製品、タイヤ、家具などの広範囲な製品の欧州連合(EU)への輸入・販売を禁止することとしている。製品を扱う企業は、サプライチェーン上流の生産地まで遡ったデューディリジェンスを義務付けられ、森林破壊や人権侵害に関与していないことを証明することも求められる。

 こうしたEUの規制の影響を受け、インドネシアでのバイオディーセルへの植物油利用に影響を及ぼす可能性は大きいだろう。インドネシアでのバイオディーゼルの原料調達の今後の推移を見守ることは非常に興味深い。

引用

IEA「Renewables 2023 Analysis and forecast to 2028」:https://www.iea.org/reports/renewables-2023

IEA「Navigating Indonesia’s Power System Decarbonisation with the Indonesia Just Energy Transition Partnership」:https://www.iea.org/reports/navigating-indonesias-power-system-decarbonisation-with-the-indonesia-just-energy-transition-partnership