ロシアからカナダに天然ガス輸入の軸を移すドイツ。グリーン水素も25年に同国より調達し、その他複数のチャネルを構築へ

(文責:青野 雅和)

 ドイツはロシアによる天然ガス供給を削減する方針を受け読者も周知のとおり、冬季に向け企業や国民に節約を促す状況に至っている。現時点でガス代が3倍にも高騰しているという。

 これはドイツが天然ガス供給のチャネルをロシアに依存したことが原因であり、そのチャネルが現実的に閉じる方向で事象が展開していることである。7月25日にはドイツに天然ガスを送る海底のパイプライン「ノルドストリーム」が保守点検作業を理由として、ロシアが7月27日からは供給量が本来の80%迄に削減するとドイツに通告し、これによりドイツは今年の冬にエネルギー不足に陥る事態が懸念されている。そこで、ドイツ政府は2022年末までに残る3基の脱原子力を停止し「脱原発」を実現する予定であったが、この3基の廃炉を延期することにした。

■「ノルドストリーム2」によるエネルギーリスク連鎖の回避

 さて、この「ノルドストリーム」であるが、新設の「ノルドストリーム2」の運用を巡りロシアのウクライナ侵攻の影響を受け電力にも問題が派生している。
 「ノルドストリーム」はロシアの国営企業ガスプロムを大株主とするノルドストリームAGが所有・運営しているが、「ノルドストリーム2」は2021年9月に建設が完了し、ドイツ政府の運営開始の承認を待っていた状態であった。しかし、ウクライナへのロシア侵攻を受け、ドイツ政府は認証作業を停止した[i]。ここで問題となるのが、この「ノルドストリーム2」の出資者の1社であり、34GWの発電能力のうち約6割をLNG発電とする電力会社ユニパ―(Uniper)である。
 同社は此度のロシアからの天然ガス供給量の減少と高価格、これに加え前述の「ノルドストリーム2」の運用許可の認証作業の停止により破産寸前となっていた。しかし、ユニパ―が破産すると大変な事態となる。ドイツ政府としてはロシアの天然ガス供給削減によるエネルギー危機の連鎖を食い止める手段の一つとして、ユニパーの救済パッケージに取り組み、ドイツ政府は2022年7月にUniperを150億ユーロで救済することに合意し、ドイツ政府はユニパーの30%の株式を取得することになった。

■ドイツはカナダからLNGとグリーン水素を調達へ

 シュルツ首相は8月22日にカナダのトルドー首相とモントリオールで会談し、トルドー氏は会談後の記者会見で、カナダで産出する液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出について「我々ができることをする[ii]」と述べ、前向きな姿勢を示した。此度の会談では「天然ガス」のみならず「グリーン水素」についても触れていることが重要である。
 ドイツは、ロシアによる天然ガス削減の代替エネルギーとして、カーボンニュートラルな経済を構築しようと試み、カナダからのグリーン水素調達は早ければ2025年を目指すとしている。カナダは水力発電による電力需要が多く、水電解水素製造装置への安価な電力供給でグリーン水素製造が可能である。然しながら国内での水素需要が多くなく、過去にはノルウェーへの水素輸送を検討した経緯がある。

■ドイツは水素調達の布石を着々と進めている

さて、ドイツは2020年に国家水素戦略を発表し、水素セクターに関しては技術輸出とグリーン水素の生産と国際調達に主眼を置いている。また、ロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツ政府はロシアの天然ガス供給リスクから経済を切り離すために、今後数年間で2000億€をエネルギーヴェンデ(エネルギー転換)に割り当てることを2022年3月に公表している。
 に国家水素戦略公表後の2年間の経過とロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツは複数の国とエネルギー調達のチャネルを構築している。既にカナダは前述したが、その他の国々ともエネルギー調達プロジェクトを検討している。以下にかいつまんで紹介しよう。

①カナダ:グリーンアンモニアの調達

 カナダの大西洋岸州(ノバスコシア州やニューブランズウィック州を含む)で生産されるグリーン水素は、風力発電由来の電力を水電解水素製造装置で利用し製造され、その後大西洋を渡ってアンモニアの形でドイツに出荷される予定。
 カナダ政府は、グリーン水素とその派生物の生産の為に、民間部門へ15億カナダドル、グリーン燃料基金に11億6000万カナダドル、戦略的イノベーション基金ネットゼロアクセラレーター・カナダインフラ銀行などのプログラムを活用に80億カナダドルを投資する意向。州や州に準ずる地域との協力を強化していく。
 これらの製品はカナダ国内で使用し、ドイツのみならず欧州・アジアへの輸出も検討するとのこと。

②ナミビア:グリーンアンモニアの調達

 2022年3月にドイツはナミビアと水素の協力協定を締結[iii]。ナミビア南部でのグリーンアンモニア生産プロジェクトを含む水素ランプアップ計画を検討している。ドイツはヨーロッパ最大のアンモニア消費国であることから、グリーンアンモニアを調達することはCO2削減に大きく貢献する。
 ナミビアで陸上風力と太陽光発電から電力を製造する。乾燥した同国では水不足であること、また水電解水素製造装置では大量の水も必要なため、淡水化プラントを計画する。地元住民には水を供給し、グリーン水素を製造しグリーンアンモニアを製造する。
船舶の輸送を検討していることから、新しい港湾施設も計画するとのこと。

③オーストラリア:グリーン水素

 ドイツ政府は2021年6月にオーストラリアと「ドイツ・オーストラリア水素協定」を締結[iv]。その後、2022年3月7日にドイツとオーストラリア間のグリーン水素(注)サプライチェーン構築に向けた資金提供プロジェクトである「HyGATE(German-Australian Hydrogen Innovation and Technology Incubator)[v]」を発表し、オーストラリアからのグリーン水素の調達を推進している。
 具体的な事業としては、オーストラリア北部のノーザンテリトリー州のダーウィンで1GWのグリーン水素製造プロジェクトをTotal Eren社が展開[vi]。既にノーザンテリトリー政府とグリーン水素プロジェクトを開発するための協定を締結している。同プロジェクトは2GWの太陽光発電由来の電力を1GW の水電解水素製造装置で利用し、年間80,000トンの水素を生産することを目標としている。同プロジェクトのオフテーカーはドイツに限らず、シンガポール、日本、韓国、中国、台湾を予定している。
 加えて、オーストリアのグリーン水素スタートアップFortescue Future Industries(FFI)はドイツの電力会社E.ONと最大500万トンのグリーン水素を製造する計画を検討中[vii]。同プロジェクト由来のグリーン水素はドイツがロシアから輸入する発熱量の約3分の1に相当するとのこと。

④オランダ、フランス、ベルギー、チェコ、デンマーク:水素パイプラインの計画

 2022年3月24日、電力会社であるRWEとガス供給事業者であるOGEはグリーン水素製造の為の1GWの水電解水素製造装置・水素貯蔵とドイツ全土への水素を供給する1500㎞の新たなパイプラインの建設に協力することを公表した。[viii]
 H2erculesと呼ばれる35億ユーロ(38億6000万ドル)の計画は、ドイツ北部の電解装置、貯蔵・輸入施設をドイツ西部と南部の産業消費者と結びつけることを目的としており、現在開発中の南部と東部からの追加の輸入ルート(下記図参照)は、2030年までに接続される予定とのこと。2030年までにドイツの産業センターからの水素需要の3分の2を本プロジェクトでカバーできると紹介している。

図 H2erculesのパイプライン設置予定図

出典:RWE社 ニュースリリースより

⑤UAE:液体有機キャリアによる水素輸送

 ドイツの経済・気候保護省がユニパー(前述のUniper)とRWE、日本の天然ガス・電力事業者であるJERAは、アブダビ国営石油会社(ADNOC)とともに、ハイドロジーニアス(Hydrogenious)の保有する液体有機水素キャリア(LOHC)技術を使用して、アラブ首長国連邦(UAE)からドイツに水素を輸送する計画で協力関係を強化すると2022年3月21日に発表。UAEからドイツの北海港ヴィルヘルムスハーフェンまでのグリーン水素サプライチェーンを構築する[ix]

 脱ロシアとしてエネルギー調達に奔走するドイツは、カナダからのLNG調達が何時になるかを明言していないものの、着実に手を打っている。同じ週での出来事として、日本はサハリン2の事業継続を更新することとなった。日本政府は新たなチャネル構築の手を打てなかったのであろうか。

[i] https://www.bmwk.de/Redaktion/EN/Pressemitteilungen/2022/02/20220222-minister-habeck-comments-on-the-situation-in-eastern-ukraine-and-the-discontinuation-of-the-certification-procedure-for-nord-stream-2.html

[ii] https://www.bundesregierung.de/breg-en/news/federal-chancellor-scholz-in-canada-2078234

[iii] https://www.bmbf.de/bmbf/shareddocs/kurzmeldungen/en/Karliczek-Germany-and-Namibia.html

[iv] https://www.dcceew.gov.au/about/news/australia-germany-working-together-on-renewable-hydrogen

[v] https://www.bmbf.de/bmbf/en/home/_documents/german-australian-supply-chain-for-green-hydrogen.html

[vi] https://darwininnovationhub.com.au/innovation/partnerships/northern-territory-hydrogen-cluster/

[vii] Australian-German business coalition produces a roadmap for large scale green hydrogen import to Germany | Fortescue Future Industries (ffi.com.au)

[viii] https://oge.net/en/press-releases/2022/hydrogen-fast-track-oge-and-rwe-present-national-infrastructure-concept-h2ercules

[ix] https://adnoc.ae/en/news-and-media/press-releases/2022/adnoc-expands-strategic-partnerships-across-the-hydrogen-value-chain-with-leading-german-companies