グリーンメタノールが船舶におけるドロップイン燃料として最適か?
~船舶利用をトリガーに普及する可能性も~

■ 日本で利用されるグリーンメタノールは輸入製品となるだろう

 グリーン水素と二酸化炭素を用いてメタノールを製造する動きが日本でも活発化してきた感がある。2023年の6月6日に公表された水素基本戦略においては、産業部門でグリーン水素に移行促進することを明文化しているが、日本国内でのグリーン水素の製造を推進することではなく、水電解装置の技術開発や国際間輸送の技術に焦点を当てている印象である。日本では再生可能エネルギーの新電源を創出することが難しい状況であると読み替えることも出来る。従い、日本におけるグリーンメタノールの開発は生産技術に焦点を当てた実証実験を展開しており、生産は海外で展開していくこととなるであろう。
 日本においては三井物産や三菱化学がやはり海外(前者はデンマーク、後者はオーストラリア)での生産を目指している。一方、大阪ガスはメタノールの原料となるグリーン水素の調達先を明らかにしていないが、大阪の堺市での生産を2027年に目指すとしている。その他東京ガスは実証実験済みであり、東邦ガスは2030年までに都市ガス製造を推進することを、西部ガス、静岡ガスが実証に取り組むことを表明している。日本にはガス会社が約200社存在し、都市ガスやLPGを供給しているが今後はグリーンメタノールも視野に入れ供給を目指すこととなるであろう。

■ ドイツではスタートアップ「C1[ⅰ]:Carbon 1」がグリーンメタノール開発を牽引

 ベルリンを拠点とする気候技術スタートアップ C1 は、そのパートナーであるフラウンホーファー風力エネルギーシステム研究所 IWES、フラウンホーファー環境安全エネルギー技術研究所 UMSICHT、DBI-ガス技術研究所フライベルク、ベルリン工科大学と協力してグリーンメタノールを開発する「Leuna100」プロジェクトの始動を発表。このプロジェクトの目標は、海洋および航空用途向けに、市場に投入できるグリーンメタノールを拡張可能に生産することである。同社はドイツのロイナで C1 触媒プロセスを利用してグリーン メタノールを生産している。
 このプロジェクトはドイツ連邦デジタル省・運輸省 (BMDV) から今後 3 年間で総額 1,040 万ユーロの資金提供を受けることとなっている。そのほかにもベンチャーキャピタルである「Planet A」からも資金を受けている。
 また、ドイツ政府はオーストラリア政府とグリーンメタノール製造の実証プラントの資金提供を進めている。これは、ドイツ・オーストラリア水素イノベーション・テクノロジーインキュベータープログラム(HyGATE[ⅱ])の下でコンソーシアムを設立し推進していくプロジェクトである。HyGATEではオーストラリアで集中太陽熱発電を行い、グリーンメタノールを製造するプロジェクトである。集中太陽熱発電は太陽光線からの反射熱を蓄え夜間でも発電することで24 時間 365 日の再生可能電力ソリューションを可能にする技術である。同技術でグリーン電力を発電、グリーンメタノールの原料として大量製造することを目指している。

■ デンマークの海運会社はグリーンメタノール利用を推進

 デンマークの海運大手Marskは、グリーンメタノールの利用に傾注しているように見える。同社は2023年6月26日、グリーンメタノール燃料対応の「dual-fuelエンジン」を搭載する、中型コンテナ船6隻を発注したと8月14日に発表した。[ⅲ]
 今回の6隻の追加により、同社が発注したグリーンメタノール対応船は合計25隻になり、既存の保有船舶を順次入れ替える予定だ。
 6隻のコンテナ船は、20フィートコンテナ換算(TEU)で9千個の積載能力を持つ。なお、既存船を同サイズのグリーンメタノール対応船に置き換える場合、温室効果ガスの年間排出量は、同社の燃料ライフサイクルベースで約45万トンの削減に相当する。

 また同社は平行して、メタノール生産にも投資している。同社が出資するC2X[ⅳ]社のエジプト工場でグリーンメタノールの大規模生産に向け4500憶円を投資。2030 年までに、世界中の有利な場所でのプロジェクトを展開し、年間 300 万トンを超える生産能力を持つことを目的としている。同工場の稼働迄に至るまでは、調達先を確保している。スペインの生産者からグリーンメタノール200万トンの供給を準備し、メタノール燃料の輸送を進めると発表している。

■グリーンメタノール船発注の動きが各地で見え始めた

 前述のMarskは蔚山の現代尾浦造船で建造された世界初の新造コンテナ船を7月に引き渡されている。ドイツではアルフレッド・ヴェーゲナー研究所/ヘルムホルツ極地海洋研究センター(AWI)が運営する長さ35メートルの研究用カッター「ウーテルン」でメタノール燃料推進システムを採用している。
 また、日本では商船三井が今年1月にメタノールを輸送し、且つ燃料をメタノールと重油のdual-fuelとなる「Cypress Sun」を竣工した。三井商船は世界最大級のメタノールフリート19隻を保有・運行している。現在世界で就航しているメタノールdual-fuelタンカー23隻のうち5隻を同社が運航している。[ⅴ]
 日立造船はドイツのMAN社からグリーンメタノールと重油のdual-fuelのテストエンジンを受注している。既にdual-fuelエンジンはLNGとディーゼル、水素とディーゼルの発電を開発している企業もあり、これでグリーンメタノールもラインナップされた。海運会社は燃料インフラと船舶双方で燃料選択を迫られることとなる。
 中国でも大連で大連船舶重工集団がグリーンメタノール船の建造を計画している。

 グリーンメタノールはドロップイン燃料として、アンモニアや水素などと比較すると大規模な設備改修や追加コストがかからないことから、非常に有望な燃料といえよう。

表 各サプライチェーンでのグリーンメタノール利活用の展開

出典:各社ニュースリリースより抜粋

[ⅰ]

[ⅱ]

German-Australian Hydrogen Innovation and Technology Incubator (HyGATE) - Australian Renewable Energy Agency (ARENA)

HyGATE is one of three major initiatives developed as part of the Declaration of Intent between the Government of Australia and the Government of Germany on th…

[ⅲ]

Maersk orders six methanol powered vessels | Press Release

A.P. Moller - Maersk (Maersk) has made an order of six mid-sized container vessels – all having dual-fuel engines able to operate on green1 methanol.

[ⅳ]

C2X

We accelerate the journey to a fossil-free future through large-scale green methanol production for multiple industries

[ⅴ]