ドイツでnew clean heating rowが承認。家庭の化石燃料暖房システムの新規導入を禁止し、再生可能エネルギー由来の暖房システム（水素ボイラー）に移行へ
s.aoki(文責：青野 雅和)
ドイツでは４月１９日に新しく設置される化石燃料で稼働する暖房システムの新設備の導入を禁止する法案に合意した。本法案は2024年1月1日から施行される。化石燃料代替として65％の再生可能エネルギーで暖房システムを稼働させる必要があり、化石燃料利用による既存の暖房システムは2045年までに完全に稼働禁止となる。
以下に本法案の特徴及び影響 ⅰを以下に記す。
■石油およびガスの暖房システムが設置され、適切に稼働している家庭は、それらを引き続き使用でき、欠陥があれば修理することが可能。ただし、30年以上稼働しているシステムの所有者は、システムを交換する義務がある。
■再生可能エネルギーの65%運用要件は、80歳以上または低所得の住宅所有者には適用されない。本法律は、家が相続または売却された場合にのみ適用され、移行期間は2年間となる。
■2002年以前に引っ越した一戸建ておよび二世帯住宅の所有者を暖房交換から免除する。
■30年未満の稼働中の石油またはガスヒーターは交換する必要はない。
■最大60,000 ユーロの低金利ローンの提供
■本法律の罰金：5,000 ユーロ
■補助金：ベルリンは移行期の人々を支援するために多額の補助金を計画しており、ベルリン政府は新しい暖房システムの設置費用の 30% を補填。また、2024年1月1日までに新設備へ切り替える住宅所有者には 10% のボーナスを提供する予定
現在、ドイツの建物物では暖房の約80%が化石燃料によって消費されている。また、家庭のほぼ半数がガス暖房を使用しており、約25%が石油を動力源とする暖房を利用している。こうした状況下、多くの反対意見も出ているようだ。特にガス事業者からの反論が強い。ガスネットワーク事業者の全国協会によると、「この法案は「平手打ち」であり、ドイツのガス配給業者が 12 年以内にグリッドを水素に変換することは不可能であり、その結果、彼らはすべての作業を停止することになる」との意見を表明。また、DVGW（Deutscher Verein des Gas- und Wasserfaches：ガスと水に関する技術科学協会）議長の Gerald Linke 氏は「このような状況下では、水素への転換を開始し、すでに行われている取り組みを停止するガスネットワーク事業者はない。本法律は、水素経済の芽を完全に摘み取り、将来のエネルギー供給への危険な道である。」と否定的な意見を述べている。ⅱ
一方、政府側としての発言はクリアである。副首相兼経済・気候変動大臣であるロバート・ハベック氏は、新しい法案に「非常に満足している」と述べ、「クリーンエネルギーへの実用的な移行を可能にする」と発言。法案承認時には、ユーザーサイドへの補助金は提示されていることから、今後、ドイツ政府はガス事業者への配慮を検討していくことになるだろう。英国でも2026年に水素ボイラーに転換していく方針が打ち出されたことは弊社ＮＥＷＳⅲ でも紹介したが、ＥＵでは今後、英国・ドイツに続いて北海沿岸諸国が洋上風力由来の電力を熱利用していく動きが拡大していくと推察する。
G7気候・エネルギー・環境大臣会合が先週末（4月15日・16日）に開催され、終了した日本では、日本とその他国のギャップに対してメディアの焦点が当てれられているが、ドイツでのこのような法案を承認していく動きは「機を見るに敏」であり、ガスセクターがどのように転換していくか非常に興味深い結果となった。日本のガス事業セクターの方々も注目しているであろう。
さて、本法により、ヒートポンプ、ソーラーパネル、再生可能エネルギーを利用した水素ボイラーへの移行が加速することとなる。そして天然ガスの輸入への依存を減らし、2045 年までにカーボン ニュートラルを達成するための重要なステップになる。脱原発を達成したドイツ。経済的負担の問題に関し、諸処反対意見も出ているが、確実に収斂していく方向を明確に打ち出している。
[ⅰ] https://earth.org/germany-heating-ban/#:~:text=After%2030%20hours%20of%20negotiations,operated%20with%2065%25%20renewable%20energy.から整理
[ⅱ] https://www.hydrogeninsight.com/policy/will-german-gas-grids-switch-to-hydrogen-by-2035-as-new-clean-heating-law-requires-not-a-chance-say-gas-distributors/2-1-1438165
からGerald Linke氏発言を引用
[ⅲ]
2023年3月10日 ドイツ政府はブルー水素で水素火力発電を展開へ
～水素エネルギー貯蔵パイロット事業や家庭向けの水素給湯器を導入～https://baumconsult.co.jp/2023/03/10/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e6%94%bf%e5%ba%9c%e3%81%af%e3%83%96%e3%83%ab%e3%83%bc%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e3%81%a7%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e7%81%ab%e5%8a%9b%e7%99%ba%e9%9b%bb%e3%82%92%e5%b1%95%e9%96%8b%e3%81%b8/
2022年12月26日 英国における新規販売のボイラーは26年にも水素対応ボイラーに移行か？
https://baumconsult.co.jp/2022/12/26/%e8%8b%b1%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e6%96%b0%e8%a6%8f%e8%b2%a9%e5%a3%b2%e3%81%ae%e3%83%9c%e3%82%a4%e3%83%a9%e3%83%bc%e3%81%af26%e5%b9%b4%e3%81%ab%e3%82%82%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e5%af%be/