イタリアは20にものぼる大規模グリーン水素製造プロジェクトを推進へ
~ECが4億5000万ユーロの支援を承認~

(文責:坂野 佑馬)

 2023年4月3日、欧州委員会(EC)はグリーンディール産業計画に沿って、ネットゼロ経済(経済活動における全GHG排出量が正味ゼロの状態)への移行を促進することを目的として、イタリア政府が主導する大規模なグリーン水素製造計画に4億5000万ユーロの支援を承認した。同支援は、ECが2023年3月9日に採択した国家補助規制の一時的な緩和策であり、ネット ゼロ経済への移行促進を目的としたの「暫定危機・移行枠組み(Temporary Crisis and Transition Framework)※1」の下で承認されたものである。
 「国家補助規制」とは、EU域内競争を不当に歪める可能性があるとして、加盟国による特定企業に対する国家による補助は原則として禁止することを規制したもので、一定の条件を満たす場合にのみ、ECによる承認を受けた上で、例外的に認められている。
 また、「暫定危機対応枠組み(Temporary Crisis Framework)※2」であるが、ロシアのウクライナ侵攻による影響下においてネットゼロ経済を支援できるように、2022年3月23日に、新しい「暫定危機・移行枠組み(Temporary Crisis and Transition Framework)」として更新(採択)されている。この新しい「暫定危機対応枠組み」では、①「ロシア・ウクライナ危機、または関連する制裁や対抗措置によって影響を受けた企業に対し、限定的な額の援助」、②「銀行が危機の影響を受けたすべての企業に融資を継続するための補助的な国家保証及び金利を補助した公的・民間融資の提供」、③「ガス・電力価格の高騰によって生じた追加コストの補償」の3点をEU加盟国に許可している。
 ちなみに、「暫定危機対応枠組み」はさかのぼること2022年7月20日と2022年10月28日に2度の改正が行われていたが、「暫定危機・移行枠組み」に改定されることで、①「「暫定危機対応枠組み」を拡大するかたちでの、再生可能エネルギーの展開や産業の脱炭素化に対する支援」と、②「米国のインフレ削減法に対抗するかたちで、ネットゼロへの移行に向けて必要な主要分野(バッテリー、太陽光パネル、風車、ヒートポンプ、電解槽、CCUS等)に対する支援」の2点に関して、より柔軟な補助金の提供を認めるものとなっている。

 さて、冒頭のイタリア政府が主導するグリーン水素製造計画の詳細を紹介しよう。
 イタリアの環境・エネルギー省は今回のECによる承認に際し、「この投資は、産業界、SMEs(中小企業)、地域の交通機関においてグリーン水素の現地生産と使用を支援することで、特に南イタリアにおいて、その地域の再生可能な資源から水素を製造し、現地で使用する新しい水素地域を構築することを目的としている。」と発表している。
 イタリア政府は、2026年6月までに少なくとも10件以上の工業用地(ブラウンフィールド:汚染された土地)を拠点としたグリーン水素製造プロジェクト(総容量10-50 MW になると推定)を完成させることを目標にしている。2022年1月に資金提供先候補となるプロジェクトの公募が行われ、20の地域が選定された。以下に各地域におけるプロジェクトの概要を紹介する(表1)。

表1. 各地域におけるグリーン水素製造プロジェクトの概要

出典: 各地域の自治体HPより引用し、BCJ作成

 イタリア国内の20の地域において複数のグリーン水素製造プロジェクトが組成されている。そのほとんどがグリーン水素製造をメインとしたものであるが、複数の地域で水素の開発が推進されることによって水素市場の活性化に繋がり、将来的には様々な水素の活用へ発展していくことが予想される。水素に限らずだが、新技術を成熟させるためには同時多発的にプロジェクトを興し、基盤となる市場を構築することが重要なように思う。

 日本においても先月、環境省及び一般社団法人水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)が主体となり「自治体水素アワード」を共催していた※3。「自治体水素アワード」は優れた水素プロジェクトを推進している自治体を表彰するもので、山梨県、川崎市、兵庫県・神戸市、浪江町、鹿追町が選ばれている。また、JH2Aは脱炭素に向けた水素普及を金融面から推進するために、水素分野に特化した投資ファンドの設立検討を開始した。欧州において2021年に水素分野に特化した投資ファンドが設立され、既に水素プロジェクトへの投資が活発化しつつある状況を意識しての取組であり、2023年度中にファンド設立を目指すとしている。
 日本政府においては2023年4月4日、脱炭素の加速に向け、水素を普及させるための基本戦略を改定すると明らかにした。改定案では、次世代のエネルギーとされる水素の供給量を足元の200万トンから2040年に6倍の1200万トン程度に拡大すると明記している。今後15年間で官民合わせて15兆円を投資し、政府主導で脱炭素の環境整備を進める方針である。今後の日本における水素社会の発展に期待したい。

引用

※1  https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv%3AOJ.C_.2023.101.01.0003.01.ENG&toc=OJ%3AC%3A2023%3A101%3ATOC

※2  https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=uriserv:OJ.CI.2022.131.01.0001.01.ENG

※3  https://www.env.go.jp/press/press_01327.html