独・シュタットベルケの水素供給の現状:事業の展開が現実的な段階に

(文責:坂野 佑馬)

 弊社NEWSではかねてより、ドイツにおける環境・エネルギー関連の情報を発信してきた。本稿では、ドイツのシュタットベルケ(stadtwerke)における水素事業展開の一部を紹介させていただきたい。

 本題に入る前に簡単にシュタットベルケの説明をさせていただく。シュタットベルケはドイツ語の「Stadt:都市の」、「Werk:仕事」から日本語では「都市公社」と訳されることが多いが、民間事業として経営している自治体出資の公社のことを意味する※1。ドイツのシュタットベルケは約1400社存在し、19世紀後半からガス供給や上下水道、電力事業(発電・配電・小売り)、公共交通サービス等を時代のニーズに適応するかたちで市民へ提供してきた。2000年頃からは、再生可能エネルギー関連の事業に関しても展開を広げてきている。

 ここ数年、シュタットベルケでは近年の気候変動対策・脱炭素の要求の高まりに対応すべく、再生可能エネルギーのみに囚われるのではなく水素の活用に関しても検討を進めている。以下に水素事業の情報を記載させていただく。

表1. 水素事業を展開している独・シュタットベルケとその概略

出典:各種資料よりB.A.U.M. Consult Japan 作成

 そもそも、ドイツ国内では各地域ごとに多種多様な水素プロジェクトが組成されている。ドイツ連邦交通・デジタル・インフラ省(BMVI)が2019年から推進している水素地域を選定するコンペティションである「HyLand」イニシアチブ※2では、日本の環境省が主導する脱炭素先行地域※3のように、水素の先進的プロジェクトが選定されている。既に第 2ラウンド (HyLand Ⅱ) まで実施され、目的と資金調達の優先順位が異なる 3 つのカテゴリのコンセプト(HyStarter,HyExperts,HyPerformaer)に類別され、ドイツ全土 200 を超えるプログラムの応募から現在54のプログラムが選ばれている。加えて、州単位でも水素事業の先行事例を組成するためのコンペのようなものが開催されている。各水素プロジェクトが、各都市に加え、大企業、中小企業、大学、研究機関等が協業するコンソーシアムで検討が進められている。その中で、シュタットベルケが担当する分野としては、従来のエネルギー供給サービス(電力・ガス・熱供給)を水素でアップデートしていくと推察される。実際に今回整理した情報から、シュタットベルケにおける水素事業展開の傾向としては「水電解水素製造プラントの建設及び水素製造」、「水電解の排熱を活用した熱供給」、「天然ガス供給インフラを活用した水素供給網の検討」、「水素ステーションの設置と水素モビリティの運用」の4つの分野で水素バリューチェーンの川上から川下まで広く対応していることが分かった。

 「Power to Gas(P2G、電力を気体燃料に変換して貯蔵・利用する方法)」の概念として余剰電力を水素に変換して貯蔵・活用することは、従来の揚水式水力発電等を活用する手法と比較し、立地の制約や大容量化・コスト低減の課題、短時間供給に限定されることなどの欠点をクリアできる施策になる可能性がある。日本国内においては、シュタットベルケをモデルとした地域新電力が複数構築され、地域循環共生圏を実現するべく試行錯誤が続けられているが、水素の活用もプロジェクトに織り込むことは地域内の可能性拡大に寄与すると思う。もちろん、まだまだ水素を取り扱う技術が未成熟なことや製造コストが高いことなど課題は複数存在するが、弊社としては先進的に水素事業の展開を図るドイツ及びシュタットベルケの事例から、日本国内においても実現可能性のある優れた事例の情報を収集し、そのエッセンスを提供していくこととする。個別の情報が欲しい方はご連絡いただきたい。

引用

※1 https://jswnw.jp/stadtwerke.php

※2 https://www.hy.land/

※3 https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/