家庭の再生可能エネルギー利用として導入が進む地中熱利用                                              
~国内新築住宅へのヒートポンプ式暖房システムの導入割合が50.6%に~

(文責:青木 翔太)

 2022年6月2日、ドイツ連邦統計局(German Federal Statistical Office)は、2021年における新築住宅へのヒートポンプ式暖房システムの導入割合が50.6%になったことを発表した。2015年の31.4%から増加し続け、初めて半数以上を占める形となった。一方、ガス暖房システムの導入割合は、2015年の51.5%から2021年には34.3%となり、年々減少傾向にある。※1ここでのヒートポンプ式暖房システムとは、主に地中熱を利用して熱交換された温水を建物内の各所に供給して暖房する方式のことを指す。現在、ドイツでは地下室や機械室などに大型の暖房器具を設置して家全体を空調するセントラルヒーティングが一般的となっている。

 ここで、ドイツにおける家庭部門のエネルギー消費に関する動向に目を向けてみよう。北海道よりも高緯度に位置し、気候が比較的寒冷なドイツでは、家庭部門のエネルギー消費の中でも特に住宅の室内暖房におけるエネルギー消費量が多い。※22021年の住宅(新築を含む)における暖房エネルギー源の内訳を図1に示す。※3構成比では、ガスが49.5%を占める一方、電気式ヒートポンプや電気暖房の割合はごく僅かとなっている。従って、現状ではガスが室内暖房の主要なエネルギー源となっていると推察できる。

図1. ドイツの住宅における暖房エネルギー源の構成比(2021年)

出展:連邦経済・気候保護省の統計データを基にBCJ作成

 斯様な状況ながらも、本稿で示すようにドイツ国内で地中熱を利用したヒートポンプ式暖房システムの普及が進んだ理由として、次のようなことが考えられる。

 外気温度が低く暖房需要が大半を占めるドイツでは、日本のエアコンにあたる空冷ヒートポンプを利用した場合、多くの電力を消費することになる。そこで、ドイツでは、年間を通して温度が安定している地中から熱をもらうことにより、少ない電気エネルギーで高効率な暖房運転が可能になる地中熱ヒートポンプが、省エネルギー性能の高い暖房システムとして注目されてきた。

 ここで、ドイツのヒートポンプ市場の導入比率が増加している現況を裏付ける情報を紹介しよう。EUが掲げる2050年までにカーボンニュートラルを目指す「欧州グリーン・ディール」の基で必要となる住宅改修が、ヒートポンプ市場の拡大を後押しするとしている。ドイツ国内で同設備の高いシェアを持つロバート・ボッシュ社(Robert Bosch GmbH)は、ドイツ国内におけるヒートポンプの売上が増加する見通しを2021年4月22日に示している。※4

 一方、政策面では、ドイツはエネルギー・気候変動の観点から、建築物の冷暖房での自然エネルギー利用とエネルギー効率化を目的として、2020年から「建築物エネルギー法」を施行している。※5この法律では、新築建築物の冷暖房エネルギー需要に対して、地中熱や太陽熱などの自然エネルギーの利用を最低でも15%以上にすることが定められている。また、ドイツでは「効率的な建築物のための連邦資金」による自然エネルギー利用の暖房設備への公的補助金が用意されており、金銭的な支援が行われてきた。このような建築分野での法整備・施策に加えて、ドイツの2045年までにカーボンニュートラルを目指す先進的な目標設定が、化石燃料を利用する燃料式暖房システムからCO2排出量の少ないヒートポンプ式への切り替えを加速させているのであろう。

 今般のウクライナ情勢を踏まえ、ドイツではロシアの化石燃料への依存脱却に向けて、ガスを主要なエネルギー源として利用する建築分野における対策が急務となっている。そのため、ドイツは建築物の自然エネルギーの運用基準やエネルギー効率化をさらに強化することを目的に、「建築物エネルギー法」を年内に改正する予定だ。改正内容として、2024年1月以降は、可能な限り、新築建築物の冷暖房需要の65%を自然エネルギーで賄うことが規定される。また、ドイツは「効率的な建築物のための連邦資金」による公的補助金に追加資金を充てることで、特に効率の悪い既存建築物の改修に向けて大規模なヒートポンプ促進活動を展開する方針も示している。※6こうしたドイツ政府の政策は、今後、建築分野における化石燃料のエネルギー消費量や温室効果ガス排出量の削減を後押しすると推察される。

参考資料

※1  連邦統計局

https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/2022/06/PD22_226_31121.html

※2 自然エネルギー財団

https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_GermanyDecarbonizationInBldgs.pdf

※3 連邦経済・気候保護省

https://www.bdew.de/media/documents/Wohnungsbestand_Beheizungsstruktur_2021_online_o_dw_jaehrlich_CMi_18032022.pdf

※4  Robert Bosch GmbH

https://www.bosch.co.jp/press/group-2104-03/media/PI11299-ja.pdf

※5 連邦法務省

https://www.gesetze-im-internet.de/geg/index.html

※6 連邦財務省

https://www.bundesfinanzministerium.de/Content/DE/Downloads/2022-03-23-massnahmenpaket-bund-hohe-energiekosten.pdf?__blob=publicationFile&v=6