米国における核融合発電(Fusion Power)の近況
(文責: 坂野 佑馬)
本稿では、米国における核融合発電の動向を政府および民間の双方で紹介させていただく。米国においては、核融合発電は科学的実証の段階から、商業化に向けた産業基盤の構築と規制環境の整備へと、その重心を移行しつつあることが伺える。
米国政府による戦略的枠組みの確立と規制の明確化
- 米国エネルギー省(DOE)による「核融合科学技術ロードマップ(Fusion Science & Technology Roadmap)」の公表
DOEは2025年10月16日、「核融合科学技術ロードマップ(Fusion Science & Technology Roadmap)」[i]を公表した。同ロードマップでは、2030年代半ばまでに商用核融合発電を実現することを目指している。内容は、「BUILD–INNOVATE–GROW(構築・革新・成長)」という3本の柱で構成されており、それぞれが現在の核融合産業が直面するボトルネックに対する具体的な処方箋となっている。
- 建設(BUILD) -核融合産業を支える重要インフラの構築:
DOEは2030年代に到来する民間核融合産業の急速な拡大を支えるため、公的なインフラ整備を戦略的に推進すると述べている。同取組の中心となるのは、核融合炉の実現に不可欠な8つの技術分野(図1を参照)の発展である。具体的には、核融合反応によって生じる超高温のプラズマが炉壁に与える損傷や燃料であるトリチウム(三重水素)が炉壁に吸着する挙動を解明するため、オークリッジ国立研究所に「MPEX(Materials Plasma Exposure Experiment)」[ii]を建設し、短期間での成果を目指している。さらに、核融合炉の最大の課題の1つである、高エネルギー中性子による材料劣化を評価するため、「核融合原型中性子源(FPMS:Fusion Prototypical Neutron Source)」という重要施設の建設を計画しているが、これが完成するまでは、既存の原子炉や陽子線加速器を用いた代替試験を駆使してデータを蓄積する。また、①エネルギー変換、②トリチウムの生産、③中性子の遮蔽の3役をこなすブランケットや燃料サイクル(使用済みの燃料(未反応の重水素、トリチウム、 生成したヘリウムなど)を炉外で回収・分離・精製し、再び炉内に供給して持続的な運転を可能にする循環システム)の試験においては、国内施設の不足を補うため、英国の大規模トリチウム取扱い施設「H3AT(Hydrogen-3 Advanced Technology Centre)」[iii]や日本の発電試験プラント「UNITY-1」[iv]といった同盟国の先進的な試験施設と連携し、国際的なリソースを活用する方針である。
図1. 核融合発電の進展に不可欠な8つの基盤技術分野

出所:DOE「Fusino Science & Technology Roadmap」より引用
物理的な施設整備と並行して、AIと核融合研究を高度に融合させたデジタル基盤の構築も進められる。これは「AI-Fusion Digital Convergence Platform」と呼ばれ、現実の実験装置や炉の挙動を仮想空間上で精密に再現するデジタルツインを開発し、実験回数を減らし設計速度を飛躍的に向上させる狙いがある。この分野では、プリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL;Princeton Plasma Physics Laboratory)[v]がNVIDIAやIBMと協力して構築する、核融合専用のAIスーパーコンピュータクラスター「Stellar-AI」[vi]が中核的な役割を果たすことになる。
- 革新(Innovate) -技術革新とコスト競争力の追求:
現在、核融合発電で研究者が多いトカマク型(ドーナツ型の磁場閉じ込め装置にプラズマを閉じ込める方式)への過度な依存に伴うリスクを分散し、より安価で競争力のある商用炉を実現するための変革的な研究を追求する。具体的には、ねじれたコイルで発生させた磁場を活用してプラズマを安定して閉じ込めるヘリカル型の開発を支援しており、米国ではType One Energy[vii]やThea Energy(PPPLからのスピンオフ企業)[viii]といった民間企業がこの技術の実証に取り組んでいる。また、炉の壁面がプラズマの高熱に耐えられないという課題に対しては、壁面を液体金属で覆うことで熱負荷を逃がす「液体金属プラズマ対向機器(Liquid-Metal PFCs)」という革新的な技術の開発を進めている。
- 成長(Grow) -官民連携の深化と産業化:
DOEは、米国の核融合産業の競争力を高めるため、官民パートナーシップ(PPP)の規模と範囲を拡大する方針を示している。既存のプログラム(INFUSE[ix]、Milestone Program[x])に加え、新たに「Fusion BRIDGE」と「PFR(Private Facility Research)」という枠組みを導入する。
Fusion BRIDGEプログラムは、新規インフラの共同整備と産業基盤の強化に主眼を置いた投資モデルである。同プログラムでは、DOE単独ではなく、州・地方自治体、慈善団体、国際機関、民間企業などがコンソーシアムを形成し、重要技術のリスク低減に必要な小規模から大規模な施設を共同で建設する。資金は公的機関と民間の双方に提供されうるが、DOEの投資額に対して高いレバレッジ効果(例えば10倍の他者資金など)が見込めることが条件となる。
一方、PFRプログラムは、民間企業が既に建設・所有している世界最先端の実験施設を、公的機関の研究者が活用して研究を行うための枠組みである。同プログラムでは、公的研究者が民間の施設に赴き、オープンかつ査読のある科学研究を実施することで、企業の短期的な製品開発目標を超えた、より広範で厳密な科学的データを取得することを目指す。資金は実験を行う公的機関に対して100%提供される一方、公的機関は数十億ドル規模の民間資本が投じられた施設を無償で利用できる点が大きな特徴である。これにより、公的側は巨額の建設費を負担することなく最先端の研究が可能となり、民間側は公的機関の専門知識を取り入れて装置の性能を最大化し、投資家の目標達成に貢献できるという相互利益が生まれる。
また、DOEは核融合発電の商用化に向けた進捗を追跡し、評価するための具体的な指標とタイムラインを示している。6つの「中核的課題領域(Core Challenge Areas)」が定義され、それぞれの領域において、短期(2-3年)、中期(3-5年)、長期(5-10年)の期間で達成すべき技術的マイルストーンが設定されている。
下記に概要を整理するが、実際のロードマップにはより具体的な目標が設定されているので、是非一読いただきたい。
【中核的課題領域(Core Challenge Areas)の概要】
- 構造材料科学技術:
「構造材料」とは、核融合炉の真空容器や全体を支える柱など、いわば建物の骨組みにあたる部分の技術である。この骨組みは、高温や強力な中性子線に何十年もさらされ続けても、脆くなったり変形したりしない極めて高い耐久性が求められる。
構造材料の分野では、短期的にAI(人工知能)を活用したデータ戦略を開始し、RAFM鋼(低放射化フェライト/マルテンサイト鋼)等の製造基盤を確立する。中期的には、ヘリウム脆化(金属の中にヘリウムガスが溜まってスカスカになり、ガラスのように割れやすくなってしまう現象)がどの程度の放射線量で発生するかという限界値を定量化し、原子炉の設計基準(ASMEコード)への規格化と設計ツールの展開を進める。長期的には、実際の発電所と同等のダメージ(10 dpaという指標で表される激しい損傷量)を材料に与える試験を完了させ、本番の環境でも骨組みが折れたり曲がったりしないことを実証し、建設許可が得られるレベルのデータを揃える。 - プラズマ対向機器(PFCs):
「プラズマ対向機器(PFCs)」とは、超高温のプラズマに一番近い場所で、熱や粒子を直接受け止める「第一壁」や、不純物を排出する「ダイバータ」のことである。表面が溶けたり削れたりしないように守る技術が必要となる。
プラズマ対向機器については、短期的にMPEX等の試験施設を稼働させ、液体金属技術の評価を始める。中期的には、プラズマの熱いガスを壁から少し浮かせた状態で排気する「デタッチ運転」という高度な制御技術を実証し、壁への負担を減らす。同時に、材料データベースの構築を行い、AIによる新材料選定を進める。長期的には、タングステンや液体金属壁が、熱・中性子・プラズマの複合負荷に耐えうることを実証し、発電所レベルの耐久性を証明する。 - 閉じ込め技術の高度化:
閉じ込め技術では、短期的にSPARC[xi]という民間企業の実験炉等で、投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを生み出す「核融合利得(Q>1)」の達成を目指す。また、レーザー型核融合のための施設利用を拡大し、レーザー光を燃料の粒に正確に当てる技術を磨く。中期的には持続的な核融合利得の実証や高温超伝導マグネットの耐久性の確認を進める。長期的には、プラズマの挙動を正確に予測できるシミュレーションモデルを完成させる。これにより、プラズマの中心部は高温で燃え盛っているが、壁に近い縁の部分は冷えていて壁を傷めないという、理想的な状態を維持し続ける運転技術を確立する。 - 燃料サイクルとトリチウム処理:
燃料サイクル分野は、短期的にパイロット規模の目標設定と非核試験を行い、トリチウム除去技術を進展させる。中期的には、不純物処理技術の成熟と国内試験施設の設立を目指し、トリチウムの直接内部リサイクルを検証する。長期的には、トリチウム自給サイクルの完全な統合実証と、厳密な計量管理システムの確立を完了させる。 - ブランケット技術:
短期的には、高熱や放射線に耐えうる材料のデータを世界中から収集して整理し、配管の腐食を防ぐためのコーティング技術や、過酷な環境でも壊れずに温度や流量を測れるセンサー類の設計図を完成させる。中期段階では、実際に液体金属を流した際に磁石の力で流れにくくなる現象をどう制御するかを検証し、生産したトリチウムを逃さず回収する技術を確立するため、国内に専用の試験施設を建設して本格的な実験を行う。長期段階では、スーパーコンピュータを駆使してプラズマと炉壁とトリチウムの動きを計算できるシミュレーション体制を整え、熱の取り出しと燃料生産が設計通りに機能することを実証し、発電所としての準備を整える。 - 核融合プラント工学とシステム統合:
「核融合プラント工学とシステム統合」とは、冷却ポンプや燃料供給機、発電機といった多数の複雑な機器を1つの発電所としてまとめ上げ、その維持管理を行うための技術分野である。炉の内部は人間が立ち入れないほど放射線が強くなるため、故障時の修理や部品交換はすべてロボットによる遠隔操作で行う必要があり、全体を止めることなく安全に運転し続けるための高度な制御技術が求められる。
短期的にはプラント全体の設計図やデータを一元管理する仕組みを作り、現実の装置と連動したデジタルツインの構築を開始して、コンピュータ上でリアルタイムに状態を監視できる基盤を整えることから始める。中期的には、実際に放射能を帯びた環境を想定し、遠隔操作のロボットアームを使って配管を切断したり溶接したりする修理技術を確立するとともに、どの部品がいつ壊れるかを予測してトラブルを未然に防ぐためのデータを収集し、修理の手順を確立する。長期的には、強い放射線下でも誤作動しないセンサーや自動制御システムを完成させ、高度に完成されたデジタルツインを用いて安全性を証明し、国の許認可取得に耐えうるレベルまでプラントの運用システムを完成させることを目指す 。
- 原子力規制委員会(NRC;Nuclear Regulatory Commission)による規制の大転換
産業界にとって技術開発以上に重要とも言えるのが、規制環境の整備である。NRCは連邦規則第10巻第30部(10 CFR Part 30)[xii]に基づく規制案の策定を進めている。これは、核融合炉を従来の原子炉ではなく、粒子加速器や医療用アイソトープ製造施設に近い「副産物物質(Byproduct Material)を取り扱う施設」として定義するものである。これは2024年7月に制定されたADVANCE法[xiii]の内容を直接反映したものであり、同法によって原子力エネルギー法(AEA;Atomic Energy Act)に「核融合装置」という定義が新たに追加された。
この変更が持つ意味は極めて大きい。従来の原子炉規制では、建設許可を得るためだけに数億ドルの費用と数年の歳月を要する詳細な安全解析が必要であったが、10 CFR Part 30の枠組みでは、リスクに応じた柔軟な規制が可能となる。これにより、核融合発電事業者は、莫大な規制対応コストに圧迫されることなく、迅速なサイト選定と建設着手が可能となる。
NRCのスケジュールによれば、この新しい規則案は2025年11月18日頃に連邦官報に掲載される見込み(12月現在では掲載が確認できない)であり、その後パブリックコメントを経て2026年後半までには最終規則として確定される予定としている。[xiv]このタイムラインは、2020年代後半から2030年代初頭に予定されている各社のパイロットプラント建設スケジュールと合致しており、規制の不確実性が解消されつつあることを示している。
民間部門における資本の集中と巨大プロジェクトの始動
- Pacific Fusion
9月26日、Pacific Fusionはニューメキシコ州アルバカーキに研究・製造キャンパスを建設すると発表した。10億ドル規模の投資となるこの施設は、Mesa del Sol地区に位置し、サンディア国立研究所に近接している。
Pacific Fusionのアプローチは、トカマク型やレーザー型とは異なる「パルス磁気核融合」である。同技術は、強力な電流パルスを用いて燃料を電磁的に圧縮するものであり、サンディア国立研究所にある「Z Pulsed Power Facility」[xv]の研究成果を基礎としている。
同社によれば、この方式は以下の利点を持つ:
低コスト・高効率: 巨大な超伝導磁石や複雑なレーザー光学系を必要とせず、比較的安価なコンデンサと伝送路を使用するため、設備コストを大幅に抑制できる。
コンパクトな核融合炉: 反応炉のサイズを小型化でき、水遮蔽機能を内蔵することで安全性と経済性を両立させる設計となっている。
- Commonwealth Fusion Systems (CFS)
8月28日、マサチューセッツ州を拠点とするCFSは、約8億6300万ドルのシリーズB2資金調達を完了したことを発表した。[xvi]これにより同社の累計調達額は約30億ドルに達し、世界の民間核融合投資総額の約3分の1を単独で占めるに至った。この資金は、現在建設中の実証炉「SPARC」の完成と、それに続く商業炉「ARC」[xvii]の設計・開発に充当される。
さらに特筆すべきは、イタリアのエネルギー大手Eniとの間で締結された、将来のARC炉からの電力購入契約(PPA)である。[xviii]この契約の価値は10億ドルを超えると報じられており、核融合電力が「概念」ではなく「商品」として取引され始めたことを意味する歴史的な契約である。
- Helion Energy
Helion Energyは、ワシントン州エバレットに166,000平方フィート(約1.5ヘクタール)の製造施設「Omega」を建設中である。[xix]この工場の主目的は、同社のパルス核融合装置「Polaris」[xx]および商用炉「Orion」に不可欠な高電圧コンデンサの大量生産である。Helionの方式は、巨大なRLC回路(抵抗・コイル・コンデンサ回路)のように機能し、コンデンサに蓄えたエネルギーを一気に放出・回収する。商用炉一基につき数千個の特殊なコンデンサが必要となるが、既存のサプライチェーンでは供給能力が不足しているため、自社生産に踏み切ったのである。これは、核融合企業が単なる研究開発企業から、垂直統合型の製造企業へと変貌しつつあることを示している。
10月15日、Helionはワシントン州シェラン郡から、商用核融合発電所「Orion」の主要建屋建設に必要な「条件付き使用許可(CUP; Conditional Use Permit)」を取得した。[xxi]これは、2028年までにMicrosoftへ電力を供給するという野心的なPPAを履行するための極めて重要なステップであり、米国において商業核融合発電所の建設が法的に認められた最初の事例の1つとなった。
長年、核融合発電は「30年先の技術」と揶揄され続けてきた。しかし、米国における昨今の状況を鑑みたとき、その認識はもはや過去のものとなりつつあることが分かる。核融合はもはや実証の域を出て、一大産業へと変貌を遂げつつあるのである。もちろん、技術的な課題がすべて解決したわけではない。しかし、米国では既に、政府が道を作り、投資家が資金を注ぎ、エンジニアが工場を建てるという、巨大なエコシステムが回転し始めている。2030年代における商用核融合炉の稼働は、夢でもないかもしれない。中国は2027年での稼働を目指すとしている。日本も米国、中国に追随していけるだろうか。今後の核融合産業の動向を注視していきたい。
引用
[i] https://www.energy.gov/articles/energy-department-announces-fusion-science-and-technology-roadmap-accelerate-commercial
[ii] https://mpex.ornl.gov/the-device/
[iii] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://assets.publishing.service.gov.uk/media/5a81c235ed915d74e6233f5b/UKAEA_-_H3AT.pdf
[iv] https://kyotofusioneering.com/news/2023/09/14/1806
[vii] https://typeoneenergy.com/
[ix] https://innovation.pppl.gov/partnerships/partner-funding/infuse
[x] https://www.energy.gov/articles/us-department-energy-announces-selectees-107-million-fusion-innovation-research-engine
[xi] https://cfs.energy/technology/sparc
[xii] https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part030/index
[xiii] https://www.nrc.gov/about-nrc/governing-laws/advance-act/about-advance-act
[xiv] https://www.nrc.gov/materials/fusion/rulemaking-status
[xv] https://www.sandia.gov/z-machine/
[xvi] https://cfs.energy/news-and-media/commonwealth-fusion-systems-raises-863-million-series-b2-round-to-accelerate-the-commercialization-of-fusion-energy
[xvii] https://cfs.energy/technology/arc
[xviii] https://cfs.energy/news-and-media/eni-and-commonwealth-fusion-systems-sign-1-billion
[xix] https://www.helionenergy.com/articles/helions-fusion-system-is-basically-an-rlc-circuit/
[xx] https://www.helionenergy.com/polaris/
[xxi] https://www.helionenergy.com/articles/helion-receives-approvals-for-next-phase-of-construction-of-worlds-first-commercial-fusion-power-plant/

