アンモニアの船舶燃料としてのガイドラインがIMOにより2024年12月に承認へ
~水素キャリアとしてのクラッキング技術開発は国際間アンモニア流通に間に合うのか~
(文責:青野 雅和)
アンモニアが船舶燃料としては認められていないことをご存じであろうか。アンモニアは日本で特に発電燃料として注目をされているが、船舶燃料としても水素やメタノールとともに注目されており、グリーンアンモニアは再生可能エネルギー由来の電力でグリーン水素を製造し、窒素と水素の化学合成による実証が推進されている現況である。
現況は、国際海事機関(IMO)のガスまたはその他の低引火点燃料を使用する船舶の国際安全規定、つまりIGFコードにまだ準拠していない。つまり、IMOは現時点ではアンモニアを安全に使用できる燃料として認めてられていないのである。近年、密閉空間への立ち入りに関連した事故が驚くほど頻繁に発生しており、その結果、人命が失われるという非常に悲惨な事案もある。アンモニアは有毒で腐食性があり、摂氏マイナス 33 度の低温で保管する必要がある。
■アンモニアを燃料として使用する船舶の安全性に関する暫定ガイドラインの承認
しかし、そうした状況も来年に向けて改善される方針となりそうだ。2023年の9月20日~29日に開催されたIMO貨物およびコンテナ運送小委員会(CCC9)の会合を受けて、IMOは「水素とアンモニアを燃料として使用する船舶の安全性に関する暫定ガイドライン草案の開発に大きな進展があった」と報告した[ⅰ]。また、CCCは来年9月に2回(会期外グループ:ISWG-AF1と年次予定会議:CCC10)を開催してガイドライン草案を完成させ、その後2024年12月初旬に海上安全委員会(MSC 109)によって承認される予定である。
■アンモニア燃料船の建造
船舶における脱炭素化に向けた燃料の転換は重油からLNGに移行している現状であるが、その次のステップとして水素やメタノール、アンモニアの燃料利用を海運会社が模索している。現況は図1のDNVの資料を参照されたい。多様な船舶燃料種を検討していることが見て取れるが、アンモニアに関しては上述の通りアンモニア燃料船の就航は来年以降であることから図には反映されていない。
さて、アンモニア船の開発に関しては、現時点ではワンクッション置いた状況で進みつつある。具体的にはアンモニア燃料への転換を前提に置いたLNG(液化天然ガス)燃料船(以下「アンモニアReady LNG燃料船」)として建造が開始している。アンモニアレディ LNG 燃料船とは,船舶運用期間中にLNG 燃料からアンモニア燃料への主燃料の切り替えが可能となることを意味している。つまり、アンモニア燃料の利用時に必要な付帯設備の一部を保有していることから、改造時期を建造後に判断でき、LNG 燃料とアンモニア燃料の情勢を比較し意思決定を可能とする。日本郵船は昨年3月にアンモニアレディ LNG 燃料船のコンセプト設計を完了した。また、今年の6月には中国の青島造船廠でアンモニアレディ LNG 燃料コンテナ船が建造され、ベルギーの海運会社であるCMB (Compagnie Maritime Belge) に引き渡された。2024年に就航の予定となっている[ⅱ]。また、日本でもアンモニア燃料船は前述の日本郵船とIHI原動機など5社がタグボートの就航を来年に向け燃焼実験を展開している。住友商事は大島造船所でアンモニア焚きバルカー(ばら積み貨物船)の設計・開発を進めている。JMUもアンモニアに注力しているとHPで宣言している。
政府もアンモニア焚きのエンジン開発を後押ししている。国土交通省は2028年に向けて、伊藤忠商事、日本シップヤード、三井E&Sマシナリーがアンモニア燃料船の開発を展開している。なお、海外ではノルウェーのアンモニア大手のYaraが開発を進めている。[ⅲ]
図1 グリーン燃料船舶の新造船の稼働状況
出典:MARITIME FORECAST TO 2050 DNV
■アンモニア運搬船の建造
グローバルなアンモニアの流通を目論み、アンモニア運搬船の建造も進んでいる。IEAによれば、生産拠点から需要センターまでクリーンなアンモニアを輸送するために、2030年までに80,000立方メートル以上の容量(約48,320トンのアンモニアを輸送可能)のアンモニアタンカー約175隻が年間を通じて必要になると推定している。現状のタンカーは40 隻運航している程度である。従い、大手海運会社で建造を進めている状況だ。
前述の日本郵船は既に6隻目となるLPG/重油の二元燃料エンジンを積んだアンモニア船の建造契約を締結している。また、デンマークのマースクタンカーズは、韓国で最大10隻の新造船契約を結び、三井物産は、約4億3,200万ドル相当の契約で、最初の4隻の船舶に共同投資家として参加する予定だ。
■水素キャリアとしてのアンモニアの可能性
発電および船舶の燃料としてのアンモニアに対して、水素社会が叫ばれた2014年頃には水素の運搬方法として、液体水素、水素吸蔵合金、そして有機ハイドライド水素としてMCH(メチルシクロヘキサン)やアンモニアが検討されていた。その中でアンモニアを分解(クラッキング)して水素を取り出す方法があり、当時から商業レベルには至っていなかった。ただ、ここにきて多くのエンジニアリング会社で商業化の目標を目指す動きが活発化している。東洋エンジニアリングは世界最大手のアンモニア製造企業の米国KBRからクラッキングのライセンスを取得。2027年度の商業化を目指している。日本触媒もJERA、千代田化工と複数の企業とNEDOの技術開発事業で協業している。また、JERAはドイツの大手エネルギー事業者であるEnBW Energie Baden-Württemberg AG社及びガス事業者のVNG 社とドイツ北部・ロストック港における水素製造に向けたアンモニアクラッキング技術の共同開発に向けた覚書を締結した。こうした動向からアンモニアの水素キャリア利用の商業化が数年先に見えてきたと言えよう。
アンモニアの船舶燃料の承認が2024年末、アンモニアの水素キャリアの展開の元年が2027年、アンモニア搬送船の就航時期の目標が2030年と、国際機関の検討結果や各社のニュースリリースを参照する限りにおいてはアンモニアの製造、輸送、利用の技術が整いつつある。
[ⅰ]
https://www.imo.org/en/MediaCentre/MeetingSummaries/Pages/CCC-9th-session.aspx
[ⅱ]
https://maritime-executive.com/article/first-ammonia-ready-containership-delivered-to-cmb
[ⅲ]