加州は2045年までに航空燃料の80%をSAFに置き換えへ ~米国政府は2050年に全ての航空燃料をSAFへ移行させる~
(文責:坂野 佑馬)
気候変動への対応が世界規模で求められる中、航空業界も温室効果ガス(GHG)排出削減を展開している。その最前線の一つが、カリフォルニア大気資源局(CARB;California Air Resources Board)と米国の航空業界の団体であるAirlines for America(A4A)である。両者は、5年間という期限付きで「持続可能な航空燃料(SAF)」の普及に向けたパートナーシップを結成し、2045年までのカーボンニュートラル達成に向けて共同で取組を推進することを2024年10月30日に発表した。(※1)
本稿では、CARBおよびA4Aによる新パートナーシップ「SAFパートナーシップ」の概要を紹介する。
【目標】
- 米国政府におけるSAFの供給目標:2030年に2億ガロンを供給する
米国政府の「SAF Grand Challenge(SAFの生産拡大により航空分野の脱炭素化加速を目指す一連の取組み)」(※2) に沿い、A4Aが表明した「30億ガロン(約 1,140万kL;米国内での航空燃料消費量の1割相当)のSAF供給誓約」を実現するため、商業的に競争力のあるSAFを2035年までにカリフォルニア州内で2億ガロン(約76 万kL)確保することを目指すとしている。これは、同州内における旅行需要の約40%を満たす量であり、現在の供給量の10倍以上に相当する。ちなみに、米国環境保護庁によると、2023年における米国内で使用されたSAFの総量は2,450万ガロン(約9 万kL)であったそうだ。 - 航空業界の目標:2050年にネットゼロを達成する
A4AとCARBは、2050年までに航空業界全体のカーボン排出量をネットゼロにする目標を共有し、従来のジェット燃料からSAFへの完全移行を目指している。更に、米国政府も同様の目標を掲げ、2030年には30億ガロンのSAF生産、2050年までの完全なSAF移行を目指している。 - カリフォルニア州の目標:2045年までに航空燃料の80%をSAFに置き換える
カリフォルニア州は2045年までに経済全体でカーボンニュートラルを達成することを目指し、航空エネルギーの80%をSAFでまかなうことを目指している。この目標達成のため、A4AとCARB はSAFの開発と供給に注力していくとしている。
【優先協力分野】
- 米国・SAF Grand Challengeの活用
国家SAF Grand Challengeと連邦の政策を利用し、カリフォルニアでの従来の航空燃料からからSAFへの移行を加速させる方法を検討するとしている。 - インセンティブの強化
SAFの生産と使用を促進するため、既存のインセンティブ制度の強化と新たなインセンティブ制度の導入も併せて検討するとしている。 - 許認可の迅速化
SAF生産プロジェクトの許認可手続きを迅速化するための手段を評価し、特定するとしている。 - SAFワーキンググループの設立
カリフォルニア全体でSAFワーキンググループを設立し、年次報告と障壁の克服に取り組むことを計画している。その中で、CARBは州内で使用されるSAFと従来の航空燃料の量、およびインセンティブ情報を公開するウェブサイトを立ち上げる予定である。
日本国内においてもSAFの生産・供給量の拡大を目指し、資源エネルギー庁を中心としてSAF供給目標量の設定検討が進められている。下記図は2024年1月時点で検討されていた日本国内における2030年までのSAF利用量・供給量の見通しである。米国の目標が2030年で30億ガロン(約 1,140万kL)であることを鑑みると、日本としてはより多くのSAF生産・供給を目指してもよいのかもしれない。
図. 2030年までのSAF利用量・供給量の見通し(2024年1月時点)
出典:資源エネルギー庁資源・燃料部 燃料供給基盤整備課「2030年における持続可能な航空燃料(SAF)の供給目標量の在り方」
また、2024年9月に開催された「2030年における持続可能な航空燃料(SAF)の供給目標量の在り方」に関する検討会の資料 (※3)においては、2030~2034年の5年間において「2019年度に⽇本国内で生産・供給されたジェット燃料のGHG排出量の5%相当以上」を日本国内におけるSAF供給目標量とすると記載されている。これは2019年度に⽇本国内で生産・供給された航空燃料から排出されたGHG総排出量の5%以上にあたるGHG排出量をSAFへの置き換えによって削減するということである。
SAFによるGHG排出量削減率が50%であると仮定すると、2019年に⽇本国内で消費された航空燃料(1,024万kL)(※4) の10%以上をSAFに置換するということになり、その量は約102万kL 以上になると試算される。
こうしたSAFの普及に関連した展開は、国内外問わず加速していくことであろう。その上で、問題になってくるのは「原材料の調達」および「SAF製造技術の成熟度」であると考える。熱帯地域のように油糧作物が多量に収穫できるわけではない日本においては、廃食油の利用が重要になるが、それにも限りがある。その上では、海外からの格安原材料の調達や、植物油以外の原材料を用いる製造プロセスを活用していくことが必要となる。トランプ政権が再誕生する今後、こうした脱炭素政策がどのように推移していくのか注目していくこととする。
引用
※2 https://www.airlines.org/a4a-and-carb-announce-sustainable-aviation-fuel-partnership
※3 https://www.energy.gov/eere/bioenergy/sustainable-aviation-fuel-grand-challenge
※4 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mlit.go.jp/common/001403136.pdf