SBTi(Science Based Targets initiative)はモニタリングレポート「SBTi MONITORING REPORT 2022」を公表
~世界におけるSBT参加企業数はさらに増加へ~
(文責:青木 翔太)
2023年8月17日、科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi:Science Based Targets initiative)は、モニタリングレポート「SBTi MONITORING REPORT 2022」を公表した。※1 SBTiは、UNGC(国連グローバル・コンパクト)、CDP(英国 に本拠地を置く国際環境NGO)、WRI(世界資源研究所)、WWF(世界自然保護基金)の4つの機関が共同で設立した、国際的な気候変動イニシアチブである。企業は、SBTiからSBT認定を受けることで、自社の温室効果ガスの排出削減目標がパリ協定の水準(産業革命以前に比べて、世界の平均気温の上昇を2℃以下に、できる限り1.5℃に抑える)に整合していることを、対外的に示すことが可能となる。
SBTiが今回発表したモニタリングレポートの概要を以下に示す。
・世界ではSBTに参加する企業数が年々増加しており、2022年12月末時点で、SBT認定を取得、又はコミット(2年以内にSBT認定を取得すると宣言すること)した企業は累計で4,230社となった。(図1)
・2022年においては、SBT認定を取得した企業が1,097社(中小企業向けSBT認定企業638社を含む)、コミットした企業が1,287社となった。
・2022年にSBT認定を取得した企業数が最も多い国は、日本(201社)であり、次いで英国(181社)、米国(109社)となった。
・2022年12月末時点で、フォーチュングローバル500に該当する企業の38%(188社)が、SBT認定を取得、又はコミットしている。
フォーチュングローバル500とは、フォーチュン誌(米国のニューヨークを拠点として発行されているビジネス雑誌)が毎年発行している、世界中の会社を対象とした総収益ランキングであり、上位500社が選出されている。
・SBT認定を取得、又はコミットしているセクター別の企業数については、2021年同様、2022年もサービス業(373社)が最も多く、次いで製造業(239社)となった。
・2022年12月末時点で、SBT認定企業によって約束されたGHG排出削減量は、7,600万t-CO2/年となった。
図1. 世界におけるSBT参加企業数(累計)の推移
出典:SBTi「SBTi MONITORING REPORT 2022」より引用(凡例のみBCJにて翻訳)
環境省によると※2、2015年以降、SBTに参加する国内企業は年々増加し続けており、2023年6月30日時点での国内SBT認定企業数は515社となっている。(図2) セクター別では、電気機器(39社)と建設業(21社)が多いとされている。なお、国内SBT認定企業515社の内、345社が中小企業向けSBT認定企業となっており、約7割を中小企業が占めている。中小企業向けSBTと通常のSBTの違いについては、表1を参照願いたい。中小企業向けSBTは、2020年4月より導入が開始されており、削減対象範囲がScope1,2に限定されていることや、認定に係る費用が低価格であることから、通常のSBTと比較して認定申請がしやすいものとなっている。
SBT認定企業を評価する動きとしては、国土交通省が管轄する土木工事の入札が例として挙げられ、SBT認定を加点対象にする地方整備局が5局存在し、全体の半数を占めるとされている。また、栃木県宇都宮市では、中小企業向けSBT認定支援事業に対して補助金を交付することも予定されている。※3入札の加点項目としてSBT取得が評価される動きに連動してSBTを取得する中小企業も増加していくであろう。
図2. SBTに参加する国内企業数(累計)の推移(2023年6月30日)
出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」より引用
表1. 中小企業向けSBTと通常のSBTの違い
出典:環境省「SBT(Science Based Targets)について」より引用
SBTiを運営している機関の1つであるCDPは、企業の環境情報の開示に取り組んでおり、機関投資家に代わって各企業に毎年質問書を送付し、企業の回答をスコアリングして公開している。なお、本稿で紹介しているSBTは、CDPのスコアリングにおいて加点の対象とされている。国内では、2022年より、東証プライム上場企業1,841社がCPD質問書の回答対象企業となっている。2022年のCPD気候変動質問書における回答企業数は1,056社となっており、回答対象企業の半数以上がCPD質問書への対応を行っている。CDPが2023年4月に公表した「CDP 気候変動レポート2022年:日本版」※4では、排出量目標に関する調査結果が示されており、回答企業の24%が「今後2年以内にSBT目標を設定することを予定している」と回答している。これらの企業がSBT認定を取得した場合には、Scope3の削減目標も設定する必要があるため、サプライヤーに対してもSBTに基づいた削減目標の設定を要求することが想定される。
日本では、環境省が「中長期排出削減目標等設定マニュアル」※5や「SBT等の達成に向けたGHG排出削減計画策定ガイドブック」※6を策定しており、企業のSBT認定取得を推進していることから、今後もSBTに参加する国内企業数は増加していくであろう。他方で、SBTiは、SBTへのコミットに関する新たなコンプライアンス・ポリシーを2023年1月31日に発効している。※7企業がSBTにコミットしたにも関わらず遵守できなかった場合には、その旨がSBTiのHP上で公表されることとなる。SBT認定取得の検討はサプライチェーンからの要請対応として捉えられることもあるが、企業は、SBTに参加がグリーンウォッシュとみなされないよう温室効果ガス排出の削減の取り組みを実行していくことが必要である。
参考資料
※1
https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTiMonitoringReport2022.pdf
※2
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/targets.html
※3
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/kurashi/kankyo/ondanka/1032050.html
※4
※5
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/GHG_target_settei_manual.pdf
※6
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/datsutansokeiei/SBT_GHGkeikaku_guidbook.pdf
※7
Statement on the end of the Commitment Compliance Policy grace period - Science Based Targets