日本でもっと注目されるべきドロップイン燃料:Renewable Diesel Fuel
グリーン水素からグリーンメタネーションも視野に入れた動きが加速するか?

(文責:青野 雅和)

 西武バスは7月14日(木)より、同社所沢営業所の路線バスの一部で、同業界で初めてRenewable Diesel Fuelを従来の軽油に代わる燃料として、100%使用すると公表した。当社はこれまでもユーグレナ社が提供する「ユーグレナバイオディーゼル:名称サステオ」を2020年の9月に導入したり、燃料電池バスも導入するなど脱炭素化を推進している。
 また、ENEOS、スズキ、SUBARU(スバル)、ダイハツ工業、トヨタ自動車、豊田通商の6社は2022年7月20日、「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立した。カーボンニュートラル社会の実現に向けて、バイオマスの利用や、生産時の水素、酸素、CO2を最適に循環させて効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造する技術を研究[i]するとのこと。加えて日産はバイオエタノールで走る燃料電池車「e-Bio Fuel-Cell」を検討しているとのこと。バイオエタノール由来の水素で燃料電池を駆動することから、高額な水素ステーションではなくバイオエタノールを既存のガソリンスタンドで販売することで大幅なインフラコストを低減でき普及しやすいサプライチェーンと評価できる。
 このように多様な形態を示すことが可能なドロップイン燃料であるRenewable Diesel Fuelの利用が本格化していくことを期待したい。

 日本ではこれまでもBio Diesel Fuel 100%(B100と呼ぶ)の燃料を使用してきた。Bio Diesel Fuelとはバイオ生物由来油から作られるディーゼルエンジン用燃料の総称である。過去にはディーゼルエンジンの高度化に対応できず不具合が起きることもあり、2009年2月25日に「揮発油等の品質の確保に関する法律」にてBDFの混合率が5%以下のバイオ燃料混合経由を「B5」と定め利用してきた経緯がある。
 その後B100は改善され、全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会による調査の結果でもB100はドロップイン燃料としての利用が問題ないとの認識に至っている[ii]。その後、バイオ燃料も次世代バイオ燃料としての技術改革が各メーカーや研究機関の努力により展開されており、サステオは高純度Bio Diesel Fueの次世代バイオ燃料として認識されている(下記表1参照)。

表1 次世代燃料の定義と位置づけ

出典:NEDO TSC Foresight Vol21 2頁

 これまでで、Bio Diesel FuelとRenewable Diesel Fuelの両方の言葉を記載したが、その違いが分かりにくいかも知れない。双方ともに植物油、グリース、または動物性脂肪から製造され、主に農業もしくは食品廃棄物から誘導されるが、各種の記事等では同じ燃料として記載されている場合が散見される。違いは以下の通りである。

■Bio Diesel Fuel:前者は脂肪酸メチルエステル(FAME)のエステル交換で酸素を誘導し、燃焼時に窒素酸化物を排出する。

■Renewable Diesel Fuel:酸素が含まれず、水素化によりBio Diesel Fuelよりもクリーンに燃焼するという利点がある。

 さて、冒頭で紹介した西武バスが導入するRenewable Dieselであるが、これは伊藤忠商事が世界最大級のRenewable Diesel製造会社であるフィンランドのNeste OYJ(本社:フィンランド、CEO:Peter Vanacker、以下「NESTE社」)とRenewable Dieselの日本国内向けの輸入販売契約を締結し、子会社の伊藤忠エネクスを通じてデリバリーするものである[iii]。過去にもNESTE社の動向は弊社NEWS【2022年4月1日】でも触れたが、日本におけるNESTE社の燃料のデリバリーは同社が展開している。ちなみにNESTE社のRenewable DieselはGHG排出量で石油由来軽油比約90%削減を実現しているとのこと。 
 前述のようにBio Diesel Fuelは軽油代替として、一部エンジンの不具合を引き起こす事象もあったが、Renewable Dieselは既存のディーゼルエンジン車輛にそのまま使用できる「ドロップイン燃料」であることから、長距離移動を目的とする車輛に非常に適した脱炭素化燃料として期待できる。

 バイオ燃料の利用は日本でも期待されていた経緯があるものの、さほど普及している印象は無いが、米国では2005年に再生可能燃 料基準(Renewable Fuel Standard, RFS)が策定され、その後のRFSの改定(RFS2)を経て燃料供給事業者は輸送用ガソリン、ディーゼル販売量に対して一定比率の再生可能燃料の供給を2022年迄義務付けられている。また、今年の7月にはニューヨーク州で暖房用灯油へのバイオ燃料混合を義務付けることとなり、バイオ燃料の混合利用の動きが拡大している。

 一方、EUでは2009年の再生可能エネルギー指令(RED)で、運輸部門でのバイオ燃料消費10%達成を掲げていたが、その政策の奏功により、2021年のバイオ燃料の消費量は、前年度より12%増加して650万キロリットルと増産が見込まれていることを公表している(参照:2021年7月5日に欧州委員会のバイオ燃料短期的受給の見通し[iv]
 また、NESTE社はロッテルダムにあるグリーンリファイナリーの生産能力を130万t/年拡張し270万t/年に増強することを公表しており、2026年末までには全世界での再生燃料の生産能力を同680万t/年とする計画である。

 日本のRenewable Diesel Fuelの商業生産は残念ながら行われておらず、伊藤忠商事のデリバリーに大きく影響していると評価している。今後はNEDOの実証案件の実用化が期待されるところであるものの、米国のグリーンリファイナリー企業の動きも注視する必要があると考えている。

[i] 民間6社による「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト (global.toyota)

[ii] bdf_2021chousa.pdf 全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会

[iii] 陸上輸送分野における再生可能資源由来の燃料ビジネスについて | 2021年 | 伊藤忠エネクス株式会社 (itcenex.com)

[iv] 欧州委員会、バイオ燃料の短期的需給見通しを公表(EU)|農畜産業振興機構 (alic.go.jp)