建築分野でGHG未達となったドイツ
~未達をカバーする対応策を策定する為に90日以内に11項目を策定へ~

(文責:坂野 佑馬)

 連邦環境・自然保護・原子力安全省 の下部機関であるドイツ連邦環境庁は2022年3月15日、2021年度における建築分野の温室効果ガス(GHG)排出量が年間許容値の112 MtCO2eを超過した115 MtCO2e であったことを発表した。ドイツの気候変動対策法第8条では、分野別GHG排出量目標の未達成が発表されてから90日以内に、対応策として次年度以降の年間GHG排出量目標を確実に達成するためのプログラムを策定することが義務づけられている。未達の対応策が法規制として整備されて、それを着実に展開することは評価すべき点である。
 排出削減の未達成結果を受けて、連邦経済・気候保護省(BMWK)と連邦住宅・都市開発・建築省(BMWSB)は2022年7月13日に、2030年の気候変動対策目標(建築分野:CO2排出量を1990年比で66‐67%削減)を達成するための建築物緊急プログラム(案)※1を共同で発表した。同プログラム(案)は新規の施策が混合された11の 項目(以下に記載)によって構成され、2030年の年間GHG排出量を67MtCO2eに引き下げることを目指す方針としている。今後、専門家からの意見を反映させた後に、早急に採用されこととなる。

建築物緊急プログラム(案)の11項目

  1. 建築物エネルギー法(GEG:Gebäudeenergiegesetzes)の改正
     ドイツの建築物エネルギー法は空調のある建築物のエネルギー要件を規定した法律である。改正に伴い、2024年1月1日以降に新規で設置される暖房設備は65%以上が自然エネルギーで稼働することが義務付けられる予定である。暖房設備として利用されているガスボイラーの排除が推進されることとなる。
  2. 高エネルギー効率の建築物の為の資金援助(BEG:Bundesförderung für effiziente Gebäude)※2
     建築物のエネルギー高効率化を実現する改修に対する補助金の継続および強化を推進していく。また新規の建築物に関しては、BMWSBが開発したグリーンビルディング認証「Qualitätssiegel Nachhaltiges Gebäude(QNG)」※3のライフサイクル要件に合わせて資金援助を行っていく予定としている。
  3. 「連続改修(Seriellen Sanierung)」推進に関するガイドライン
     2021年5月7日、BMWKによる「連続改修」を促進するプログラムが開始された※4。「連続改修」とはオランダ発の建築物改修の手法を元に考案されたもので、プレハブ化した屋根や壁などの部材と搭載させるシステム(ヒートポンプモジュール、太陽光発電設備等)を併せて既存の建築物へ設置する手法であり、建築物を短期間に低コストでエネルギーの高効率化を推進させることが可能である(イメージ図1)。

イメージ図1. Seriellen Sanierung

(出典:Energiesprong Foundation/dena)

  1. 公共建築物への取り組み
     全ての公共建築物の改修およびエネルギーの高効率化を推進する。
  2. スポーツ・青少年・文化関連の公共施設の改修工事
     スポーツ・青少年・文化関連の公共施設の改修を進める既存の計画において、GHG排出量の削減・エネルギーの高効率化を同時に推進していく。
  3. 建築分野のイノベーションプロジェクト「Zukunft Bau」※5
     建築分野のサプライチェーン全体での脱炭素化に繋がる新技術の開発・発展を促すべく、新技術の開発や試験導入するための資金援助を行っていく。
  4. 効率的な熱供給網への資金援助(BEW:Bundesförderung für effiziente Wärmenetze)
     化石燃料を主とする暖房グリッドを再生可能エネルギーや廃熱に転換したり、再生可能熱や廃熱を75%以上取り入れた新たな暖房グリッドの建設に対して資金援助を行っていく。
  5. 自治体熱供給計画法(Gesetz für kommunale Wärmeplanung)の整備
     物理学的に熱利用のインフラは小規模である方が高効率で、自治体単位で開発されることが理想的である。自治体に対し熱供給計画を導入することで、各自治体が独自に地域の熱供給システムに資する投資ロードマップを策定・実行するようになることをドイツ政府は促進しようと考えている。現在、法的規制の内容について検討されている。
  6. ヒートポンプの導入促進に向けた技術者の育成
     「ヒートポンプ設置に関する技術研修」および「自然冷媒の専門知識研修」を行い、ヒートポンプ普及率を向上させる。
  7. 既存の暖房システムの最適化
     ロシアのウクライナ侵略戦争とそれに伴うエネルギーコストの高騰、燃料資源不足の危機が指摘されている中、既存の暖房システムのエネルギー効率を短期的に大幅に向上させる必要性がある。補助金以外にも、規制を含む様々な実施方法が開発・検討されている。
  8. エネルギー効率化法(EnEfG)※6
     EnEfGは、エネルギー効率を高めるための分野横断的な法的枠組みを初めて確立したものである。同時に、EnEfGは改正EUエネルギー効率指令(EED)の重要な要件を国レベルで実施している。

引用

※1 BMWK・BMWSB_建築分野での気候保護対策を盛り込んだ緊急プログラムを発表。

https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Downloads/S-T/220713-bmwk-bmwsb-sofortprogramm.pdf?__blob=publicationFile&v=6

※2 ドイツ連邦経済・輸出管理局_Bundesförderung für effiziente Gebäude

https://www.bafa.de/DE/Energie/Effiziente_Gebaeude/effiziente_gebaeude_node.html

※3 BMWSB_Qualitätssiegel Nachhaltiges Gebäude(QNG)

https://www.bmwsb.bund.de/SharedDocs/kurzmeldungen/Webs/BMWSB/DE/2022/qng.html

※4 ドイツ連邦経済・輸出管理局_Bundesförderung Serielles Sanieren

https://www.bafa.de/DE/Energie/Energieeffizienz/Serielles_Sanieren/serielles_sanieren_node.html

※5 Zukunft Bau HP

https://www.zukunftbau.de/

※6 EC_改正エネルギー効率指令(EED)は 2018年に改正され、EUの2020年と2030年のエネルギー効率目標を達成するための規則と義務を定めてる。

https://energy.ec.europa.eu/topics/energy-efficiency/energy-efficiency-targets-directive-and-rules/energy-efficiency-directive_en