SAF (Sustainable Aviation Fuel)製造をリードするNESTEと日本企業の追走                   ~世界をゲームチェンジするグリーンリファイナリー~

(文責:青野 雅和)

 コロナ禍により、国際便の移動が抑制されている現在、航空業界における環境への影響よりも民間航空会社そのものの運営を危惧している状況と言えよう。更にロシアによるウクライナへの侵攻に対する西側諸国の制裁により、ロシアはロシア上空を通過することを禁止したことから、航空業界においては多くの障害が生じている状況は読者も周知のとおりである。

1.2021年からスタートしている航空運輸における温室効果ガス削減の試み  

 こうした状況下にあるものの、国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)では環境に配慮した展開を行っている。ICAO は2016年に市場メカニズムを活用した世界的な温室効果ガス排出削減制度(Global Market-Based Measures:GMBM)を導入することで合意し、推進する枠組みとして「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(CORSIA:Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)」の導入を決定。2018年以降、ICAOに加盟している国際航空会社はCO2排出量の監視、報告、検証(MRV)システムを導入している。

 加えて、2019年に航空会社の国際業界団体・国際航空運送協会(IATA)は、CORSIAの導入を各国政府に求める決議案を圧倒的多数の賛成を得て採択した。その後、2020年に向けMRVが開始され、2021年には試用期間に移行し今に至っている。

 さて、ICAO が発行する「CORSIA Aeroplane Operator to State Attributions」によれば2021年12月現在において、147カ国、599の航空会社がCORSIAに参加している。そのうち日本の航空会社はエアージャパン(以下企業は全て略称表記)、ANA、JAL、日本貨物航空株式会社、ZIPAIR Tokyoの5社である。

 CORCIAは以下の2つの参加方法となっている。

 ①2021年から2026年迄:CORCIA への自発的参加期間

 温室効果ガス削減量が割り当てられ、割当量より多くの温室効果ガスを排出した場合、当該航空会社の2020年の温室効果ガスの排出実績を基準として、2021年~26年までの実績と比較する事になる。従い、2020年度比当該年度で温室効果ガスを上回る場合は排出権を購入する義務が課せられる。ちなみに、2021年11月にICAOが発行した「CORSIA  2020 Emissions」によると2020年の航空運輸の温室効果ガス排出量実績値は265,239,198トンとして積み上げられている。

 ② 2027年から2035年迄:CORCIA への参加義務期間

 小規模排出国や後発開発途上国などを除く全ICAO加盟国が、GMBM制度への参加を義務付けられる。2030年からは、温室効果ガス削減割当量の算出において、各社の個別の削減努力が段階的に反映される仕組みに移行する。

 CORCIA のMRVが開始された2021年には、10月4日に開催された国際航空運送協会(IATA)の年次総会で「2050年までにCO2排出量実質ゼロ」を賛成多数で採決されている。CORCIAの延長線上に、より厳しい目標が顕在化した。

2.SAFの調達競争

 前述のCORSIAに基づき、日本の航空運輸会社も温室効果ガスの削減が求められるが、ANA、JALで購入を決定しているのがフィンランドのNESTEである。同社はオランダ及びシンガポールのリファイナリーを拡張し、世界最大の再生可能ディーゼルおよびジェット燃料製造会社となっている。同社工場の燃料はグリーン水素等のグリーン燃料を利用し、製造プロセスで排出される温室効果ガスは吸収され、再利用されグリーン燃料を製造する。SAF以外にも船舶、トラック向けのバイオディーゼルを製造している。ちなみに、同社は2018年~2020年の3年連続で持続可能な企業としてトップ3にランク付けされているエクセレント企業である。

 同社のSAFは2023年末までに年間約150万トンを製造すると計画されており、ルフトハンザやKLMなどEUを中心として多くの航空会社に供給されている。ANA、JALも同社からの調達契約を獲得している。現時点で大量のSAFをコマーシャルベースで供給できる企業は同社のみであるが、CORSIA参加の599の航空会社全てに供給できるわけではない。巨大な市場が目の前にあるのであるが、日本のSAF製造企業は出遅れている印象だ。

 藻類からSAFを製造する取り組みは欧米企業がインドネシアや中東などの高温且つ日射量が多い地域で製造工場を展開している。一方、日本の企業はラボレベルや実証研究レベルで開発をスタートさせている。2025年の商用生産を目指す事例が多い。NEDOは2017年よりSAF製造に関する技術開発事業を展開しており、2024年迄支援を展開する予定であり、政府としてもSAF製造の技術開発に注力している。以下表に日本企業のSAF製造の動向を示す。

表 日本企業のSAF製造の動向

企業名開発内容
ユーグレナ・ミドリムシからSAF製造
・25年の商用生産を目指す
三菱パワー、JERA、東洋エンジニアリング、伊藤忠商事・木質系バイオマスを原料としたガス化FT合成によるSAF製造(NEDO助成事業)
・21年6月にJALにパイロットプラントから供給
Green Earth Institute (双日が出資)・RITEの研究技術を活用
・古着由来のSAFを製造、JALと共同研究
東芝エネルギーシステムズ、東洋エンジニアリング、東芝、出光興産、日本CCS調査、ANA・COと水素から液体燃料を合成するFT合成技術からSAF製造(環境省実証事業)
日揮ホールディングス、 レボインターナショナル、 コスモ石油、日揮・国産廃食用油を原料とするSAF製(NEDO助成事業)
・2025年供給開始予定
JAL、ENEOS、日揮、丸紅・プラスチック等の廃棄物を原料としたSAF製造
・28年の商用生産を目指す

(各企業ニュースリリース等よりBAUM作成)

 また、2022年3月2日には国産SAFの導入を進めるべく、日揮、レボインターナショナル(バイオディーゼル製造企業)、ANA、JALの4社が有志団体「ACT FOR SKY」の設立を発表した。同団体には上記表に記載している企業等12社(IHI、ENEOS、日揮等)が参加し、SAFの技術開発・製造・流通および利用の加速を促していくとしている。

 欧州がリードしているSAF製造の技術開発の現況下、弊社としても日本企業のグリーンリファイナリーの市場参入に支援を行っていきたい。