米・ミネソタ州ではSAF生産の拡大に向けて税額控除を導入し、SAF生産に取り組む大規模なハブ「the Minnesota SAF Hub」を展開へ

(文責:青木 翔太)

  2023年8月26日、米国ミネソタ州は、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)に関して、プレスリリースを発表した。※1 SAFは、再生可能な原料又は廃棄物を原料とするとして製造される航空燃料であり、従来の航空燃料と比べて80%程度のCO2排出量を削減できるとされている。プレスリリースでは、ミネソタ州が他州に先駆けて2023年よりSAFの税額控除を導入したことが言及されており、同州の空港から出発する航空機向けに販売される州内生産のSAFは、1ガロン(米液量で3.785L)あたり1.5ドルの税額控除が適用されることとなっている。

 また、同州は、バイデン政権が掲げるSAFの目標を達成するためには、農作物由来のバイオ燃料を利用することが不可欠であるとした上で、自州が政府目標の達成に貢献できるポテンシャルを有していることを強調している。農業生産が盛んなミネソタ州は、トウモロコシの生産量が全米第3位とであり、SAF産業に貢献可能な農業従事者が24,000人以上存在するとされている。

 なお、バイデン政権は、2050年までに航空部門(軍事・非軍事双方を含む)で使用される燃料の100%をSAFに置き替え、2030年までに年間30億ガロンのSAF生産・供給を行うことを目指している。現在、米国の航空部門が消費する燃料は約350億ガロン/年となっているが、一方でSAFの生産はわずか約450万ガロン/年に留まっており、目標の達成には大幅なSAF生産能力の拡大が必要となっている。

 ミネソタ州では、州独自の施策に加えて、SAF生産の推進に向けた企業間連携が新たに展開されている。2023年8月29日、米国航空大手のデルタ航空は、米大手銀行のバンク・オブ・アメリカ、米大手サービス会社のエコラボ、米大手エネルギー会社のエクセル・エナジーと共に、SAF生産の拡大を目的とした企業連合「the Minnesota SAF Hub」を発足したことを発表した。※2デルタ航空は、「各業界の主要企業が連携してSAF生産に取り組む大規模なハブを設立するのは米国初の試みである」としている。同連合の複数年に渡る行動目標を以下に示す。

 SAFのバリューチェーンの全段階で、環境と水への配慮を行う。

 SAFの原料調達、加工、精錬、混合、及びミネアポリス・セントポール空港※3での利用に至るまで、統合されたバリューチェーンを開発することにより、安価で低炭素なSAFを生産する。

 革新的なソリューションや技術の採用を促進して、SAFの商業化を加速させる。

 ✓再生可能な農作物から低炭素なSAFを生産することに関して、科学的・技術的な課題に取り組む大学や企業を支援する。

 また、同連合は、早ければ2025年に、安価で低炭素なSAFをミネアポリス・セントポール空港に商業規模で導入することを目指すとしており、将来的には、ミネソタ州で生産されるエタノールを利用したSAFの生産に重点を置いていくことも示している。

 SAF生産に対する税額控除や助成金は、米国全体では、2022年8月に成立した「インフレ削減法」※4で設けられており、2億9,000万ドルの予算が充てられている。同法では、生産から使用までのライフサイクルにおいて、従来の航空燃料よりも温室効果ガスの排出量を少なくとも50%削減可能なSAFが、支援(税額控除・助成金)の対象となっている。税額控除については、1ガロン当たり1.25~1.75ドルまで認められることとなっている。

 此度のミネソタ州におけるSAFの税額控除は、「インフレ削除法」のSAF生産に対する支援と併用されることで、州内のSAF産業の拡大をより後押しする施策になるであろう。また、今後、同州では、SAF産業の拡大に伴い、農業のさらなる活性化が図られることも予想される。

 日本においては、脱炭素社会の実現に向けて、地域の脱炭素化を推進していくことが重要視されている。本稿で紹介したSAFに関するミネソタ州での展開は、地域特性を活かした脱炭素化への取り組みの先行事例といえるだろう。今後も、国内外における地域の脱炭素化に関する先進的な取り組みをベンチマークし、皆様にとって参考となるような情報を共有していきたい。

参考資料

※1

https://mn.gov/governor/newsroom/press-releases/#/detail/appId/1/id/589989

※2

https://news.delta.com/minnesota-saf-hub-launches-first-its-kind-coalition-scale-sustainable-aviation-fuel

※3

米国ミネソタ州のミネアポリス市とセントポール市にまたがる国際空港であり、ミネソタ州最大かつ最多の離着陸を誇る空港となる。

※4

https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/12/Inflation-Reduction-Act-Guidebook.pdf