プライム市場移行企業はEUタクソノミー規則をベンチマークすべき

(文責:青野 雅和)

 2022年4月から東京証券取引所の市場区分が再編成され、東証一部上場企業のうち7割グローバル企業向けのプライム市場に移行していくと見られている。その基準として重要な視点がサスティナビリティ戦略である。東京証券取引所からはコーポレートガバナンス・コードが改定され、サスティナビリティに関する要望が補充原則として整理されている。以下に改定コーポレートガバナンス・コードを引用し、本稿のポイントであるサスティナビリティに関する事項を下線で示した。

【補充原則2-3①】
 取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティーを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。
 
【補充原則3-1③】 ※新設
 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
 
【補充原則4-2②】 ※新設
 取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきである。また、人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。
出典:東京証券取引所 改定コーポレートガバナンス・コード

 既に多くの識者が今後のサスティナビリティ戦略について議論をしているが、「SDGs=サスティナビリティ」としての表現が有効との認識を示す方もいると感じる。この点について否定するものではないが、上記の補充事項で求められている「サステナビリティの課題・取り組み・方針」や「リスク」に関する事象を整理するための考え方として、EUの進めるタクソノミー規則を認識すべきではと思料する。

 既に弊社では2022年3月16日にNEWS(EUタクソノミー規則がドイツサステナビリティコードに統合される - BAUM Consult Japan)として紹介している。EUタクソノミー規則とは非財務情報の明確な指標と透明性を投資家へ提供し、ESG投資を活性化することを目的に2020年7月に発案されたものである。

 EUタクソノミー規則は具体的には「何が持続可能な経済活動なのかを具体的に分類(定義)したリスト」であり下記の6分野を指す。従業員数500人以上の大企業と金融機関は規則に則った情報開示を義務付けられることとなり、企業の規模としてはプライム市場と同等であろう。

  1. 気候変動の緩和
  2. 気候変動への適応
  3. 水・海洋資源の持続可能な利用と保護
  4. サーキュラーエコノミーへの移行
  5. 環境汚染・公害の予防と管理
  6. 生物多様性・生態系の保護と再生

 

 ところで、EU諸国の中でもドイツではEUタクソノミー規則よりも遥かに詳細な事項を整理する必要があり、ドイツサステナビリティコードとして20項目にわたり基準を示している。詳細は弊社HPのNEWS(EUタクソノミー規則がドイツサステナビリティコードに統合される - BAUM Consult Japan)を参照頂きたい。

 ドイツサステナビリティコードでは、サステナビリティ事項へのバリューチェーン全体での施策やGHG排出量も求められており、GHGプロトコルにおけるScope 3も整備すべき条件となっている。

 さて、EUタクソノミー規則に話を戻す。上記の6分野のうち、気候変動の緩和と、気候変動への適応の2分野をカバーした詳細なリストが付属され、EU Taxonomy Climate Delegated Act として2022年1月1日に適用開始されている。

プライム市場に再編される日本企業は、既にGHGプロトコル基準に基づきISO14064-1に対応し気候変動を抑止することを示した企業が多いと思われるが、EUで活動されている企業であれば、今後は非財務情報の明確な指標として、温暖化ガス排出防止以外の水資源やサーキュラーエコノミー等の環境負荷低減項目をより仔細に活動を示す必要があるのである。

 従い、EUタクソノミー規則の6分野の事項に関する企業活動の持続可能なポイントを明確に市場に透明性を持って提供していく必要があると推察する。冒頭で記載した東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードの3つの補充原則の検討フレームとしてEUタクソノミー規則の6分野の事項を検討してみてはいかがであろうか。