AI社会に求められるデータセンターでの水管理 ~米・アマゾンらはデータセンターにおける水利用の4原則を強調~

(文責: 坂野 佑馬)

 2025年9月25日、水質改善と水資源管理の普及啓発を推進する国際的NPOである世界水環境連盟(WEF:Water Environment Federation)[i]とアマゾン(Amazon.com, Inc.)、ペンシルベニア大学ウォーターセンター(WCP:The Water Center at Penn)、および上下水事業者の世界的なネットワークであるLeading Utilities of the World(LUOW)は、新たなネットワーク「Water-AI Nexus™ Center of Excellence」[ii]の設立を発表した。同ネットワークは、「Water for AI(AIインフラにおける持続可能な水利用の実現)」と、「AI for Water(AIを活用した水資源課題の解決)」という2つの命題を掲げている。
 生成AI(テキスト、画像、音声、動画といった多様な形式のコンテンツを、学習データをもとに新たに生成する能力を持つAI)は膨大な計算処理を必要とするため、その「頭脳」として動くデータセンターでは、膨大な電力を消費する。電力消費量を削減するために、データセンターでは設備の冷却に水を用いることで電力効率を高め、電力系統の逼迫を緩和しているが、センターの立地や設計次第で流域に大きな影響を与える。生成AIの活用は「電力と水」において適切な利用が求められるのである。この課題に対し、業界・自治体・水道事業体の協働を促す「Water-AI Nexus™ Center of Excellence」は、持続可能な水利用に向けた4原則を提示した。[iii]それは、①データセンター設計・立地の高度化、②水使用量の削減、③水の再利用と持続可能な水源の活用、④地域社会との連携である。下記に詳細を説明する。

Water-AI Nexus™ Center of Excellence が掲げる "4原則

原則①:データセンター設計・立地の高度化

 データ処理のあり方は、従来の社内に設置されたサーバールームでの処理から、大規模で専用に設計されたデータセンターでの処理(クラウド活用)へと進化してきた。クラウドへの移行が進む理由は、コスト削減、水や電力の利用効率の改善、セキュリティ強化、そして必要に応じてサービスを拡張できる柔軟性にある。
 現代のデータセンター事業者は、立地を選ぶ際にさまざまな条件を同時に考慮しなければならない。例えば、土地価格や入手しやすさ、電力インフラと再生可能エネルギーへのアクセス、通信ネットワークや顧客との距離(遅延の少なさ)、冷却に必要な水の有無やその地域の水ストレス(水資源の逼迫度)、気候条件、自然災害リスクなどである。特に水の使い方は地域によって影響が大きく異なる。そのため、冷却技術の選択は「その地域で水がどれだけ貴重か」を考慮して決める必要がある。たとえば、水ストレスの非常に高い地域(インドや南アフリカ、メキシコ、米国アリゾナ州など)では、水を使わない空冷方式が望ましい。これは電力消費が増える欠点はあるが、水の消費を避けられるからである。
 一方で、水資源に余裕があり、逆に電力供給が限られている地域では、水を利用した蒸発冷却方式が有効である。これは電力需要を下げると同時に、発電のために使われる水の消費量も抑えられるためだ。

原則②:水使用量の削減

データセンターで水の使用量を減らす第一歩は、「IT機器を冷やすために、どのくらい水を使っているのか」を把握することである。そのための指標として業界では WUE(Water Usage Effectiveness:水使用効率) が使われており、これは「電力1kWhあたりに使う水のリットル数(L/kWh)」を示す。しかし、実際にはこのWUEを算出したり公表したりしていない事業者も多い。
 冷却の仕組みには様々な方式がある。例えば、直接蒸発冷却(DEC:Direct Evaporative Cooling)や間接蒸発冷却(IEC:Indirect Evaporative Cooling)、空冷式チラー(ACC:Air-Cooled Chillers)、外気を利用するフリークーリング、そして新しい液冷技術などだ。DECは効率が高く、年間の運転時間のうち蒸発冷却を使うのは1〜15%程度で、残りは外気による冷却で賄える。一方、ACCは現場での水使用をゼロにできるが、場所によってはエネルギー消費が10〜65%増え、電力網に負担を与えることになる。そこで両方のバランスをとるハイブリッド方式も用いられている。
 WUEは冷却方式や立地で大きく変わる。たとえば、スウェーデンでのDECはWUEが0.02に収まるのに対し、同じ設計でも米国オレゴン州東部では0.16になる。また、冷却塔を使用するIECは、同じ地域でDECの8〜10倍の水を使うこともある。つまり、気候条件による影響は避けられないにしても、設計の工夫次第で水使用量は大きく変化する。
 既存施設も将来の施設も、効率を継続的に改善していくことが不可欠である。取水量削減の目標を掲げることは、技術革新と効率化への強い動機付けになる。Amazon Web Services(AWS)では、地域ごとに「水の削減・再利用・補給」に取り組むことで、世界全体のWUEを0.25から0.15へと下げ、4年間で40%改善した。

原則③:水の再利用と持続可能な水源

 データセンターの業界では近年、都市下水の再生水を冷却用に使う動きが広がっている。AWSは2025年に、米国での再生水利用を2024年の24拠点から2030年までに120拠点以上へ拡大すると発表した。
 データセンターでの水再利用の典型例は、蒸発冷却の際に発生する結露水を何度も使い回すことだ。データセンターはこの「濃縮回数(CoC:Cycles of Concentration)」を管理・最適化して効率を高めている。一般的には、DECでは3〜5回、IECでは6〜10回が目標とされる。
 液冷方式でも再利用が行われている。液体は空気より約900倍以上密度が高く、熱を多く吸収でき、先進的なAIチップには水とグリコールなどの化学物質を混ぜた液体、閉ループの中で常に循環している。一部のデータセンターでは、この液体を冷やすためにIECを利用しており、結果的に閉ループの液冷方式でも水が間接的に消費されてしまう。しかしながら、この方式はより高い動作温度にも対応可能で、水と電力の効率を両立させながらAIサービスを安定稼働させることが可能である。
 もう1つの持続可能な水源としては、雨水の利用がある。信頼性の面では常に使えるとは限らないが、ある地域では冷却を補助し、同時に雨水流出を抑制できる。さらに水を遠方から運ぶ必要が減り、エネルギー負担も小さくなる。屋上で集めた雨水はミネラル分が少なく効率が良いが、道路の雨水は重金属を含むため処理が必要になる。このような方法は地域内での貯水を可能にし、地域社会への供給負担を軽減する。
 データセンターで冷却に使い終わった水は、農業用水などに転用できる場合が多い。たとえばMetaはアイダホ州で、冷却後の排水を食用以外の作物の灌漑に利用する水インフラに投資している。こうした再利用は、高コストでエネルギー集約的な下水処理や配水インフラを回避できる利点がある。

原則④:地域社会との連携

 データセンターの開発者や運営者は、施設の寿命にわたって開発や水利用が地域や環境に与える短期的・長期的影響の両方を認識する必要がある。持続可能な開発のベストプラクティスは、水ストレスのある地域を把握するために、地域の上下水道事業者、重要インフラ関係者、行政機関、地域コミュニティ団体と協働することである。こうした連携を通じてベストプラクティスを共有し、相互に知見を活かすことができる。
 データセンターで持続可能な水源の活用や効率化を進めた後、「水の補給(replenishment)」は地域や生態系に水を還元する道筋となり、包括的な水資源管理戦略の最終的かつ重要な要素となる。「水の補給」には、流域回復、WASH(水・衛生・衛生環境)への投資、農業用灌漑の効率化、大規模な水効率対策(漏水削減や水圧管理など)が含まれる。
 「水の補給」を実現するには、慎重なプロジェクト選定、効果の定量化、そして継続的なモニタリングが不可欠である。プロジェクトの選定は、リスク分析や地域との対話を通じて特定された流域課題に基づき、追加性(データセンターの支援がなければ成立しないこと)を満たし、水循環的にデータセンター運用と結びついていることが求められる。流域の優先課題に合わせて設計されるべきであり、代表的なプロジェクト例には次のようなものがある:

  • 水質・生態系改善:湿地再生、地下水涵養、森林管理、雨水処理など
  • 水量改善:農業灌漑の効率化、漏水検知や水圧管理、雨水の地下水涵養への転用など

 効果の定量化には、VWBA(Volumetric Water Benefit Accounting)ガイド[iv]などの手法が用いられ、これにより水質改善、水需要削減、洪水・干ばつに対するレジリエンス強化といった成果を数値化できる。流域改善の「水量的な効果主張」は、信頼できる第三者による検証が必要である。
 プロジェクトのモニタリングは、計画通りに機能しているかを確認し、将来の取り組みを改善するためのデータを提供する。効果測定には大きく3つの方法がある:

  1. 流量計などを使った直接測定
  2. 実際の降水データなどを入力して更新するモデル推定
  3. 直接測定が難しい場合の保守的なモデル推定

 アマゾンは6月9日に、2030年までに米国内のデータセンターがある120以上の拠点で水の再利用を拡大すると発表している。[v]再利用水を使うことで、毎年約20億リットルの飲料水を地域社会に供給し、水資源を節約しながら、より持続可能なクラウド環境を提供することを目指している。
 また、アマゾン傘下のAWS(Amazon Web Services)はヴァージニア州やカリフォルニア州で再利用水を使用しており、今回の取り組みをジョージア州やミシシッピ州にも拡大することを計画中だ。ヴァージニア州では、AWSが再利用水を使ったDECの使用を許可された初のデータセンター運営者となっている。AWSは2030年までに自社の運営で使用する水以上の水を地域に還元する「ウォーターポジティブ」を目指しており、2024年時点で目標の53%を達成している。

 AIの進展によって水資源の持続可能性が脅かされるリスクは、一般のAI利用者には想像しにくいものであると考えられる。今後、日本国内でもデータセンターの立地が拡大することが予想され、人口動態を考慮するとその多くが東京都近郊に集中する可能性がある。この地域の自治体は水資源に対するリスクを把握しておく必要があるだろう。アマゾンをはじめとする「Water-AI Nexus™ Center of Excellence」に蓄積される知見が、今後のデータセンター運営における水資源保全の指針となるのではないだろうか。弊社としては、アマゾン及び同ネットワークの動向をベンチマークし、引き続き情報提供を行っていく。

引用

[i] https://www.wef.org/

[ii] https://water-ai-nexus.org/

[iii] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://water-ai-nexus.org/wp-content/uploads/Water-AI_Nexus_Principles_For_Sustainable_Water_Use_By_Data_Centers.pdf

[iv] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://ceowatermandate.org/wp-content/uploads/2021/01/VWBA_Guidebook_F_Web.pdf

[v] https://www.wef.org/publications/news/wef-press-releases/wef-amazon-the-water-center-at-the-university-of-pennsylvania-and-leading-utilities-of-the-world-launch-groundbreaking-water-ai-nexus-center-of-excellence/