米国は核融合規制枠組みに関する規則案を公表 ~核融合セクターの関連スタートアップに追い風、米国原子力規制委員会(NRC)が規制を整備~

(文責: 坂野 佑馬)

 2026年2月26日、米国原子力規制委員会(NRC;Nuclear Regulatory Committee)[i]はは「核融合装置の規制枠組み(Regulatory Framework for Fusion Machines)」に関する規則案(以下、NRC規則案)を公表した。[ii]同規則案は主に、核融合装置に関連する副産物(byproduct material)の保有、使用、および生産のライセンス供与と監視に焦点を当てており、連邦規則集第10巻 第30部(10 Code of Federal Regulation Part 30)「国内の副産物ライセンス供与に適用される一般規則(RULES OF GENERAL APPLICABILITY TO DOMESTIC LICENSING OF BYPRODUCT MATERIAL)」[iii]の改訂を提案している。現在パブリックコメントを募集中の状態であり、本年10月の施行を予定している。

 本稿では、米国における核融合規制の沿革およびNRC規則案の概要を紹介する。

米国における核融合規制検討の歩み

 米国では、2009年から商用核融合装置に対する規制の検討が進められてきた。2009年から現在に至るまでに、米国で検討されてきた核融合規制の要点を表1に整理したので、参照してもらいたい。

 2023年4月、NRCが全会一致で、核融合を粒子加速器と同じ枠組みである連邦規則集第10巻 第30部の下で規制することを決定し、物理現象の違いを根拠に核融合は核分裂と全く別の産業カテゴリーとして定義した。米国議会も超党派・両院合同の立法(ADVANCE法(Accelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy Act)および核融合エネルギー法(Fusion Energy Act))を通じて法制化し、米国は英国に次いで核融合を対象とした規制枠組みを確立した2番目の国となった。

表1. 米国における核融合規制の歩み

出所:FIAのHPを参考にBCJ作成

NRC規則案の概要

  1. 「核融合装置(Fusion machine)」の定義

 NRC規則案で新たに導入される「核融合装置(Fusion Machine)」の定義は、2024年に成立したADVANCE法によって米国原子力法(AEA;Atomic Energy Act)に追加されたものである。

 同定義によれば、核融合装置とは、①核融合プロセスを通じて原子核を異なる元素・同位体・粒子へと変換する能力、および ②その結果生じる粒子・熱・電磁放射線などの生成物を直接捕捉して利用する能力の両方備えた機械とされている。

 注目すべきは、この定義が「核融合」という物理現象そのものを厳密に規定するのではなく、「機械が全体としてどのような役割を果たすか」に着目している点だ。これにより、磁場閉じ込め方式(トカマク型、ヘリカル型、Zピンチ型、他)や慣性閉じ込め方式(レーザー方式)、その他の多様な設計概念に広く適用できる、技術に依存しない包括的な枠組みを実現している。

 また、法的な位置づけとしては、核融合装置は「粒子加速器(particle accelerator)」の一種とみなされる。これに伴い、既存の粒子加速器の定義にも「核融合装置を含む」という文言が追加された。この紐づけには重要な意味がある。核融合装置を粒子加速器の一種と位置づけることで、その使用によって生じる放射性物質はすべて「加速器によって生成された副産物」という既存の定義に該当することになる。結果として、核融合施設を従来の原子力発電所(「利用施設」という定義)としてではなく、副産物の枠組み(連邦規則集第10巻 第30部)のもとで柔軟かつ適切に規制するための法的根拠が確立されている。

  1. 「近未来的(Near-Term)」という言葉の定義

 NRC規則案は、「近未来的(Near-Term)」な核融合装置に適用されると規定されている。近未来的な核融合装置とは、単に「近い将来に実用化される」という時間的な意味合いではなく、現在開発中の核融合装置が共通して持つ安全特性を示す概念として定義されている。

 具体的には、以下の5つの特性をすべて備えていることが要件とされている。

  1. 核分裂性物質を使用せず、原子力発電所のような自己持続的な中性子連鎖反応(臨界)が原理的に発生しないこと
  2. 異常事象や事故が発生した場合、人為的な介入なしに核融合反応およびエネルギー・放射性物質の生成が自動的に停止すること
  3. シャットダウン後に放射性物質が外部に漏れないようにするために、能動的な冷却システム(水冷設備など)を必要としないこと
  4. 万が一の事故が起きたとしても、施設の作業員や周辺住民が受ける被曝線量が低く抑えられること(敷地外個人への実効線量当量が1レム=10ミリシーベルト未満を目安とする)
  5. プラズマ閉じ込めや真空維持・燃料注入・外部加熱といった能動的な工学的機能が常に必要であり、制御の停止とともに反応が自然に止まる構造であること

 これらの特性は、従来の核分裂炉が抱えるメルトダウンや臨界事故といったリスクとは本質的に異なる安全特性を示している。

  1. ライセンス申請要件の策定

 新たな条項「10 CFR 第30部 32(k)条」により、ライセンス申請時に提出すべき内容が具体化された。核融合施設でトリチウムなどの放射性物質を扱うライセンスを申請する際には、以下の情報の提出が新たに義務付けられる。

  • 核融合装置の全体的な概要
  • 放射線の安全管理に関する運転手順・緊急時対応手順(インターロック、入退室管理、遮蔽、放射線モニターなどを含む)
  • 放射線安全を担当する組織の体制(役割・権限・必要な資格)
  • 従業員向けの装置操作および放射線防護に関するトレーニング計画
  • 装置の定期検査および保守に関するプログラム
  • 放射性物質の在庫を把握・管理するための方法

 ただし、新しい設計の特性上、これらの標準的な情報提供が難しい場合は、代替としてその設計の安全性を証明する柔軟な他の申請ルートも用意されている。

  1. 環境報告書の提出義務化

 NRC規制案には新たな条項「10 CFR 第51部60(b)(1)(viii)条」が追加され、核融合装置の建設・運転ライセンスを申請する事業者は原則として「環境報告書」の提出が義務付けられる。多様な設計が存在する核融合装置の環境への影響をNRCが適切に評価できるようにすることが、この規定の目的だ。

  • 免除される場合(カテゴリー除外):

 ただし、すべての申請で提出が必須となるわけではない。特定の活動が人間環境に重大な影響を与えないとNRCがあらかじめ判断している「カテゴリー除外(ライセンスの軽微な変更、廃止措置、ライセンスの譲渡、他)」に該当する場合は、提出が免除される。もっとも、カテゴリー除外に該当する場合でも、NRCが「特別な状況がある」と判断すれば、例外的に環境関連文書の作成を求めることができる権限は維持されている。

  • NRCによる審査プロセス:

 提出された環境報告書をもとに、NRCは段階的な環境評価を行う。NRCは、まず環境アセスメント(EA;Environmental Assessment)を作成し、環境への影響が重大ではないと判断した場合に「重大な影響なしの所見(FONSI;finding of no significant impact)」を決定する。EAの結果としてFONSIを出せない場合、またはNRCが当該ライセンス行為を「人間環境の質に重大な影響を与える主要な行動」と判断した場合にのみ、より詳細な「環境影響評価書(EIS;Environmental Impact Statement)」を作成する。

 従来の原子力発電所の規制プロセスとは異なり、核融合施設においてEISの作成はデフォルトではなく、必要と判断された場合にのみ実施されるという柔軟な設計になっている点は注目に値する。

  • 協定州(Agreement States)における取り扱い:

 NRCと協定を結んでいる39の「協定州(NRCと正式な協定を結び、州内の特定放射性物質に対する規制権限を委譲されている州)」に対して、10 CFR第51部の環境規定がそのまま適用されるわけではない。ただし、多くの協定州は国家環境政策法(NEPA;National Environmental Policy Act)に類似した独自の環境要件を持っているため、協定州の管轄下でライセンスを取得する場合も、事業者はその州の定める環境基準に従う必要がある。

 NRC規則案は、核融合スタートアップが直面してきた「どのような規制の下で事業を進めればよいのか」という根本的な不確実性を解消するものになるであろう。米国内では既に核融合スタートアップへの投資が盛んに行われているが、さらにヒートアップしていくことが予見される。日本の核融合スタートアップおよびサプライチェーン関連企業は米国のスピードに追従できるように備えていく必要があるだろう。今後も米国の展開は注視し続けていきたい。

 また、弊社は3月18日、19日にワシントンDCで開催されるFIA(Fusion Industry Association)の年次総会「FIA Annual Policy Conference 2026」に会員企業(Affiliate Member)として参加する。同総会で得られる米国の生の情報も、読者の皆様にはご提供していきたい。

引用

[i] https://www.nrc.gov/

[ii] https://www.federalregister.gov/documents/2026/02/26/2026-03865/regulatory-framework-for-fusion-machines

[iii] https://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/cfr/part030/index