プラスチック汚染に関する企業の情報開示が不可欠に
~政府間の動きに先駆け、CDPが24年春には3,162社の23年度回答を公表予定~
(文責:青木 翔太)
プラスチック汚染が世界的に問題視されていることは、読者の方々もご承知であろう。2022年3月2日にケニアの首都ナイロビで開催された国連環境総会(United Nations Environment Assembly:略称UNEA)では、175か国の国連代表団が、プラスチック汚染を解決するための条約策定に向けた交渉を開始することに合意しており、本会合では、「海洋環境及びその他環境におけるプラスチック汚染は、越境性を有しており、地球規模における喫緊の課題である」ことや、「政府間交渉委員会を発足し、2024年末までに条約案をまとめることを目指す」ことなどが決議されている。※1 また、国際連合の補助機関である国際連合環境計画(United Nations Environment Programme:略称UNEP)は、「現在海には少なくとも 7,500 万トン~2 億トンのプラスチックごみがあり、さらに年間 1,100 万トンが海に流れ込み、海洋生物に害を及ぼし、海洋生物に害を与え、生息地を破壊している。」としている。
このような状況の中、「多くの企業は、自社の事業活動がどのようにプラスチック汚染に加担しているか、また、プラスチック汚染に関連する商業的なリスク等にどれだけさらされているかについて、十分に理解していない」として、CDPは、2023年度以降のCDP質問書より、プラスチックに関する質問事項を導入することを一昨年の2022年9月22日に発表している。※2 CDPは、企業の環境情報の開示に取り組んでおり、機関投資家に代わって各企業に毎年質問書を送付し、企業の回答をスコアリングして公開している非政府組織(NGO)である。プラスチックに関する質問事項の内容については、以下の通りとなる。
①プラスチックの関連付け
・バリューチェーンの中で、プラスチックがどこで使用・生産されているかについて、関連付け(マッピング)を行っているか。
②潜在的な影響
・バリューチェーン全体において、プラスチックの使用や生産が環境や人の健康に与える潜在的な影響を評価しているか。
③事業に対するリスク
・バリューチェーン全体において、ビジネスに実質的または財務的な影響を与える可能性のあるプラスチック関連のリスクに直面しているか。直面している場合は、その詳細を説明してください。
④目標
・プラスチック関連の目標を掲げているか。目標を掲げている場合には、それはどのような目標であるか。
⑤プラスチックに関する指標
・製造、販売、使用したプラスチックの総重量、及びプラスチック材料の含有量はどれほどか。
上述で示した質問事項に対する企業の回答内容(2023年度)については、2024年の春頃に公表される予定となっている。2023年11月14日に発表されたCDPのプレスリリースによると※3、2023年度の質問書では、世界の3,162社がプラスチックに関する回答を行ったとされている。加えて、同発表においてCDPは、プラスチックに関する国際条約の枠組みの中に、プラスチック関連情報の開示義務化を含めることが必要であるとして、この旨を記載した各国政府宛の公開書簡に、合計3.5兆ドルの運用資産を持つ48の金融機関が署名している※4ことを主張した。
プラスチックに関する国際条約の制定に向けた政府間交渉委員会については、2022年11月~2024年末までの間に計5回行われることとなっており、2024年4月には第4回目がカナダのオタワで、2024年11月には第5回目が韓国の釜山にて開催される予定となっている。同委員会では、国別行動計画の策定・実施・更新に加えて、科学的知見や優良事例についても議論されることから、今後は、企業のプラスチックに関する情報開示の取組についても言及されるであろう。国際条約の策定に向けた協議内容については、今後も注視していきたいと考える。また、事業者の皆様においては、来春に公開予定のプラスチックに関するCDP質問書への回答内容も参考にしながら、プラスチック汚染の解決に向けた取組を積極的に推進してもらいたい。
参考資料
※1
https://www.env.go.jp/press/110635-print.html
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※3
※4