ドイツで欧州初のヘリカル型核融合発電所を建設 ~欧州とドイツは綿密な政策を背景に具体化へ~

(文責:青野 雅和)

 EUには7つの核融合スタートアップ企業が存在する。内訳は、フランスに2社(ルネッサンス・フュージョンとジェンF)、スウェーデンに1社(ノバトロン・フュージョン)、ドイツに4社(プロキシマ・フュージョン、フォーカスド・エナジー、マーベル・フュージョン、ガウス・フュージョン)である。

 さて、先週火曜日に、弊社のHPの「News」において、上述のプロキシマ・フュージョン(以下プロキシマ社)が、バイエルン州、RWE、マックス・プランク・プラズマ物理学研究所(IPP)と、世界初の商用ステラレータ核融合発電所をヨーロッパの送電網に導入するための契約を締結したとの情報を紹介した。プロキシマ・フュージョンはヨーロッパで最も急成長している核融合エネルギー企業である

 本稿では、紹介した企業において、背景にある欧州の動きを時系列に遡り、ドイツでヨーロッパ初のヘリカル型核融合発電所を建設する(将来の着地はどの国で世界初となるかは不明であるが、ドイツ政府としては、世界初になると言及している)に至る道程を追うことで欧州とドイツの核融合発電の変遷を見ていく。

欧州:ドラギ欧州競争力報告書[i]の提言 2024年9月17日

 マリオ・ドラギ氏は欧州中央銀行の元総裁であり、ヨーロッパ屈指の経済思想家の一人である、同氏は欧州委員会から欧州の競争力の将来に関する自身のビジョンをまとめた報告書を作成するよう依頼され、同報告書を作成した。

 ドラギ氏は2024年9月17日にストラスブールで開催された欧州議会で演説しており、その演説では核融合発電が文言として出てきてはいないが、報告した「欧州の競争力の将来:The future of European competitiveness」における2つの報告書の「Part B | In-depth analysis and recommendations」の中で核融合発電に関して触れている。以下に記載内容を表記する。

 「核融合は、今世紀後半のエネルギー情勢に革命をもたらす可能性を秘めた破壊的技術である。核融合は、軽水素原子を極高温に加熱し、それらを強制的に融合させて膨大なエネルギーを放出させることを必要とする。豊富で入手しやすい燃料材料21に基づく、低炭素で気候に優しく、手頃な価格で安全なエネルギーソリューションとして、核融合は極めて重要な役割を果たす可能性がある。フランスに拠点を置くITERプロジェクトは、EUが国際パートナー(中国、インド、日本、韓国、ロシア、米国)と協力して2006年に開始したものである。このプロジェクトにより、EUは世界の核融合研究の最前線に躍り出るとともに、産業のサプライチェーンや研究に数十億ユーロを投資してきた。世界の核融合研究では目覚ましい進展が見られるものの、実用化までにはまだ数十年を要するため、この革新的なエネルギー源を市場に投入するには、さらなる協調的な取り組みと投資が必要である。」[ii]

 なお、「Part B | In-depth analysis and recommendations」の核融合に関する記載は新しい核技術の紹介の一つとして、SMR(Small Modular Reactor:小型モジュール炉)と並列表記されている。

欧州:「欧州における核融合エネルギー:行動への呼びかけ」 2026年1月27日

 ブリュッセルで開催された欧州議会公聴会「欧州における核融合エネルギー:行動への呼びかけ」である。FIA(Fusion Industry Association)が欧州連合に行動を要請していた。「欧州における核融合エネルギー:行動への呼びかけ」には、欧州の政策立案者、業界リーダー、投資家、イノベーターが集まり、欧州が核融合エネルギーに対する高まる政治的機運を具体的な産業機会へとどのように転換できるかを検討した。この会合が開催された時期は欧州委員会がEU初の核融合戦略を発表し、後述するドイツが国家的な取り組みを進めている決定的な時期に行われた。

ドイツ:「ハイテク・アジェンダ・ドイツ(the High-Tech Agenda Germany HTAD)」の公表 2026年1月27日

 上述の「欧州における核融合エネルギー:行動への呼びかけ」 のパネルディスカッションでドイツ連邦研究大臣ドロテア・ベア氏が公表した政策。弊社のHPで1月5日に「ドイツにおける核融合発電産業の動向[iii]」として紹介している。

 ハイテク・アジェンダ・ドイツでは①人口知能②量子技術③マイクロエレクトロニクス④バイオテクノロジー⑤核融合と気候中立型エネルギー生成⑥気候変動に配慮した移動手段のための技術の6つの主要技術に焦点を当てており、前述のドラギ欧州競争力報告書に記載されているSMRは脱原発の国策もあり掲載されていない。

 ドロテア・ベア連邦研究・技術・宇宙大臣は「核融合は、私たちが地球の未来を支配できるかどうか、そしてどのように支配できるかを決定づける、基盤となる技術の一つである。」と述べている[iv]

ドイツ:欧州初のヘリカル型核融合発電所の建設を契約 2026年2月26日

 プロキシマ社の実証用ヘリカル型核融合炉「アルファ」が、まずガルヒングに建設され、その後、商用の発電所「ステラリス」がグンドレミンゲンに建設される予定である。これら二つのプロジェクトは、数千人規模の雇用創出と、欧州の競争力強化、そしてエネルギー安全保障の強化につながると期待されている。

 プロキシマ社はプロジェクト費用の約20%を民間投資で賄う計画であり、バイエルン州が20%の州政府拠出の可能性を示唆している。

 この覚書(MoU)はプロキシマ社とバイエルン州、RWE、マックス・プランク・プラズマ物理学研究所(IPP)の4者で締結された。この覚書に基づき、バイエルン州、プロキシマ・フュージョン、RWE、およびIPPは、用地選定、許認可および規制手続き、プロジェクト構成、資金調達に関して協力して取り組む。

 ドイツのガルヒングにあるマックス・プランク・プラズマ物理研究所(IPP)の近くに実証用ステラレータ(Stellarator)「アルファ(Alpha)」を建設することから開始する。2030年代に稼働開始予定のアルファは、正味エネルギー利得を実証する初のヘリカル型核融合炉となる。そして実証後は初の商用ヘリカル型核融合発電所「ステラリス(Stellaris)」の建設を加速させる。ステラリス商業用ヘリカル型核融合発電所は、現在RWE社によって廃止措置が進められているグンドレミンゲンの旧核分裂発電所の跡地に建設される予定だ。

図1 ドイツ、グンドレミンゲンに建設予定のプロキシマ・フュージョン社のステラリス(初の商用ステラレーター型核融合発電所)の完成予想図。

出典:プロキシマ社HPより

 AlphaとStellaris(図2参照)は、建設・製造から高度な電気・磁気システムなど、幅広い分野において、欧州の製造業者やエンジニア向けに数千もの雇用とサプライヤー契約を創出する。長期的な目標は、核融合を欧州のエネルギーシステムに不可欠な要素とし、輸入エネルギーへの依存度を低減するとともに、欧州の核融合技術を初めて系統連系型の商業プロジェクトに適用することである。

図2  Stellaris商業用ヘリカル型核融合発電所のイメージ

出典:プロキシマ社HPより

ドイツ:核融合エネルギー研究・イノベーションロードマップの発表 2026年3月の予定

「核融合エネルギー研究・イノベーション The “Fusion Energy Research and Innovation” (FIRE)[v]」プロジェクトは、ドイツ科学技術アカデミー(acatech:Deutsche Akademie der Technikwissenschaften)が主導するプロジェクトで、acatechはドイツ連邦政府と本拠地であるバイエルン州から資金提供を受けている、国内外における工学分野の国立アカデミーであり、その声を代表する機関である。同プロジェクトはacatechの葉ビル教授がリーダーで推進している。2025年3月~2027年2月の2年間のプロジェクトであり、2026年3月にThe “Fusion Energy Research and Innovation” (FIRE)の展開において、核融合エネルギー研究・イノベーションロードマップが発表される予定である。

 FIREの内容は、世界初の核融合発電所建設に至るまでの取り組みを導く技術的枠組みを開発していくものである。このロードマップは、多様な専門家グループとの一連のインタビューとワークショップが、このロードマップの基礎となっており、発電所建設の全技術プロセスと商業運転の条件を網羅し、最も重要な技術的課題とマイルストーンを明確に示すという。インタビュー対象者は、プラズマ物理学などの科学分野から、発電所建設などの産業分野まで、核融合分野全体を網羅しているとのこと。なお、このロードマップは、新素材の開発から発電所の統合まで、幅広い課題に取り組むこととなるとのこと。

欧州:初の核融合戦略 2026年の第一亜四半期の予定

 EU初の核融合戦略は2026年の第一亜四半期に発表される予定で、欧州を世界の核融合開発の最前線に位置づけ、EUにおける商業用核融合エネルギーの普及を加速させるとしている。同戦略は、 クリーン産業協定 および 手頃な価格のエネルギー行動計画で約束された事項を実現するとともに、 前述で紹介したドラギ欧州競争力報告書[vi]の提言も踏襲すると欧州議会のHPには記載されている。

 EUはITER計画における中心的な役割や、ユーラトム研究訓練プログラムの下での継続的な取り組みを通じて、核融合分野における世界的なリーダーであり続けているものの、世界的な競争は激化していると認識しており、米国、英国、中国、日本といった国々は、国家的な核融合戦略を打ち出し、民間投資の流入を拡大させている。[vii]

 欧州委員会は、政府や組織が政策策定・見直しに際し、広く一般からデータ、事例、専門知識などの「根拠(エビデンス)」を収集するCall for Evidence(コール・フォー・エヴィデンス)を2025年6月3日から7月1日まで実施し、核融合戦略策定に役立てているとのこと。

 このように、ドイツは欧州が推進する核融合技術の推進の流れの中で、欧州推進のITERのみならず、民間主導での商用核融合発電所の建設とその建設過程を整理し、核融合エネルギー研究・イノベーションロードマップに昇華させる動きを展開している。

 3月18日、19日とワシントンDCで開催される FIA Annual Policy Conference 2026では19日に日本の現況についての枠が設けられている。各国各地域の動きに関してどのような紹介がなされるのか楽しみである。可能な範囲にて、極力紹介していきたい。

引用

[i] https://commission.europa.eu/topics/competitiveness/draghi-report_en

[ii] The future of European competitiveness Part B | In-depth analysis and recommendations

[iii] https://baumconsult.co.jp/2026/01/05/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e6%a0%b8%e8%9e%8d%e5%90%88%e7%99%ba%e9%9b%bb%e7%94%a3%e6%a5%ad%e3%81%ae%e5%8b%95%e5%90%91/

[iv] https://www.bmftr.bund.de/SharedDocs/Kurzmeldungen/EN/2026/01/20126-fusion-brussels.html#:~:text=For%20this%20purpose%2C%20the%20Federal,physical%2C%20technical%20and%20organizational%20requirements.

[v] https://en.acatech.de/project/fusion-energy-innovation-and-research-roadmap-fire/

[vi] https://commission.europa.eu/topics/competitiveness/draghi-report_en

[vii] https://energy.ec.europa.eu/topics/research-and-technology/fusion-energy-and-iter_en#:~:text=to%20the%20grids.-,EU%20Fusion%20Strategy,Draghi%20Report%20on%20European%20Competitiveness.