英国政府がグリーン水素の製造を加速へ
~HAR1の11プロジェクトを対象に行使価格241ポンド/MWh(約43,500円)で落札~
(文責:坂野 佑馬)
2023年12月14日、英国政府はグリーン水素(再生可能エネルギーで製造した水素)製造への支援を割り当てる第第1回目「HAR 1(Hydrogen Allocation Round)」※1に、11のグリーン水素製造プロジェクトへ今後3年間に渡って4億1,300万ポンド(約 747億円)を拠出することを発表した。英国政府によると、11の新プロジェクトにより、合計125 MWの水素製造能力を開発し、さらに700人以上の新たな雇用を生み出すことが可能になると推計されている。
HAR1は2022年7月に英国政府より募集が開始された。最終交渉に至ったプロジェクトは17つあり、そのうち2つのプロジェクトが辞退し、4つのプロジェクトは不調に終わった。HAR1では、コスト面でも厳しい審査がなされ、加重平均行使価格241ポンド/MWh(約 43,500円)での落札となった。また、政府は今回の11のプロジェクトの発表とともに、グリーン水素製造への大規模拠出の第2回目である「HAR2」※2を公示し、現在応募を受け付けている。HAR2では、プロジェクトの価格、費用対効果、質に応じて、最大875MWの容量を支援するとしている。
表. 英国HAR1に選出された11プロジェクトの概要
プロジェクト | ディベロッパー | 容量(MW) | 利用形態 |
Barrow Green Hydrogen | Carlton Power | 21.0 | 消費財製造施設 |
Bradford Low Carbon Hydrogen | Hygen | 24.5 | 運輸、産業 |
Cromarty Hydrogen | Scottish Power and Storegga | 10.6 | ウイスキー蒸留所 |
Green Hydrogen 3 | HYRO | 10.6 | 消費財製造施設 |
HyBont | Marubeni Europower | 5.2 | 運輸、産業 |
HyMarnham | JG Pears and GeoPura | 9.3 | 産業 |
Langage Green Hydrogen | Carlton Power | 7.0 | 鉱業、素材生産施設 |
Tees Green Hydrogen | EDF Renewables Hydrogen | 5.2 | 産業 |
Trafford Green Hydrogen | Carlton Power | 10.5 | 運輸、産業 |
West Wales Hydrogen | H2 Energy and Trafigura | 14.2 | 産業 |
Whitelee Green Hydrogen | Scottish Power | 7.1 | 運輸、産業 |
出所:エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)及びS&Pグローバルより引用
同時に、英国政府は、将来の2025年と2026年に対するHARの計画を定めた水素製造ロードマップ(図1)を発表した。英国の目標は、2025年までに1GW、2030年までに10 GWの低炭素水素を生産することである。この目標のうち6 GWはグリーン水素で供給される。これは以前までの5GWから修正された目標であり、残りの4GWはブルー水素で供給することを目指すとしている。
英国政府は此度のHAR以外にも、ネット・ゼロ水素基金(NZHF;Net Zero Hydrogen Fund)※3として低炭素水素の製造を支援している。NZHFでは、2段階に分けて支援が行われており、1段階目では、フロントエンドエンジニアリング設計(FEED)およびFEED後の活動に開発費(DEVEX)を提供し、水素製造プロジェクトのパイプラインを構築することを目指す。2段階目においては、収益が担保されている水素製造プロジェクトに対して、資本支出(CAPEX)を支援するものである。NZHF 2段階目への申請者は、低炭素水素の大規模生産に貢献する信頼性の高いプロジェクトを示さなければならない。(図2)
図1. 英国水素製造ロードマップ
出所:エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)より引用
図2. 英国におけるHAR1、NZHF、CCUSプロジェクトの立地(2023年12月時点)
出所:エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)より引用
英国政府は真剣に低炭素水素の製造拡大に取り組んでいることが伺える。一方で、英国においては2025年以降の新築住宅における暖房設備としてボイラーの利用を禁止する協議がなされている。※4つまりは、新築住宅における脱炭素化の措置や熱源として代替措置が実現されれば、必ずしもグリーン水素のボイラー利用が必要なくなるとの記述がされている。一見逆行したように見える方向性であるが、これも水素製造ロードマップとして緻密に計画を練っている中での取捨選択なのであろう。こうした政府の明確な意向が示されることで、事業者としても取組方針を決めやすくなると考える。英国における水素の展開には今後も注視していきたい。
引用
※1 https://www.gov.uk/government/news/major-boost-for-hydrogen-as-uk-unlocks-new-investment-and-jobs
※2 https://www.gov.uk/government/publications/hydrogen-allocation-round-2
※3 https://www.gov.uk/government/publications/net-zero-hydrogen-fund-strand-1-and-strand-2