米国22州でデータセンターのサスティナブルな開発を確保するための法案が提出 ~AI活用に向け、エネルギーと水資源使用の社会共存を推進~
(文責: 青野 雅和)
米国では、ジョー・バイデン大統領の統治下であった2025年1月14日に人工知能(AI)を対象としたデータセンターの増強に向け、連邦政府所有地でのデータセンター建設・運営を推進する大統領令を発令。トランプ政権に移行した2025年4月には、the Clean Cloud Act of 2025[i]を上院で2025年4月10日に 2回読み上げ、同法は環境公共事業委員会に付託されている。ちなみに、この法案は大気浄化法を改正したもので、米国環境保護庁 (EPA:U.S. Environmental Protection Agency) と 米国エネルギー情報局(EIA ;U.S. Energy Information Administration) に、データセンターまたは暗号通貨マイニング施設の年間エネルギー消費量、電力供給業者、電力購入契約、および関連トピックに関するデータと情報を収集する権限を与えている。
その後、2025年7月23日にトランプ大統領が「データセンター基盤の迅速な整備を促進する大統領令[ii]」に署名したと発表し、現時点でデータセンター基盤整備を国家戦略として推進している状況だ。なお、7月のこの大統領令では、100MW以上のデータセンターや、半導体製造、エネルギー供給、ネットワーク機器といった関連インフラを「対象プロジェクト」と定義し、商務省による融資や補助金、税制優遇を提供する方針が示されている。加えて、国防総省、内務省、エネルギー省も関与し、連邦土地での建設を積極的に承認する仕組みが整えられた。
トランプ政権は、従来のバイデン政権下で課されていた多層的な環境・多様性(DEI)要件が撤廃され、審査が大幅に簡素化されたと自己称賛している。
以下にトランプ政権で推進しているデータセンターの建設に向け、各州での多様な思惑と配慮を含む法案の紹介及び建設を巡る世論の動きの一部を紹介する。
データセンター建設を円滑に進める法案の整備
データセンターが電力需要の急増を引き起こす中、データセンターの拡大がコスト増加、信頼性の低下、気候変動対策目標の達成を阻害しないよう、多くの州で法案が提出されている。2025年においては、少なくとも22の州が、データセンターの電力網、エネルギー、環境への影響に対処するための60以上の法案を提出している状況だ。
この情報は、全米環境議員連盟(NCEL:The National Caucus of Environmental Legislators[iii])が整理しているものである。NCELはデータセンターのエネルギー需要を気候目標に適合させるため、データセンターの特有の課題を認識し、各州におけるデータセンター開発が送電網およびクリーンエネルギーの目標と調和して行われるよう、法案提出を推進している。
NCELは、25年に提出されたデータセンターに関する環境規制法案の22州で提出された65件のうち、大半は(1)料金支払者保護、(2)エネルギー利用の透明性、(3)再生可能エネルギー要件、(4)立地プロセスに焦点を当てていると整理している。
これらの情報は、現在の米国におけるデータセンター産業の創出と環境資源の保全を両立する動きとして、日本の自治体でも導入すべき考え方であると、弊社は評価する。
上記の22州を図1に上示す。
図1 データ センターのサスティナブルかつ公正な開発を確保するための法案[iv]を 2025 年に導入した22州(以下 青色表示)

出典:NCEL
米国において、干ばつと地下水供給の減少に直面している州は、データセンターでの水使用に関する透明性を求める動きが広がっている。法案番号を各州の後ろに括弧で記載する。
カリフォルニア州、ニュージャージー州、バージニア州、ミネソタ州、コロラド州、アリゾナ州、コネチカット州 ( SB 1292 / HB 5076 )、ジョージア州 ( HB 528 )、ニュージャージー州 ( S 4143およびS 4293 )、オレゴン州 ( HB 3698 )、インディアナ州 ( SB 135 )、およびイリノイ州 ( SB 2181 ) では、データセンターにエネルギーと水の使用量を定期的に報告することを義務付ける法案が提出されている。概要は表1を参照頂きたい。
表1 データセンターにエネルギーと水の使用量を定期的に報告することを義務付ける法案を提出している州の一覧
| 法案 番号 | 法案の水資源における概要・内容 | 州名 | ステイタス |
| SB2181 | データセンターレポート | イリノイ州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| SB135 | データセンター開発。 | インディアナ州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| HB3698 | データ センターに、使用した水と電気を水資源局と州エネルギー局に報告するよう指示する | オレゴン州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| AB93 | 水資源: データセンター。 | カルフォルニア州 | 幹部に送信 |
| SB1292 | 人工知能データセンターのエネルギー効率要件に関する調査を義務付ける法案。 | コネチカット州 | 委員会外 |
| HB5076 | 人工知能データセンターのエネルギーおよび水効率要件に関する法案。 | コネチカット州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| HB528 | 収入と課税; 特定の資源を大量に使用する施設に、地域社会への影響とエネルギーおよび水の使用に関する開示を義務付ける | ジョージア州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| S.4293 | データセンターの所有者または運営者は、水とエネルギーの使用状況レポートを BPU に提出する必要がある | ニュージャージー州 | 有効 |
| S 4143 | データセンターの所有者または運営者は、水とエネルギーの使用状況レポートを BPU に提出する必要がある | ニュージャージー州 | 有効 |
| A.5548 | データセンターの所有者または運営者は、水とエネルギーの使用状況レポートを BPU に提出する必要がある | ニュージャージー州 | 委員会外 |
| SB 899 | 高電力需要施設。地方自治体はゾーニング条例に水使用量の見積りを含めることができる | バージニア州 | 委員会外 |
| HF2928 | 大規模な水資源利用プロジェクトに対する事前申請の義務付け、大規模な水資源利用プロジェクトの許可申請情報の追加、データセンターの環境審査レベルの指定、エネルギー節約および最適化計画への財政的貢献の免除をデータセンターに課すなど、データセンターに関するその他の規定の変更 | ミネソタ州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| HCR61 | 水/資源: データセンターに関する省庁間協議プロセスを研究するための特別タスクフォースを設置し、より完全な天然資源の計画と管理を確保する | ルイジアナ州 | 原院を通過 |
出典:NCEL資料よりBCJ作成
また、NCELでは、データセンターの急増が地域社会の景観を変え始め、人々の生活様式にも影響を与え始め、水、農業、保護区、大気質への影響が懸念事項の主要な一部であると認識している。13の州でデータセンターの建設前に地域の関与を強化または義務付ける法案が提出されている。インディアナ州 ( SB 135 )、バージニア州 ( SB 285 )、テネシー州 ( HB 0946 / SB 0962 ) では、データ センターが承認される前に、水と天然資源への影響を調べる現地のサイト評価を義務付ける法案が導入されている。表2にサイト評価の概要を示す。
表2 水と天然資源への影響をデータセンター承認前に義務付ける法案を提案している州の一覧
| 法案 番号 | 法案の水資源における概要・内容 | 州名 | ステイタス |
| SB 285 | データセンターの立地承認に先立ち、地方自治体は、データセンターの建設完了時の水と電力の使用量を公開することを義務付け、データセンターが水の使用量、地域の電力網、二酸化炭素排出量、そして地域内の農業、歴史、文化資源に与える影響を調査するための立地評価を実施することが義務付けられる | バージニア州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| HB 0946 | 申請者と電力会社は、新しい高エネルギー使用施設(HEUF)の設置に関する再区画申請、特別例外、または特別使用許可の承認前に、現地評価を実施し、地方自治体に提出する必要がある | テネシー州 | 導入済みまたは事前申請済み |
| A.5548 | データセンターの所有者または運営者は、水とエネルギーの使用状況レポートを BPU に提出する必要がある | ニュージャージー州 | 委員会外 |
| HCR61 | 水/資源: データセンターに関する省庁間協議プロセスを研究するための特別タスクフォースを設置し、より完全な天然資源の計画と管理を確保する | ルイジアナ州 | 原院を通過 |
出典:NCEL資料よりBCJ作成
このように、米国の50州のうち22州においてデータ センターのサスティナブルかつ公正な開発を確保するための法案が提出されており、そのうち11州で水の使用やモニタリングに関する法案が提出されている。
データセンター建設の障害
米国全土におけるデータセンター開発に対する草の根の反対運動を追跡するプロジェクトであるData Center Watch[v]の報告書によれば、共和党の影響力が強いインディアナ州とケンタッキー州では、今年初めにプロジェクトが阻止された事例があるとのこと。
2025年第2四半期だけでも、推定980億ドル規模のプロジェクトが阻止または遅延しており、これは2023年以降のすべての四半期の合計額を上回っている。政治的な抵抗と地域組織の連携の強化が促進されるという傾向が、拮抗しているらしい。
地域コミュニティの反対がある一方で、政治的な抵抗は生じているということである。政治家のトップが反対しデータセンター建設を盲目的に推進する事例が実際に生じている。
ニュージャージー州とカリフォルニア州では、データセンターの水使用量報告を義務付ける法案が両院を通過したが、民主党知事によって拒否された。また、バージニア州では、データセンターの騒音、水、土地利用への影響を地方自治体が評価することを認める法案が、共和党のグレン・ヤングキン知事によって拒否された事態となっている。
また、データセンター建設の推進には興味深い傾向が見て取れる。超党派の提案でデータセンターの管理に関する提案が提出されているのである。一方で、民主党、共和党それぞれの知事が承認を拒否する事例があることから、データセンターへの推進も反対も各選挙区の主流政党の力に左右されていないのである。
地域社会及び原住民への配慮として大気浄化法関連要素を一元的に提供することで、データセンターを推進させたいトランプ政権
2025年12月11日、米国環境保護庁(EPA:U.S. Environmental Protection Agency)の大気放射線局(OAR:Office of Air and Radiation)は、データセンター開発者、地域社会、アメリカの原住民に対し、大気浄化法(CAA:Clean Air Act)関連要素を一元的に提供するため、「データセンター向け大気浄化法リソース 」ウェブページを開設した[vi]。
これらのリソースは、リー・ゼルディンEPA長官が主導する「アメリカの偉大な復活を後押しするイニシアチブ」の2つの中核的な柱、すなわち「アメリカを世界有数の人工知能(AI)首都にすること」と「協調的連邦主義の推進」をさらに推進するものであるとのこと。
CAA の視点では、OAR の特定の新しい要素は、データ センターや AI 施設の開発に関連するモデリング、大気質の許可、規制の解釈に役立つ規制情報、ガイダンス、技術ツールを州や民間セクターのパートナーに提供していく。
本稿で紹介した情報を読み解くと、トランプ政権においては、AI推進と必要となるデータセンターの円滑な建設に向けて、苦慮している状況が見て取れる。AIを米国の技術として差別化していきたいのだが、電力と水資源というデータセンター稼働の燃料が不足しており、地域住民の生活に影響を与えており、データセンター反対との怨嗟が出ている状況だ。
欧州や中国でもこうした事態にならない様、既にデータセンター建設に向けた効率指標であるPUE (Power Usage Effectiveness:電力使用効率性)やWUE (Water Usage Effectiveness:水使用効率性)を設計時点で評価することが進められている。ちなみに米国ではWUEの数値をデータセンターが公開することは地域の賛同を得るためには、当然の事象となっている。
日本では株式会社NTTデータグループがCDPの「気候変動」「水セキュリティ」調査において、最高評価のAリスト企業に選出された[vii]。WUEの取り組みが評価されたとのこと。日本のデータセンターでWUEの取り組みを公表している事例としては、知る限り初めてのことである。WUEの算出は組織のWater Footprintを算出が必要である。既存のデータセンターでのWUEの取り組みが展開や新規のデータセンターでの設計上のWUEの数値が公表されないと、日本でも地域社会で水資源利用が賛同されない事態となる恐れがある。日本でもデータセンターはAI活用に重要な役割を果たす。そのための環境規制は基準を構築すべきであり、また各企業のWUE等のデータは公表し、社会に対し透明化していくべきである。
引用
[i] https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-bill/1475
[ii] https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/07/fact-sheet-president-donald-j-trump-accelerates-federal-permitting-of-data-center-infrastructure/?utm_source=chatgpt.com
[iv] https://www.quorum.us/spreadsheet/external/fIFqvnuQnztuFOSRimdN/
[v] https://www.datacenterwatch.org/
[vi] https://www.epa.gov/newsreleases/epa-unveils-clean-air-act-related-resource-provide-transparency-data-center-developers
[vii] https://www.nttdata.com/global/ja/news/evaluation/2025/121500/

