中国における核融合発電の政府主導のプロジェクトとスタートアップの状況

(文責: 青野 雅和)

 中国の科学技術の発展とそのロードマップは、中国共産党中央委員会による「国民経済と社会発展第15次5カ年計画策定に関する提言(2026~30年)」を参照することで理解できる。「国民経済と社会発展第15次5カ年計画策定に関する提言(2026~30年)」では、技術を新たな経済成長の柱として推進することとし、「先見的に未来産業の布陣を敷き、多様な技術ルート、典型的な応用シーン、実現可能なビジネスモデル、市場規制・監督ルールを模索し、量子科学技術、バイオマニュファクチャリング、水素エネルギーと核融合エネルギー、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)、エンボディドAI、第6世代移動通信(6G)等を新たな経済成長分野にしていく」と記載されている。

 そして、核融合産業にとって今後5年間の喫緊の課題は、中核ハードウェアとシステム制御におけるエンジニアリングの飛躍的進歩であるとされている。

 本稿では中国の核融合発電の研究の動向を紹介する。

国営企業としての展開

  1. EAST :The Experimental Advanced Superconducting Tokamak

 2025年に、中国は制御核融合の3つの重点分野で大きな進歩を遂げた。1月には、中国科学院プラズマ物理研究所[i]のEAST(先進超伝導実験トカマク)装置(図1参照)が1億度のプラズマの定常運転を1,066秒間達成し、世界新記録を樹立した。

図1 EAST(先進超伝導実験トカマク)装置 「紅煌70」

出典:中国科学院プラズマ物理研究所

  1. 中国循環炉3号(Huanliu-3:HL-3)

 2025年3月には、中国核工業集団 核工業西南物理研究院が研究する、中国循環炉3号(HL-3:図2参照)が初めて「ダブル1億度」運転を達成し、核温度は1億1700万度、電子温度は1億6000万度に達した。HL-3は現在、中国最大かつ最先端のトカマク装置である。中国核集団(CNNC)傘下の西南物理研究所によって独自に設計・建設・運用されており、プラズマイオン温度は太陽核の温度の10倍にあたる1億5000万度に達します。HL-3は完成以来、運転パラメータを急速に向上させ、中国の制御核融合装置における新記録を次々と更新している。

図2 中国循環炉3号(Huanliu-3:HL-3)磁場閉じ込めトカマク装置

出典:西南物理学研究所

  1. 実験装置:玄龍50U

2025年4月には、新奥科技発展有限公司[ii]の「玄龍50U(図3参照)」実験装置が世界で初めて100万アンペアの水素・ホウ素プラズマ放電を達成した。その後、5月には、1.2テスラを超える第二レベルの磁場条件で世界新記録を樹立した。この結果、「玄龍50U」は世界最先端の球状リング型装置の仲間入りを果たしている。

図3 玄龍50U

出典:新奥科技発展有限公司

  1. BEST:Burning Plasma Experimental Superconducting Tokamak計画

 直近の11月24日に、中国科学院が合肥で発表した計画であり、小型核融合エネルギー実験装置の「BEST:Burning Plasma Experimental Superconducting Tokamak(図4参照)」を推進する計画である。

図4 BEST:Burning Plasma Experimental Superconducting Tokamakの建設現場

出典:中国科学院合肥物理科学研究所

 本計画は、中国科学院国際合作局の特別プロジェクトの支援を受け、中国科学院合肥物理科学研究所の下部組織であるプラズマ物理研究所が実施する。なお、この計画には、オープン研究基金の設立、国際学術会議の開催、共同実験プラットフォームの構築、海外からの人材誘致と協力、国際的な人材チームの構築などを通じた核融合分野における国際協力資源の統合、国際的な核融合科学者の英知と力を結集し、核融合物理学の最先端の課題に関する共同研究など多くの目的を持っている。ちなみに、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど10カ国以上の核融合科​​学者が「合肥核融合宣言」に共同で署名した。

スタートアップの展開

 安徽省の合肥市では、同市に存在する中国科学技術大学や中国科学院合肥物質科学研究院などの研究成果を活用して起業した、「合肥生まれ、合肥育ち」の核融合技術スタートアップが出現している。表1に主な企業を整理した。

表1 中国の核融合スタートアップ企業

企業名設立場所設立年概要
Startorus Fusion (民間)西安2021CAS Star(中科創星)、華成創投、和玉資本(MSA Capital)により出資 商用実証炉を2032年に完成させる予定 トカマク式
Energy Singularity上海2021超伝導磁石、先進トカマク物理学、AI技術の最近のブレークスルー 2022年、2023年にSeries Seed and Series Pre-A で8億元を調達
HHMAX-Energy (Hanhai Energy)成都2022field-reversed configuration (FRC) を推進
NovaFusionX (民間)上海2023field-reversed configuration (FRC) を推進 Future Capital、Gaorong Venturesの出資
Neo Fusion (民間)安徽省合肥2023燃焼プラズマ実験超伝導トカマク(BEST:Burning Plasma Experimental Superconducting Tokamak)計画に関与 中国石油天然気集団、合肥物理学研究所、安徽省能源の出資
Xeonova (民間)安徽省合肥2024field-reversed configuration (FRC)を推進
Magnull Fusion(北京零点聚能科技有限公司)(民間)北京2024北京大学と共同展開 北京大学物理学院の学部長任命准教授の肖奇傑氏が推進 溪山エンジェルファンドが出資
China Fusion Energy Co. (中国核融合公司) (国営)上海2025中国核融合工程公司の子会社 中央国有企業7社と国有資産機関が共同で114億9200万元を投資

出典:BCJ作成

 2023年設立のNeo Fusionは国営企業の中国石油天然気集団公司と、中国科学院傘下のHefei Science Island,が、ネオフュージョンの新たな投資家となり、それぞれ20%の株式を保有することになった。両社の資金援助により、同社の登録資本金は当初の50億元(7億ドル)から145億元へと大幅に増加した。その他、国営企業の安徽省能源、電気自動車メーカーNIOが投資している。

 また、西安を拠点とするスタートアップ企業、Startorus Fusionは2025年3月にプレAラウンドの資金調達を完了し、数億元を調達したと発表した。同社は清華大学工学部物理学科が主メンバーであり、清華大学と共同でオープンソースの融合データラベリングプラットフォームを立ち上げている。

 北京で2024年に設立されたMagnull Fusioは 溪山エンジェルファンドからシードラウンドで数千万人民元を調達しており。2025年3月1日には、北京大学と共同で「北京大学-MaF核融合エネルギー共同実験室」を設立している。実験室は北京大学の肖其傑終身准教授が所長を務め、学術委員会はハルビン工業大学の王暁剛教授が委員長を務めている。同社は、磁気ゼロ点閉じ込め核融合の実現可能性に焦点を当て、低コストで高パラメータの新たな核融合ルートの探求に注力している。

タイへの支援と協力

 タイへの支援を展開している。ASEAN地域における先駆的な取り組みであるタイランド・トカマク1(TT-1)の共同建設である。TT-1は、中国科学院プラズマ物理研究所(ASIPP)、中国科学院合肥物理科学研究所とタイの農業・医学用原子力技術研究所(TINT)との重要な共同プロジェクトである。

 2023年のタイ国立科学技術博覧会[iii]で紹介されている。TT-1は2023年7月25日に実験運用を開始している[iv]

今後の展望

 中国では国営企業や研究機関が合肥市や成都市で国主導での推進がなされている状況であり、ITER規模の技術展開では、ITERと商用核融合発電所の橋渡し役として、1.5~3GWの核融合発電出力、15~30のQ値、そしてトリチウムの自給自足を実証することを目標として展開しているCFETR(Chinese Fusion Engineering Testing Reactor)[v]がある。また、小型のBESTは2030年台にラウンチの予定である。これら国主導プロジェクトの裾野として、超電導材料やAIでのプラズマ制御など周辺技術でのスタートアップが大学との共同やスピンオフで設立されている状況だ。

 既に米国では核融合発電事業者とマイクロソフトやGoogleなどのデータセンター運営企業でオフテイク契約が締結されている。中国でもデータセンターが増加していくことから、電力供給元として核融合発電に焦点が当たっていくことも予測される。加えて産業の裾野としてAIやIT、金属材料、耐火技術、電磁・電圧制御、エネルギー関連設備メーカーの展開先としても非常に有望であり、中国政府は輸出産品として核融合発電を展開していくこととなるであろう。

引用

[i] http://english.ipp.cas.cn/

[ii] https://www.ennresearch.com/

[iii] http://english.ipp.cas.cn/news/202410/t20241028_277631.html

[iv] https://lssf.cas.cn/en/facilities/energy/east/news/202506/t20250606_5072031.html

[v] https://www.iter.org/fusion-energy/after-iter