ボランタリークレジットが進むドイツ。市場の約3割を占める。
(文責:坂野 佑馬)
昨今カーボンニュートラル達成へ向けて、国内外問わず様々な企業が温室効果ガス(以下GHG)排出量を削減する術を試行錯誤している。その中で、GHGの削減・吸収量を一定のルールに基づき定量的な価値を設定して取引を行うという、「クレジット」の利用が注目を集めている。
クレジットと言ってもその種類は多種多様で、国連や各国政府・自治体によって発行されているものや民間セクター・NGO等が主導で運営しているものが存在する。この民間セクター・NGO等によるクレジットは「ボランタリークレジット」と呼ばれており、代表的なものとしてVCS(Verified Carbon Standard)やGold Standard等が知られている。その特徴の1つとして、GHG排出量削減だけでなく副次的効果もクレジットの対象となることが挙げられる。例えば、生物多様性保全や水質保全、雇用創出などSDGsに係るような事項である。世界銀行が公表しているデータによると、2020年度のボランタリークレジットの発行量は803 MtCO2 分であり、クレジット市場全体の約19%になるそうだ[i]。
ボランタリークレジットは海外の中でも、特にドイツにおいて利用量が多いことが知られている。2018年11月にドイツ連邦経済開発協力省により設立されたNPOであるAllianz für Entwicklung und Klima[ii]の資料によると、ドイツのボランタリークレジットの年間償却量は2019年度で20.2 MtCO2となっている[iii]。2020年9月にボランタリークレジット市場の拡大を目的として創設された機関であるTSVCM(The Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Makers)[iv]は、2019年度の世界全体での総年間償却量が70 MtCO2であったと報告している[v]。つまり約29%のボランタリークレジットをドイツだけで償却していることが分かった。
ドイツでは連邦政府やいくつかの連邦州も、独自の気候保護法を制定している。その中で排出量の制約だけでなく、削減やオフセットの目標に関しても、法的義務を課す傾向がある。またボランタリークレジットの需要家として、中小企業が約半数を償却していることが分かっている。Allianz für Entwicklung und Klimaが中小企業に対して行った「ボランタリークレジットを利用する理由」についてのアンケート調査の結果は以下のようになっている(図1)。「政府の支援」より「地球環境への責任」を重要視している傾向があり、中小企業が環境問題に対して当事者意識を持っていることが感じ取れる結果である[vi]。
図1. 中小企業がボランタリークレジットを利用する理由
(出所)Allianz für Entwicklung und Klima作成資料からBCJ作成。
日本国内においても、「世界全体でのカーボンニュートラル実現の為の経済的手法等のあり方に関する研究会[vii]」を設置しクレジット市場の活性化へ向けた検討は進められているようだ。その中でも、ボランタリークレジットに関する制度設計について議論がなされている。現在でこそ日本国内でのボランタリークレジット市場は目立ったものではないが、近い将来積極的に導入されるようになるかもしれない。その時にはドイツの知見することは一考の価値があるのではなかろうか。
[i] 世界銀行_State and Trends of Carbon Pricing 2021
https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/35620
[ii] Allianz für Entwicklung und Klima_HP
https://allianz-entwicklung-klima.de/
[iii] Aktueller Stand des freiwilligen TreibhausgasKompensationsmarktes in Deutschland
[iv] TSVCM_HP
[v] TSVCM _2021年1月期報告書
https://www.iif.com/Portals/1/Files/TSVCM_Report.pdf#page=50
[vi] Kompensationszahlungen kleiner und mittlerer deutscher Unternehmen für CO2 -Emissionen
[vii] 経済産業省_カーボンクレジットに係る論点
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/001_05_00.pdf