英国はバイオ由来の水素からCO2を回収するBECCSでネットゼロを目指す

(文責:青野 雅和)

 英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy, BEIS) は12月13日付で、炭素を分離回収し貯留するバイオマスエネルギー(bioenergy with carbon capture and storage:BECCS)から水素を製造する技術展開に対して、2500万ポンドを拠出することを決定した。
 BECCSとはCCS(CO2回収・貯留)とバイオマスエネルギーを結び付けた技術を指す造語である。バイオマスはCO2を吸収しているが、燃焼させるとCO2は排出されてしまう。BECCSは燃焼時のCO2を回収・運搬し物理的に大気放出しない技術を指す。放出させないことでCO2を純粋に減少させるのである。大気中のCO2を除去・減少させる技術をネガティブエミッションもしくはCarbon Dioxide Removal(CDR)と呼ぶ。

 BECCSはバイオマス発電と二酸化炭素の地中貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)や原油の増進回収技術(EOR: Enhanced Oil Recovery)を組み合わせることが一般的であるが、此度の英国政府の発表は、生物起源の原料から水素を生成し、炭素回収と組み合わせることができる技術を目指している。今回の2500万ポンドの拠出は、その技術の開発を支援することを公表したもの。
 此度の公表では、エネルギー大臣のLord Callanan氏が「この水素技術は、ネットゼロからさらに一歩進んで、温室効果ガスを大気中から除去するカーボンマイナスの可能性を秘めており、我々の気候変動に関する目標を達成するために極めて重要な技術である。」と述べている。また、こうした動きは民間投資を呼び込み、新たなグリーン雇用を創出するのに役立つであろうとも推察を加えている

■BECCSのトラックレコード
 さて、ここでBECCSの技術開発の変遷を少し紹介したい。
 英国の大手電力会社Drax社(Drax Group pl)は、2018 年 10 月に英国ノース・ヨークシャー州に保有するドラックス発電所で燃料を石炭から木材に転換した。その後、バイオエネルギー炭素回収貯留 (BECCS) のパイロットプロジェクトをヨーロッパで初めて試験的に開始している。このプロジェクトには三菱重工業 (MHI) が 貢献しており、2021年6月には同社の炭素回収技術である Advanced KM CDR process™️を使用する長期契約に合意している。MHIはこの技術によりコマーシャルベースで世界初のネガティブ・エミッションを目指すと述べている
 また、米国では、農産加工会社であるArcher Daniels Midlandが「Illinois Industrial Carbon Capture & Storage Project」でトウモロコシからエタノールを生成する過程のCO2(3000t/日)を除去し、地下7000フィートの砂層への貯留を2017年に開始している。日本では佐賀市で「清掃工場バイオマス利活用促進事業」として、アルカリ性のアミンという化学吸収液により、排ガスからCO2を日量10t回収し、藻類の培養プラントに供給している。英国や米国の事例と比較すると処理量は少量であるが、コマーシャルベースで展開しているプロジェクトとしては評価に値する。アミンを利用した化学的なCO2の吸収技術は川崎重工や東芝も展開しており、技術保有している企業が複数存在することは素晴らしいことである。わが国の2050年でのカーボンニュートラルを実現する技術として経済産業省、環境省等の支援も今後推進されていくであろう。

■英国でのBECCSプロジェクトの創出
 2022年8月11日に英国政府は「Business model for power bioenergy with carbon capture and storage」を発表した。このコンサルテーションでは、発電と負の排出の両方に対する CfD メカニズムに基づく実行可能な投資フレームワークが設定され、意見を求めた後、10月7日に終了している。
 また、平行して8月には英国政府が電力BECCSプロジェクトへの参加条件を公表した。現在Track-1として、2023 年前半の契約条件のドラフトとともに、2022 年 12 月から最終候補先をBEISが選定していくとしている

■英国におけるBECCSの役割
 英国政府は10月1日に「the Net Zero Strategy1」を公表し、温室効果ガス除去技術(greenhouse gas removal (GGR) technologies)が2050年までの脱炭素社会を支えるために果たすべき役割を説明している。この中で、GGR技術は、2035年までに約23 MtCO₂/年、2050年までに75~81 MtCO₂/年まで展開する必要があると指摘している。
 BECCSは英国政府において非常に重要視されている。パリ協定締結後の2019年5月には英国の気候変動委員会が「Net Zero – The UK’s contribution to stopping global warming」の中で2050年にネットゼロを追求すべきと勧告している。この中で①Coreシナリオ(2050年にCO2を80 %削減)②Further Ambitionシナリオ(2050年にCO2を96 %削減)③Speculativeシナリオ(2050年にCO2をネットゼロ)の3つのシナリオがあるが、②と③シナリオの産業、農業、航空、重量貨物輸送、民生熱需要等の脱炭素化が難しい分野で削減できなかったCO2を物理的に排除するための技術として定められている、非常に重要な技術なのである。
 ネットゼロにしていく野心的な展開ではあるが、実際に予算を割き、政府主導でプロジェクトを創出していくこの姿勢が多くの国に意識が伝播していくと期待したい。

[ⅰ] £102 million government backing for nuclear and hydrogen innovation in the UK - GOV.UK (www.gov.uk)
[ⅱ] https://www.mhi.com/jp/news/210610.html
[ⅲ] https://www.global.toshiba/jp/company/energy/topics/thermal/ccu.html
[ⅳ] https://www.gov.uk/government/consultations/business-model-for-power-bioenergy-with-carbon-capture-and-storage-power-beccs
[ⅴ]https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1099789/power-beccs-project-submission-guidance.pdf