炭素除去の商業化促進を図る制度的枠組み「GGRビジネスモデル」を英国政府は発表 ~最大50%のCAPEX補助金、5%のインセンティブの支援を展開~

(文責:坂野 佑馬)

 2025年8月27日、英国政府は炭素除去(GGR:Greenhouse Gas Removals、日本ではCDR:Carbon Dioxide Removal の表記が一般的)の商業化促進を図るための制度的枠組み「GGRビジネスモデル」の詳細を公表した[i]。差金決済取引(CfD:Contract for Difference)の方法論に基づき、15年間に渡りGGRクレジットの販売収入を保証する仕組みを導入し、直接空気回収・貯留(DACCS:Direct Air Carbon Capture and Storage)やバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS:Bioenergy with Carbon Capture and Storage)の普及を後押しする狙いである。

 本稿では、GGRビジネスモデルの概要を紹介させていただく。

GGRビジネスモデルの概要

  • 差金決済取引(CfD:Contract for Difference)

 GGRビジネスモデルは差金決済取引を基に設計している。契約期間は15年間で、GGRを実施する事業者(以下、GGR事業者)がクレジットを販売した際に基準価格(Strike Price;図1の緑線)と市場価格(Reference Price;図1の紺線)の差を英国政府と相互に精算する仕組みとなっている(図1の緑塗)。つまりは、市場価格が基準価格より低ければ政府が差額をGGR事業者へ支払い、逆に市場価格が基準価格より高ければGGR事業者が政府に返金するということである。
 さらに、GGR事業者がGGRクレジットを高価格で第三者に販売した場合、5%の追加報酬を支給する「価格発見インセンティブ制度(PDI:Price Discovery Incentive)」も設けられた。これはGGR事業者が単に補助金に依存せず、市場でプレミアムを確保するよう促す仕組みである。

図1. GGRビジネスモデルにおける差金決済取引(CfD:Contract for Difference)イメージ図
※ PDIは図が複雑化するため省略

出所: UK DESNZ「Greenhouse Gas Removals (GGR) Business Model summary」の図をBCJにて翻訳

  • 費用構造

 基準価格にはCAPEX(資本的支出:将来の成長や資産形成のために行う設備投資などの支出)、OPEX(事業運営費:日常的な事業運営に必要な維持費や人件費などの経常支出)、そして一定の投資利益率が含まれる。政府はCAPEXの中でも主に炭素捕集設備などの導入費用を支援対象とし、モニタリング・検証設備も例外的に認め、CAPEXの最大50%まで支給することができる。この補助金は事後精算方式で支払われ、政府機関が支出内訳を確認した後、承認された範囲内で支給される。OPEXはプロジェクトごとに詳細が異なるため、交渉過程で項目別に検討し支援の可否を決定することとしている。
 また、プロジェクトのDEVEX(初期開発費用:事業化に向けた調査・設計・開発・試運転などに要する開発投資費用)も一部支援対象としている。これには環境影響評価、土地賃貸契約、基本設計などが含まれ、プロジェクトが最終投資決定(FID)に至らなかった場合は支給されることはないが、承認された場合には基準価格に反映される。これは開発リスクを軽減し、民間の早期参加を促すことを図る措置である。
 さらに、この制度にはCO₂輸送・貯蔵(T&S; CO2 transport and storage  図1の黄線)費用を全額補償する仕組みが含まれている。GGR事業者がCO₂輸送・貯蔵ネットワークを使用する際に発生する各種費用を政府が別途支援することで、不確実な費用負担を軽減するように設計されている。
 なお、補助金の過剰支給を防ぐために、補助金の上限制度を導入している。契約前期間内に支給される総額には上限が設けられ、年間の上限も設定されており、超過分は支給されない。

  • 評価基準と検証体制

 英国政府は全てのGGRクレジットが評価基準「UK GGR Standard(開発中)[ii]」に準拠することを求めている。この評価基準は炭素除去量の算定、モニタリング・報告・検証(MRV)、漏洩防止、ライフサイクル境界設定などの科学的根拠に基づいた基準を含んでおり、詳細基準は英国標準協会(BSI)が開発中である。ちなみに、BSIは既にDACCS・BECCSに関して評価基準を開発しており、プロジェクトが実際に大気中のCO₂を除去したことを証明するための最低条件を示している。

  • プロジェクト実施要件

 GGR事業者は契約締結後20営業日以内に法的・技術的書類を提出し、18ヶ月以内に全費用の10%以上を実際に執行する必要がある。また、運営開始前には最小炭素除去能力を証明しなければならない。運営開始後も継続的な性能試験が行われ、基準を満たさない場合は補助金支給が停止され、契約が解除される可能性がある。

  • リスク管理

 CO₂輸送・貯蔵ネットワークの開発遅延があれば契約期間が自動延長され、利用不可な状態が長期に及ぶ場合は契約を打ち切ることが可能となる。契約打ち切り時には事前に決められた計算式に基づいてGGR事業者が一定の補償を受けることができる。また、法的変更でプロジェクト運営が不可能となった場合も、相互補償や契約解除ができる規定が含まれている。
 同一費用に対して二重支援を防ぐため、BECCSのようにエネルギーや燃料を共同生産する場合、一部収益が補助金から差し引かれる可能性がある。

 此度の発表を前に、英国政府は2025年7月21日の段階で、2029年末にUK-ETS(英国の排出権取引制度)へGGRの仕組みを統合すると発表している[iii]。GGRによって創出された「除去枠」を排出権と同等のものとして取り扱うというものである。GGRによって「除去枠」が1トン創出されるごとに、市場に供給される通常の「排出枠」を1トン削減することで、市場全体の排出枠の総量を維持して炭素価格の暴落を防ぐ。
 英国では、GGRの商業化へ向けた準備が着々と進んでいることが伺える。GGRは依然として未成熟な技術であると言えるだろう。世界全体で、洋上風力発電プロジェクトが停滞気味であるが、コスト増大が主な原因の1つである。同様にコスト面での不安を抱えるGGR技術を成熟させていくためには、英国の「GGRビジネスモデル」のような多層的に資金援助していくような仕組みが必要なるのではないだろうか。同支援策が適切に機能していくかどうか、今後の展開を見定めていきたい。

引用

[i] https://www.gov.uk/government/publications/greenhouse-gas-removals-ggr-business-model#full-publication-update-history

[ii] https://standardsdevelopment.bsigroup.com/projects/9025-12298?utm_source=Web&utm_medium=Knowledge&utm_campaign=uk-ks-strgy-strgc-energy-sus-other-mp-bsiflex2006v1.0-0025&pi_content=e5d6392466a6473829aeea24d11962964a6fcab29ba1ef4c01305e2659031877

[iii] https://www.gov.uk/government/consultations/integrating-greenhouse-gas-removals-in-the-uk-emissions-trading-scheme