南オーストラリア政府がホワイト水素の採掘や水素貯蔵を牽引へ

(文責: 青野 雅和)

 これまで、3回にわたりホワイト水素に関して動向をお伝えしておりますが、本稿ではホワイト水素の試掘が活発化している、オーストラリアの状況をお伝えすることと致します。

■南オーストラリアにおけるホワイト水素探査の展開の背景

 オーストラリアで水素に関し、日本と接点を多く持っている州はクイーンズランド州ですが、ホワイト水素に関しては、主に南オーストラリア州での開発が進んでいる状況です。2021年2月にPetroleum and Geothermal Energy Regulations 201(2013 年石油および地熱エネルギー規制)が改正され、Petroleum and Geothermal Energy Act 2000(PGE 法)に基づいて、「水素、およびその化合物と副産物」を同法の対象とすることを宣言しました。同法に基づき、企業は石油探査ライセンス(PEL:Petroleum exploration licence)を通じて天然水素の探査を申請できるようになり、水素または水素化合物の輸送は、PGE法の輸送パイプラインライセンス規定に基づいて許可されるようになっています。尚、同州はホワイト水素の探査の他に、炭素回収と貯蔵、水素生成、地熱エネルギーなど、同州のエネルギー転換に合わせた機会も提供しています。

■天然水素を対象としたPELの状況

 南オーストラリア州における探査ライセンスの申請は 2 つの方法で行うことができます。1つは競争入札地域内(CTR: Competitive Tender Region[i])の地域のライセンス申請に対する入札に応じる方法、もう1つは競争入札地域外の地域の申請によるものです。石油、天然水素、地熱エネルギー、ガス貯蔵の可能性のある一部の盆地(ポルダ盆地、アローウィ盆地、アルカリンガ盆地など)は、 2022 年末にCTR地域となっています。
 最初の PEL は、2021 年 7 月に Gold Hydrogen社に付与されました。Gold Hydrogen社は2023年10月11日に1931年に掘削され最大84%の水素を記録したラムゼイ石油シンジケート・ボアの近くのRamsay 1の採掘井戸で、水素噴射を確認しました。また、2023年11月にRamsay2で総深さ1068メートルまで掘削しています(Ramsay1は約500メートルの深さ)。その後、同社は2023年12月6日にオーストラリア証券取引所に対し、水素とヘリウム(6.8%)の高い含有量が測定されたと発表しています。もう一つのPELはH2EX社が2022年6月に691で取得しています。PEL691は南オーストラリア州のエア半島に位置し、その面積は約 6000km2と広大です。同社はオーストラリア政府から863,000豪ドルの補助金を獲得し、オーストラリア国立科学庁 (CSIRO)とは研究契約を締結し、2023 年 5 月に水素とヘリウムを検出するためのガス土壌サンプリングをCSIROと採掘しています。
 その他アデレード大学、オーストラリア国立大学、Black & Veatch[ii] と協力関係を築いています。
 南オーストラリア州によると、天然水素を対象としたPELに関して合計40件以上の申請が提出されており、申請が出されている地域をPELA(Petroleum exploration licence application)と呼んでいます。

■水素の貯蔵プロジェクトライセンス

 また、南オーストラリア州では水素の地下貯蔵も可能となっており、一部の水素探査者は、PELAのプロジェクト領域で水素の権利を確保するためにガス貯蔵探査ライセンス(GSEL:Gas Storage Exploration Licence)を申請しています。[iii] 欧州や北米では塩岩窟で水素を貯蔵するプロジェクトが多数存在していますが、南オーストラリア州ではクリーンエネルギーの技術会社であるentXが、ポート リンカーンの北 170 キロメートル、エア半島内のポルダ盆地内にある自然に発生する大規模な塩鉱床の上に位置する「Western Eyre Green Hydrogen Storage」において2022年からGSEL 781を取得しています。同プロジェクトでは洞窟の開発に適した塩分を含む地層を対象とした活発な探査プログラムが推進されており、最近の報告書では、直径60メートルから100メートル、深さ1650~2000メートルの範囲の円筒形洞窟のポルダ盆地の洞窟貯留能力が、240GWh~665GWhであることを示していると説明されています。[iv]

図1. 天然水素をターゲットとした PEL の申請サイト

出典:Government of South Australia HPより

■オーストラリアにおけるホワイト水素採掘のライセンス申請企業

 オーストラリアでホワイト水素を採掘するためにPEL及びPELAを取得している企業を以下に参考として示します。水素の採掘企業はエネルギー会社及び炭鉱や石油採掘、ドリリング企業をパートナーにしている企業もあり、また、下記企業に投資を行っているファンドも存在します。

表1. オーストラリアのホワイト水素採掘企業と主なプロジェクトサイト

引用

[i] https://www.energymining.sa.gov.au/industry/geological-survey/mesa-journal/news-items/new-competitive-tender-regions

[ii] カンザスシティ都市圏に拠点を置く世界的なエンジニアリング、調達、コンサルティング、建設会社

[iii] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://sarigbasis.pir.sa.gov.au/WebtopEw/ws/plans/sarig1/image/DDD/204224-056

[iv] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.publish.csiro.au/aj/pdf/AJ22153