ドイツはモビリティの燃料として水素やe-fuel、HVO等を積極活用へ

(文責:坂野 佑馬)

 読者の皆様には既にご存じの方も多いかもしれないが、EUが2021年7月より推進してきた「2035年内燃機関搭載車の生産禁止」の規制化が、去る2月27日にドイツが異議を唱えたことにより承認が延期した。ドイツ側の具体的な要望としては、「2035年以降の合成燃料(e-fuel)を活用した内燃機関搭載車についての販売継続」の承認であった。イタリア、ポーランド、ブルガリア、チェコも反対の意向を示し、欧州議会との暫定合意後に加盟国が異議を唱える異例の事態に陥いる状況となった。結果的には、3月25日をもって欧州委員会(EC)とドイツ政府が2035年以降も内燃機関搭載車の販売を認めることで合意したとの報道がなされている。
 ここでEVの代替役として登場するe-fuelに関して、簡単な説明をさせていただく。e-fuelとは、CO₂とグリーン水素を用いた合成燃料で、ガソリンや軽油などの代わりとして期待されている脱炭素燃料である。以下に製造方法ごとに分類して示す(図1)。

図1. 合成燃料・e-fuel の製造方法

出所:資源エネルギー庁「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの研究開発・社会実装の方向性(案)」よりBCJ作成

 ドイツ政府はe-fuelやHVO(水素化植物油) 等の合成燃料について、ドイツ国内では「給油所での100 % 合成燃料販売の承認」により利用促進を図っている。この承認案は2023年3月3日にドイツ連邦運輸大臣が発表したものであるが、ドイツ国内においては今まで最大26 % までの含有率の混合燃料のみ限定的に販売が認可されていた。
 同承認案に対し、フィンランドの再生可能燃料メーカーであるNeste は歓迎の意向を示している。同社は、廃棄物や残渣、革新的な原材料から再生可能燃料やプラスチックなどの持続可能な製品の製造を行っており、HVOに関しては「Neste MY Renewable Diesel™(以下、Neste MY と表記)」※1という使用済み食用油や食品産業廃棄物の動物性脂肪など、持続可能な方法で調達された再生可能原料を100%使用したHVOを販売している。Neste MYは化石ディーゼルと比較して、ライフサイクル全体で75~95%もの温室効果ガス(GHG)排出量を削減することが可能で、混合比率を調整することで全てのディーゼル燃料流通インフラに適合させることができる。

 また、ドイツはe-fuel やHVO等の合成燃料だけでなく水素の物流やモビリティへの活用に関しても、意欲的である。
 2020年にドイツ政府は国家水素戦略(NWS)を発表し、エネルギー転換と気候保護において水素が果たすべき役割を明確にした。並行して、ほぼすべての連邦州が独自の水素戦略を立ち上げている。各州の戦略は、その範囲や詳細度合いが異なる。大まかな次のステップを発表するだけのものもあれば、ポテンシャル分析とともに詳細で長期的なプロジェクトを形成するものもある。物流部門においては、重量物輸送、航空輸送、水上輸送においてより水素の重要性が高いと捉えている傾向にあるようだ。下記の表には各州の水素計画における対応セクターを示したが、多少の差はあれども、等しく物流やモビリティにおいて水素を活用していくという方針であると見て取れる(表1)。

表1.  各連邦州における水素計画推進セクター

出所:ドイツ再生可能エネルギー庁の資料よりBCJ作成

 世界全体においてEVシフトによってモビリティ市場がEVに寡占される未来を予想していた人も多いと思うが、ドイツの再生可能燃料の普及拡大へ向けた働きかけは一石を投じるものになっていると考える。今後、モビリティ部門における競争は複雑化していくことが予想され、絶えず最新の情報を仕入れアップデートしていくことがより重要になってくるように思う。弊社Newsにおいてはかねてより水素や再生可能燃料に関する情報を発信しているが、今後も読者の皆様へ鮮度の高い情報を提供していきたい。

引用

※1: https://www.neste.com/products/all-products/renewable-road-transport/neste-my-renewable-diesel#0e0232d8