米国、EUでは2023年からグリーン水素製造者に手厚い支援を開始
~クリーン水素税額控除とグリーン水素製造者「固定プレミアム」~

(文責:青野 雅和)

 米国は2022年8月16日に公表されたthe US Inflation Reduction Act 2022において、財務省は「クリーン水素税額控除:Clean Hydrogen Production Tax Credit」を定めた。クリーン水素税額控除は化石燃料由来のブルー水素よりも再生可能エネルギーで作られたグリーン水素を製造する事業者に有利に働くよう設計されている。
 クリーン水素税額控除では、ライフサイクル排出量とスタッフの賃金のレベルに応じて、2023年から「クリーン水素」生産者は1kgあたり最大3ドルを生産者に支払う税額控除か、水素生産施設のコストの最大 30% の投資税額控除を選択できるようになる。

 なお、控除額は水素の製造時の温室効果ガスの排出量に応じて設定される。基本控除額は、水素1kgあたり0.60 ドルであり、20%から100%の範囲で適用率を乗じた額となる。適用率は以下の通り。

  • 水素1kg /0.45~1.5 kgCO2e :33.4%
  • 水素1kg /1.5-2.5  kgCO2e :25%。
  • 水素1kg /2.5~4k    kgCO2e :20%

 一方、EUは上述の米国のクリーン水素税額控除に対抗するため、2023年2月1日に、グリーン水素製造者に「固定プレミアム」を提供することとなった。固定プレミアムの金額は未定。 
 欧州委員会は米国と「競争条件を同じにする」ことを目的としており、水素のkg単位に応じて補助金を提供する入札を2023年の秋に開始する計画だ。
 最初の入札には約8億ユーロ(1120億円)分がEUの380億ユーロのイノベーション基金の支援のもとで実施される予定である。入札は、EUの水素銀行が、化石ガスを原料とするグレー水素と再生可能エネルギーを原料とするグリーン水素との価格差を縮めることを目的とした差金決済(Contract for Difference:取引結果の差額を取引する)制度の一環として、資金を配分するための手段として活用される予定。入札条件は6月に発表される予定とのこと。

 既にEUはロシアのウクライナへの侵攻を踏まえて、2030年までにロシアの化石燃料への依存を脱却する「REPowerEU」計画を2022年3月8日に発表し、既にロシアからのエネルギー依存は脱却したと欧州委員会のvon der Leyen 委員長は述べている。
 今回の米国との競争を意識したEUのグリーン水素製造者へのプレミアムの提供の発表は、EUの技術の向上と技術流出を回避することに起因していることは間違いない。
 因みに、水素プレミアムもクリーン水素税額控除の双方は日本において存在していない。ロシアによるウクライナ侵攻にクローズアップされるエネルギーの調達自体が日本ではクローズアップされるが、米国およびEUでは既に前述のようにグリーン燃料製造を推進する財政面の政策が展開されている。日本ではSAFの国産化が推進されている最中であるが、財政面からグリーンエネルギーセクターを主導する動きを創るべきであると考える。日本政府に期待したい。


https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2022/12/Inflation-Reduction-Act-Guidebook.pdfを参照されたい

ⅱ 欧州委員会の議長である Ursula von der Leyenが2022年9月に発表した欧州水素銀行の創設を指す。イノベーション ファンドから水素経済に30億ユーロを投資することで、水素の購入を保証する。

「REPowerEU」計画: ロシアからの天然ガスを含む化石燃料への依存解消に舵を切るEU - BAUM Consult Japan