2050年までにネットゼロ航空を目指す英国政府、Sustainable Aviation Fuel:SAF(持続可能な航空燃料)の開発が加速へ
~British Airwaysは大規模SAF生産を推進する企業間でのパートナーシップを締結~

(文責:青木 翔太)

 2022年7月19日、英国運輸省(Department for Transport:以下DfT)は、航空部門の脱炭素化に向けた政策として、2050年までにネットゼロ航空を目指す「ジェットゼロ」戦略を発表した。※1同戦略は、(1)目標、(2)原則、(3)施策、の主に3つ要素で構成されており、各項目の概要は以下となる。

(1)目標
・中間目標として、2040年までに国内での航空輸送をネットゼロにし、航空機からの温室効果ガスの排出量をCO2換算で2030年に35.4Mt、2040年に28.4Mt、2050年に19.3Mtまで削減する。

(2)原則
・国際的なリーダーシップを発揮して、国際間の航空輸送における排出量削減の取り組みを主導する。
・航空業界のあらゆる部門やパートナーと協力し、温室効果ガスの削減に必要なソリューションの開発、試験、実行、投資を行う。
・ジェットゼロへの移行という機会を利用して、国内経済の活性化、新規雇用の創出、エネルギー安全保障の強化を目指す。

(3)施策
 ジェットゼロの移行に向けて、以下の施策に焦点をあてる

・空港、空域、航空機を含む既存の航空システムの効率化を図る。
・国内におけるSAF関連産業を構築する。
・CO2を排出しないゼロエミッション航空機の開発を行い、商業運航を図る。
・削減しきれない温室効果ガスの除去技術に対して投資を行う。

 なお、(3)施策の一つとなっているSAFについては、2030年までに航空燃料におけるSAFの導入比率を少なくとも10%にすることが航空会社に義務づけられる。

 このような英国政府の発表に呼応するように、英国最大の航空会社British Airways(以下BA)が国内におけるSAF開発で新たな展開を見せている。2022年11月2日、BAは、三井物産が出資している米国のSAF製造事業者LanzaJetと英国の廃棄物処理事業者Nova Pangaea Technologies(以下:NPT)との間で、国内におけるSAFの大規模生産を推進するパートナーシップを締結した。※2 3社は、英国での商用利用を目指すSAF開発プロジェクト「Project Speedbird」を2021年に発足し、これまでに実現性に関して調査を実施している。この調査は、DfTが管轄する国内SAF開発助成プログラム「Green Fuels, Green Skies(GFGS)」の補助金の対象事業となっており、約50万ポンド(約8,500万円,1ポンド=約170円:2022年11月10日現在)の支援を受けている。※3同社は、今回の契約締結によって、「Project Speedbird」を実証段階に進めることができるとしている。

 「Project Speedbird」では、農業廃棄物や木材廃棄物といった持続可能な資源から年間1億200万リットルのSAF生産が見込まれている。農業廃棄物と木材廃棄物を利用する英国初のSAF生産施設は、早ければ2023年からイングランド北東部で建設が開始され、2026年までに生産が開始される予定となる。BAは、「Project Speedbird」を通じて生産されるすべてのSAFを調達し、同社の一部のフライトに使用することで、同社のライフライクル全体において年間23万トンのCO2排出を削減することを目指すとしている。これは、同社の国内線の約2万6,000便でのCO2排出量に相当するものとなる。同社はまた、SAF生産の連産品となるバイオディーゼル燃料、及び農業廃棄物と木材廃棄物が処理された後に残るバイオ炭の利用によって、年間で最大77万トン(SAF生産による削減を含む)のCO2排出を削減できる可能性もあるとしている。NPTの最高経営責任者であるSarah Ellerby氏は、「英国政府は、2030年までに航空燃料の10%をSAFにすることを航空会社に義務づけるジェットゼロ戦略を発表しました。今回の合意は、この義務を果たすための重要なステップです。私たちの目標は、英国がSAF市場においてグローバルリーダーとなり、その結果として、雇用と企業活動に利益をもたらすことです。」と述べ、「ジェットゼロ」戦略の原則に沿ったプロジェクトであることを強調している。

 また、英国では、2023年末までにSAFのみを利用した世界初の大西洋横断飛行が計画されている。※4 DfTは、この計画を通じて、SAFの認証手続きと研究に繋がるデータの収集や、SAFのみを利用した商用航空機の実現性を検証する予定だ。

 世界のSAFの現状に目を向けてみると、世界のSAF供給量は、世界のジェット燃料供給量のわずか0.03%(2020年時点で6.3万キロリットル)となっている。世界のSAFの需要は、2050年に世界のジェット燃料の90%(4.1~5.5億キロリットル)迄に増加することが見込まれている。※5フィンランドや米国、本稿の英国のみならず、日本でもSAF開発が進んでおり、各国でSAF開発が具体化しつつある。航空燃料がSAFにゲームチェンジすることで、船舶のバイオ燃料の活用や自動車での電化一辺倒の動きに変化が生じてくるであろう。

参考資料

※1 

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1095952/jet-zero-strategy.pdf

※2 

https://mediacentre.britishairways.com/news/02112022/british-airways-lanzajet-and-nova-pangaea-technologies-move-one-step-closer-to-large-scale-production-of-sustainable-aviation-fuel-in-the-uk?ref=News

※3 

https://ee.ricardo.com/gfgs

※4 

https://www.gov.uk/government/news/first-ever-net-zero-transatlantic-flight-to-take-to-the-skies-in-2023

※5 

https://aviationbenefits.org/media/167418/w2050_v2021_27sept_summary.pdf