~米国は洋上風力発電を加速化する:米国の洋上風力戦略、その命運を左右するEUとの大西洋横断パートナーシップ~

(文責:河北 浩一郎)

 バイデン政権発足後、気候変動対応に大きく舵を切った米国は、洋上風力発電導入を拡大する方針を掲げ、2030年までに30GWの導入を目標としている。一方、EUの目標は更に高く、少なくとも同年までに60GWを導入するとしている。2021年迄に24.5GWを導入しているEU※1と野心的な目標を掲げている米国が、大西洋を横断するパートナーシップにより脱炭素化を加速化させる決意を示している。

 2022年4月27日、米国エネルギー省(以下、DOE)は、アトランティックシティ(米国ニュージャージー州)で、DOEのグランホルム長官とEUのシムソンエネルギー担当委員が、「米欧エネルギー協議会ハイレベル・ビジネス・フォーラム」を共催したと発表した※2。本フォーラムの目的は、洋上風力プロジェクトへの投資及びグローバルなサプライチェーンの構築による、米国内における洋上風力生産拠点の開発を加速させるための各種施策について、米欧の民間企業及び政府指導者間で議論することである。

 本フォーラム開催にあたり、グランホルム長官は、「(冒頭の)野心的目標の達成が、米国のエネルギー安全保障、気候変動対応及び7万人以上の新規雇用、の三拍子揃った成果を生む」ことを強調し、「本フォーラムの開催は、米国が、国内における風力発電への投資を加速化させる‘大西洋横断パートナーシップ’に専心していることを示している」、と続けた。

 他方、シムソンエネルギー担当委員は、「米国とEUのエネルギー安全保障とカーボンニュートラルには、大西洋を横断する巨大なビジネスチャンスがある。パートナーである米国と共に、この機会をサポートする用意がある」と、大西洋横断パートナーシップの意義を強調した。

 尚、本フォーラム併催の”The International Offshore Wind Partnering Forum(IPF)”の主催者である、“Business Network for Offshore Wind※3”は、「州政府及び連邦政府は、米国内の洋上風力開発の拡大の為に必要なあらゆる方策の検討を約束する」と述べたと伝える。重ねて、民間投資を支援する為には、政府による補助金が不可欠であることを提言している。また、「洋上風力において、世界のリーダーであるEU及び先進技術を有するEUの企業との連携が、国内の企業による開発を加速化させる」と述べ、大西洋横断パートナーシップに期待を寄せる。

 さて、米国の洋上風力戦略※4の概要について、補足しておく。現在、米国で稼働している洋上風力は、”Block Island Wind Farm(30MW:ロードアイランド州、2016年供用開始)”及び”Costal Virginia Offshore Wind Pilot(12MW:バージニア州、2021年供用開始)”の2サイトのみであり、その容量は、併せて僅か42MWである。現在、建設中のプロジェクトはマサチューセッツ州沖の”Vineyard Wind 1※5。でその容量は800MWと、米国最大規模のサイトであり、2023年の運転開始を予定している。尚、DOEは、36のプロジェクトをリストアップしている。以下に各州のサイト数及び導入予定容量を示す。

表 DOE公表の各州で推進されている洋上風力発電サイト数と導入発電容量(予定)

サイト数導入 発電容量(予定)建設中の発電容量稼働済みの発電容量
メイン州112MW--
マサチューセッツ州86,808MW800MW-
ロードアイランド州3834MW-30MW
ニューヨーク州711,877MW--
ニュージャージー州23,600MW--
デラウェア州21,170MW--
メリーランド州1966MW--
バージニア州23.640MW-12MW
ノースカロライナ州33,735MW--
サウルカロライナ州4不明--
オハイオ州121MW--
カリフォルニア州3不明--
ハワイ州2不明--

※DOE公表資料を基に、弊社にて作成

 サイトの多くが、比較的遠浅の海域である大西洋に面した東海岸に位置している。ちなみにこれらのサイトは、着床式である。一方で、容量は公表されていないものの、潜在的ポテンシャルが高い大陸棚による急峻な海岸線が続く西海岸にカリフォルニア州の浮体式洋上風力発電プロジェクトも計画されている。DOEによると、米国内における洋上風力の潜在発電量の約6割は、技術的に難易度が高く、コスト面においても採算がとりにくい浮体式の新海域に存在する。そのため、米国の浮体式洋上風力発電の市場規模が大きくなると予想され、浮体式洋上風力発電に集中投資を行うことで世界的なリーダーとなれる可能性があると追記している。

 既に24.5GWの洋上風力を有するEUは、言うまでもなく、同分野において世界的リーダーとして確固たる地位を築いている。一方で、洋上風力セクターとしては新興国に位置づけられる米国の、同国内に対する洋上風力のサイト開発への専心は、脱炭素化への決意を示すものと言えよう。従い、政府による適正な財政支援の元、EUの知見が米国へ移転されれば、米国内の風力発電サプライチェーンの構築は実現可能と推察する。脱炭素化、洋上風力の国内生産、新産業による新たな雇用創出、更には浮体式の開発を志向する米国の洋上風力戦略の成否は、大西洋横断パートナーシップに大きな比重を占めることになるかもしれない。

※1:WindErope資料よりBAUM作成
https://windeurope.org/intelligence-platform/product/wind-energy-in-europe-2021-statistics-and-the-outlook-for-2022-2026/

※2:https://www.energy.gov/articles/us-eu-high-level-business-forum-offshore-wind-power

※3:米国の洋上風力産業及びサプライチェーンの発展を目的とする非営利団体。
https://www.offshorewindus.org/about-us/

※4:https://www.energy.gov/sites/default/files/2022-01/offshore-wind-energy-strategies-report-january-2022.pdf

※5:https://www.vineyardwind.com/