2023年にEUで非財務開示指令が改定へ
(文責:坂野 佑馬)
弊社ドイツのB.A.U.M. Consult GmbH を設立したB.A.U.M. e.V. の会長を務めるIvonne Zwick氏は2021年11月より、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG:European Financial Reporting Advisory Group[i])で中小企業専門のワーキンググループ(WG)の一員に任命された。
2021年4月に欧州委員会(EC)は、現行の非財務開示指令(NFRD:Non-Financial Reporting Directive)に代わる企業持続可能性開示指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive[ii])についての議案を提出した。CSRDでは、開示基準であるESRS(Europe Sustainability Reporting Standards[iii])に従い非財務情報の開示を行うことを指令対象企業に義務づけている。ECはCSRDの導入にあたって、NFRDでの反省点である「開示情報の質が統一されておらず、比較が難しくなってしまった。」事象を活かすべく、ESRSを策定することを決め、EFRAGに委託した。
EFRAGは様々な分野の専門家によって構成されるタスクフォース(PTF-ESRS:Project Task Force - Europe Sustainability Reporting Standards)を編成し、更にその中に11のセクターに分かれた複数のWGを立ち上げた。その1つである中小企業専門WGにIvonne Zwick氏は任命されている。ESRSは2022年6月までに作成され10月の議会で採択後、2023年度より実装される予定となっている。
ECはCSRD(案)について、以下の3つの事項を重要なポイントとして挙げている。
- 適応対象企業の拡大
大企業及びEUの規制市場に上場している企業の全てを適用対象とするとしている。大企業の定義は、以下の3条件の内2つ以上を満たす企業である。
・ 純売上高4,000万ユーロ以上
・ 貸借対照表の合計が2,000万ユーロ以上
・ 従業員数が250人以上(年度平均)
2.Double Materiality(2つの重要性)に則った開示請求
EUが2019年に発表した非財務報告ガイドライン[iv]の中で、「財務的マテリアリティ」と「環境・社会的マテリアリティ」の2つが重要であると示された。これをDouble Materialityと呼ぶ。
財務的マテリアリティは企業が環境・社会から受ける影響を評価する上で重要な事項とされており、投資家の意思決定を大きく左右するものである。一方で、環境・社会的マテリアリティとは企業が環境や社会へ与えるインパクトを理解する上で必要な事項という解釈であり、投資家だけでなく消費者や市民、従業員等の様々なステークホルダーにとっても重要な情報である。
CSRD(案)では、財務的マテリアリティ(企業が環境・社会から受ける影響)と環境・社会的マテリアリティ(企業が環境・社会へ与える影響)の双方を注視し、情報開示を求めるとしている。
3.第三者保証による信頼性の確保
ESRSでの開示基準に加えて、EUの環境管理監査制度(EMAS)[v]や各国の非財務情報開示基準に基づく監査を要請することで開示情報の信頼性を確保するとしている。
CSRDは欧州グリーン・ディール[vi]における持続可能な資金調達に関する政策パッケージの一環として発表されている。ECは「適切な開示基準を設けることが、ESG投資を今まで以上に活性化させることに繋がり、それが結果的に有効な環境対策の開発・発展に結びつく」と期待していると推察する。今回のCSRDの改定事項であるESRSの追加により、欧州企業のサスティナビリティ報告の質は更に向上していくであろう。
[i] EFRAG _HP
[ii] 欧州グリーン・ディールにおける持続可能な資金調達に関する政策パッケージ。
[iii] EFRAG_ESRS中間報告書(2021年11月)https://www.efrag.org/Assets/Download?assetUrl=%2fsites%2fwebpublishing%2fSiteAssets%2f20211015%2520PTF-ESRS%2520status%2520report%2520(final).pdf
[iv] EU_Guidelines on non-financial reporting: Supplement on reporting climate-related information
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52019XC0620(01)
[v] 1993年にECによって開発された自主的な環境管理手段。
https://ec.europa.eu/environment/emas/index_en.htm
[vi] EC_A European Green Deal
https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en