食品廃棄物由来のGHGは世界全体の10%を占める。廃棄の6割が家庭由来のドイツ
~2030年までにフランス・イタリアに続き効果的な施策を打てるか~
(文責:青木 翔太)
2022年7月1日、連邦環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省と連邦食糧・農業省は、国内における2020年の食品廃棄物量が約1,100万トンになったことを共同発表した。※1図1に示すように、発生源の構成比では、家庭が全体の約6割を占める。連邦統計局によると、ドイツの家庭では2020年に1人当たり約78kgの食品が廃棄されている。
図1. ドイツの食品廃棄物における発生源の構成比(2020年)
出展:連邦統計局の資料を基にBCJ作成
ここで、世界における食品廃棄物の現状について触れたい。国連環境計画(UNEP)が2021年3月4日に発表した「FOOD WASTE INDEX REPORT 2021」※2によれば、2019年における世界の食品廃棄物は推定9億3,100億トンとなる。これは、消費者が入手可能な食品総量の約17%に相当する。発生源については、ドイツ同様、家庭が約6割を占める。世界全体では、1人当たり毎年約121kgの食品が廃棄されており、そのうち74kgが家庭で発生している。食品廃棄物という言葉を聞いた際に、事業者による大量廃棄を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。しかし実際には、家庭から発生する食品廃棄物が非常に多いことが分かる。また、同レポートによると、食品の廃棄による温室効果ガスの排出量は、世界の温室効果ガスの8~10%を占めるとのことである。食品廃棄物は気候変動にも影響を及ぼす要因の一つとなっている。
さて、話をドイツに戻す。1人当たりの食品廃棄物量が多いドイツにおいて食品廃棄物の削減を対象とした数値目標を伴う計画は設定されていない。これまで政府が行ってきた取り組みとして、連邦食糧・農業省が主体に展開した一般家庭に対して食品廃棄物の削減を呼びかける啓蒙活動※3の「Zu gut für die Tonne(捨てるには良すぎる)」キャンペーンが行われてきた。消費可能範囲を超える食料品の購買や、賞味期限への過剰な意識が家庭における食品廃棄の問題点であるとして、連邦食糧・環境省は、購買行動や食生活における意識を変革するよう提言を行っている。また、ホームページ上では、食べ残しの調理方法や食品廃棄を減らすための買い物のポイント等を公開している。
食品廃棄物の問題は世界中で議論されており、各国で様々な解決策が展開されている。中でも、フランスは2016年2月に世界初で初めて「食品廃棄物削減に関する法律(LOI n° 2016-138 du 11 février 2016 relative à la lutte contre le gaspillage alimentaire)」※4を制定し、世界から注目を浴びた。この法律は、売場面積が400平方メートル以上の大型スーパーでは賞味期限切れなどの理由による食品の廃棄を禁止するものである。廃棄したい食品は廃棄する代わりに慈善団体等に寄付するか、肥料や飼料に転用することを義務付ける。これに違反した場合には、罰金が科せられる。また、イタリアでも2016年9月に「社会的連帯と廃棄物の制限を目的とした食品及び医薬品の寄附と配布に関する法律(Disposizioni concernenti la donazione e la distribuzione di prodotti alimentari e farmaceutici a fini di solidarieta' sociale e per la limitazione degli sprechi)」※5が成立している。上述のフランスの法律とは異なり、罰則はなく、余剰食品の寄付に関する税制上の優遇措置と手続きの簡略化が規定されている。これらの法整備により、両国は余剰食品の寄付が増加し、食品廃棄物の削減が加速したとして、一定の成果を上げることができたとしている。
ドイツでは、前述の通り食品廃棄物の削減を推進する法律が制定されておらず、欧州の他国と比較しても、法律面も含めた体制が充分に確立されていない。今回の発表で、環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省のシュテッフィ・レムテ大臣は、2030年までに国内の食品廃棄物を半減させること目標に掲げるとしている。また、ドイツ政府は、食品廃棄物削減に向けた国家戦略をさらに発展させるとし、すべての関係者とともに、分野別に拘束力を持つ施策で食品廃棄物を削減していくとしている。食品廃棄物の削減に関して、欧州各国でも様々な角度から法律が策定されているが、ドイツではどのような展開となるだろうか。
参考資料
※1 連邦環境・自然保護・原子力安全・消費者保護省(BMUV)
※2 FOOD WASTE INDEX REPORT 2021
https://www.jeijc.org/wp-content/uploads/2021/03/unep21-food-waste-index-report-2021.pdf
※3 Zu gut für die Tonne
https://www.zugutfuerdietonne.de/
※4
https://www.legifrance.gouv.fr/loda/id/JORFTEXT000032036289/
※5
https://www.gazzettaufficiale.it/eli/id/2016/08/30/16G00179/sg